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1.私、迷い込む

私の名前は橘 波瑠。


 普通の大学に通う(友達が極端に少ないところをのぞけば)普通の大学1年生だ。


 ーーー昨日までは。


 今現在、私は森のなかで絶賛迷い中である。

大学からの帰り道、慣れない町の探検がてらに寄り道でもしようと思ったのが運つきだった。


 普段見かけない町並みや風景に気をとられ、自分が運動神経全くなしの女だったということを忘れていた。


 そんな女が長い階段を映画の中の乙女のように駆け降りてみたわけだ。

 足を踏み外すことぐらい容易に想像できるだろう。



 あっ、やべっ、、落ちる。と思ったときには時すでに遅し。

 足は盛大に階段を踏み外し、宙を駆けていた。


 次に来るであろう衝撃に備えるため、私にできたことはせいぜい目をかたくつぶることぐらいだった。


 結局、予想していた地面に叩きつけられるような衝撃はこず、「足を滑らしました」レベルの痛みを受けただけだった。

 

 これはさすがにおかしいと思いゆっくりと目を開けると、目の前に広がるのは街中とはとてもいうことのできない、鬱蒼とした木々や植物であった。




 そんなこんなで、只今、私は森のなかを絶賛迷い中である。


 

 私に「ここはどこ??」とか「家族とはもうあえないの??」とか、「もしかして異世界転移ってやつ?!」とか考えている暇はなかったのだ。

 

なぜなら、目を開けた時の私のそばには日本では見たことのないくらい大きなムカデ?がいたからだ。


 こんな私だって一応乙女だ。あんなに大きな虫がいて冷静になれるはずもなく、ダッシュで駆け出した。

 

 しかし、なんてったって、ここは森。


 そんな虫そこかしこにおり、誰にも会えないことに対する感傷につかる間もなく、いかに虫に接触しないかということにのみ、ただひたすら神経を尖らせていた。



 今は、森の中に湖を見つけることができ、そこで休憩中だ。あらゆる点で異質な湖にではあるが。




 学校の荷物が入っているリュックサックは森のなかにいた時点で消えていたため、そんな怪しい湖のであっても、喉の渇きには耐えられず、ぐびぐびとキラキラ水を飲む、あとはポッケに入っていた一粒の飴をなめながらこれからの事を考える。


 目の前にある、底までしっかり見ることのできる湖と、水の上をチラチラ飛んでいる謎の光の美しさ、加えて、地球では見たことのないような植物やあり得ないほど大きな虫。

 それらが、ここは地球ではないことを嫌でも悟らせる。


 それならばやはり異世界転移であり、ラブロマンスか冒険ファンタジーが始まるのか。とも思ったが、容姿も能力も平凡以下の私がそんなものの主役になどなれるはずもないと結論付ける。

 

 ああいうものは大抵、美少女または平凡?な容姿の女の子がイケメンにちやほやされたり、愛を育んだりするものだ。


 冒険ファンタジーであれば美少女一択であろう(めちゃめちゃ偏見)。

 

 そもそもこれがラブロマンスであれば、今頃、獣に教われた私がカッコいい騎士様やイケメンな木こり(実はこの国の第三王子?!)に助けられているはずだ。

 それなのに今ここにいる残念容姿な私は、大きなムカデを恐れて湖の周りで徹夜している。



 こんなのラブロマンスでたまるか!!

 


そうこう考えていた私は、日が高く昇りはじめたころ、あまりの眠たさに意識を手放してしまった。


◇ ◇ ◇ ◇


「お嬢ちゃん、大丈夫かい??」


 少し低めの声と肩にふれるぬくもりを感じて、うっすら目を開けると、目の前には白髪に青い瞳が際立つ、外国人のように彫りの深い優しげなおばあさんがいる。

 お上品な振る舞いからおばあ様と表したほうが正しいだろう。


「あ、えっと、はい。」


 寝起きだったのもあって、いまいちな返事をしてしまった。

 ふと辺りを見回すと彼女の後ろにはたくさんの薬草と花が乗った荷馬車がある。


 「あんた、こんな危ない場所で何してんだい??行ってくれれば、帰るついでに送ってってやるよ!」

そう言うと、彼女は私の手を引っ張りあげ、体を起こしてくれた。


 送ってくれると言ってくれても、私には帰る場所など何処にもない。

「私、異世界から来ました!!(笑)」

 なんて言ってみろ、頭のおかしな娘だと思われ、謎の施設に入れられる可能性がある。このザ・優しさの塊!みたいなおばあ様がそんなことする確率は低そうだが、私は自らそんな危険を犯していくタイプではないのだ。


 結局、私は、自分がどこから来たのか分からないこと、今自分が何処にいるのかも分からないことなど、この世界の一般常識が無いことを彼女に伝えた。

 すると、彼女の住む村に連れていってくれると言う。出会ったばかりの人にこんなにも頼っていいのかと暫く迷っていたが、私には他に頼る人もおらず、このままここに居ても埒が明かないのでありがたく彼女の住む村に連れて行ってもらうことにした。


 

 道すがら、彼女はこの世界のことを何もわからない私に、様々なことを教えてくれた。


 

 青い瞳のおばあ様すなわちゲーテさんは、この森に薬草と花を摘みに来ていたらしい。

 彼女は近くの村で薬屋を営んでおり、週1回程度でこの森に来ているそうだ。

 薬草摘みの最中、偶然、湖のそばで寝転んでいるわたしを見つけたんだとか。

 この森は魔物がでるほど危険らしく、1人で子供が寝ているのを見て、人さらいにあって逃げ出したのだと思ったのだと言っていた。


 この国において黒髪と黒目という色彩を持つ人はここら辺の人間にはおらず、実際彼女も黒の色彩を持つ人間は見たことがなかったという。



 彼女によるとここはラインベルト王国の南東に位置するイグドラ領である。彼女の住む村はアキド村というそうだ。

 この国では魔物、魔法は当たり前で冒険者、騎士、魔法使いといった職種の人間もいるらしい。日常生活のなかでも魔法を使うらしく、地球でいうと電気にあたるようだった。魔力量の高い人は魔法攻撃や魔法治癒、地形操作など様々なことができるらしい。


 夢にまでみたファンタジー。


 その話を胸をドキドキさせながら聞く私に教えやりたい。






ーーーーー波瑠、お前は魔法が使えぬ。

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