聖なる光は強いのじゃ
ヴォルフは黒い龍を氷漬けにし、距離をとる。
そして、獣人の姿になって魔力を昂らせる。
すると、ふくと同じように全身に赤い紋様が出現し、ヴォルフの身体が銀色に輝く。
「これからがオレの本領発揮だ」
氷漬けの黒い龍に向けて手を翳し、手をぎゅっと握る。
すると一気に大気が縮み、黒い龍の周辺は真空状態になる。
ヴォルフの魔法の範囲内の水分が一気に沸騰を始める。
気圧の低下による沸点の下降で、常温でも沸点が常温に近づくことで液体が沸騰する。
そして、急激に水分が凍り始めた。
ヴォルフの狙いは凍らせることではなかった。
魔法を維持しながら、さらに距離を取ると、光の矢が速度を落とさずに黒い龍に向かって突き進んでいった。
狙いは真空による矢の威力の減少を抑えるためだった。
宇宙空間と地上では人間の感覚で光の速度が微妙に変わる。
抵抗の少ない宇宙空間の方が速く進むことができるため、ヴォルフは真空空間を作り出した。
これは空気中の物質を【絶対】の魔法により、絶対位置を停止させて作り出したもの。
物の動きを止めてしまうと、物は形を維持できなくなり、何も無い物になる。
それは安定した原子や物質であっても逃れられることができない。
光の矢は軌道が逸れることも、速度を落とすこともなく、黒い龍の胸に突き刺さる。
黒い龍は硬い鱗や堅殻にヒビが入り始め、その内側から光が漏れ始め、爆散した。
爆散した鱗や堅殻は非常に危険な物だったが、ヴォルフの魔法の範囲内であるため、速度を失い、霧散して見えなくなった。
黒い龍が立っていたところは【暗黒】に侵食されていたが、ふくの聖なる光の魔法によって浄化され、再び使うことができる土地へと戻る。
二人の前に残ったのは、魔物によって壊された国の残骸だけだった。
「やったの……じゃな……!」
ふくは魔力が残り少なくなり、その場に座り込む。
ヴォルフが神速で戻ってくると、ふくを抱き抱える。
お姫様抱っこの状態ではあるが、ふくの知識ではそれを知らない。
ヴォルフはふくの顔を見てニコリと笑う。
「お疲れ様!」
「……うむ。ぼるふもご苦労様なのじゃ。しかし……早く民の元に行かねばならぬのじゃ……!」
ヴォルフは頷くと狼の姿となり、背中にふくを乗せ、落ちないように尻尾を巻き付ける。
そして、未だに決着のつかない戦地へと走るのだった。
§
セイラはポチおとにゃんと共に国民の避難活動にあたっていた。
「皆さん!落ち着いてください!ゆっくり、怪我のないように城へ向かってください!」
ぞろぞろと町から城へと国民は移動し、最初の被害の時以外は怪我人が出ておらず、セイラは安心する。
粗方、指示を出さなくても、自治活動していたグループが率先して避難活動に参加してくれたため、三人は集まって今後の事を話す。
「こんな大量の不適合者が出てくるなんて、よっぽど実験に焦ってるんだな……!」
「私たちで倒せれば良いのですが……確か黒い靄が出て不味い事になるんですよね?」
「はい……現状、魔物を単騎で倒せるのはふく様。戦闘能力が低いので難しいですが、ライラとガルドも魔物が倒せます。流石に魔物の数に対して、戦える人員が少なすぎます……。ふく様はヴォルフ様が付いているので大丈夫かと思いますが、ライラとガルドが心配です。ここはなんとかするので、援護に向かってもらって良いですか?」
ポチおとにゃんは頷くと、走ってライラたちの元へと向かっていく。
二人を見送った後、避難活動の続きをするため、振り返ると目の前に野狐族の男が立っていた。
「どうされましたか?城はあち――」
セイラは腹部に激痛を感じ、そこに視線を送る。
ガルドの槍と同じミスリルでできた短刀が刺さっていた。
それはセイラが護身用に持っていた物で、野狐族の男はそれを素早く抜き取ってセイラを刺したというわけだった。
鍛治の技術がそれ程発展していないため切れ味が悪い刃物だったが、セイラの腹部を容易く突き刺し、男は刃物をグリグリと動かし、内臓に致命的な損傷を与える。
セイラは激痛に耐えつつ、男の眼を見ると、【命令】の魔法がかけられており、間近にいるセイラを映していなかった。
「……ぐぅぅ……!おね……がい……です……!『彼の者の……心……のしば……りを……解き……たまえ……!』」
【命令】を解呪させる魔法を使い、吐血し、倒れる。
野狐族の男は正気に戻った瞬間、ふくとヴォルフが戻ってくる。
「おいおい……!どうなってる……!?」
「……貴様っ!!どういう事じゃ!!」
ふくは【樹木】の魔法で野狐族の男を縛り上げ、両腕両脚の骨をボキボキという音を立てて、圧し折る。
ふくの顔は憎悪に満ち溢れており、今までのような厳しくも優しい顔ではなかった。
牙を剥き出し、魔力を昂らせ、髪を逆立て、金色の瞳と細長い瞳孔で睨みつけていた。
ヴォルフはセイラの所に行き、傷を見て、処置のしようがない事を悟る。
「鳥の女王……お前もアイツらの所に行くんだな……」
「すみ……ません……。ふく……様に……、つな……ひ……」
「おい……?なんだって……?まだ途中だろ!?……っ!!」
セイラは野狐族の男が【命令】を受けていた事を知らせたかったが、それは叶わず、力尽きて身体が砂のように崩れていった。
その砂の中にはレオンやコリーのように輝く石が残っており、ヴォルフはそれを拾ってふくの傍に立つ。
「ふく、鳥の女王は獅子頭の所に行ったよ……」
「……!……なぜじゃ。なぜ、皆は先に逝くのじゃ!なんでわしを置いて逝くのじゃ……。いやじゃ……一人にしないで欲しいのじゃ……」
縛り上げて手脚の骨を折った野狐族の男はどうしてこうなっているのかわからず、痛みを受けながらへたり込んで涙を流しているふくとそれを慰めるヴォルフを見る。
ヴォルフは男の身体を『停止させた』。
それは二度と戻らない事であり、実質的に死んだという事だった。
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