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いざ大穴へ行くのじゃ

 ふく、ヴォルフ、ライラ、ガルドは国の端にある大穴の淵に立っていた。


「全ての始まりがここからなのじゃ。わしはこの穴を調べ上げ、国を守ろうと思う」


「そうだな……原因がわからない以上、この穴を調べる事しかできないな」


「だ、大丈夫なの?この穴……すごく嫌な音する……」


「ええ、体の毛が逆立つ様な嫌な気配です」


「そうじゃ、わしはあやつらの事を【魔物】と呼ぶ事にしたのじゃ。魔獣とは違い、人間と人間でないものを継ぎ接ぎの化け物。加えて魔法を扱う。それを【魔物】と呼ぶに相応しいと思ったのじゃ」


 そう言うと一同は頷く。


「今まで【それ】とか【ヤツ】とか【異形の怪物】だったり安定しなかったもんね」


「……魔物……か」


「オレ、覚えられるかな……?」


「魔獣は覚えておるのじゃ。種族名として【魔物】だと覚えれば良い」


 ふくはヴォルフにしがみついた。

 おんぶのような形になり、二人は目を合わせる。


「……?」


「……何をしておるのじゃ?早く狼の姿にならんか」


「あ、そういうことね」


 ヴォルフは狼の姿になり、ライラとガルドも背中に乗せて大穴の淵から飛び降りていく。


 穴の壁を蹴り、降りていくと横穴を見つけ着地した。

 三人が下りた瞬間、ヴォルフはズウゥゥンと音を立てて倒れこむ。


「どうしたのじゃ!?ぼうふ!しっかりせぬか!」


「う……。ごめん……。急に力が入らなくなって……」


「なぜじゃ……?この空間に何かがあるというのか……!?」


「ふく様……奥に何かいるよ……!」


 いくら大穴でも既に三〇〇メートルは下っている場所であり、【太陽】の光はほとんど届いていなかった。

 ふくは目に魔力を込めて奥に潜むものを眼を凝らして視る。

 人間の胴体と頭を持ち、クマの右腕、獅子の左腕、昆虫の足、鳥の翼を背中につけた魔物だった。


「うぅぅぅ……ああぁぁぁぁ……!!」


 言葉にならないうめき声をあげ、魔物は走ってふく達に襲い掛かった。

 魔力の高いふくは魔物の警戒網にいち早く引っ掛かり狙われる。

 いくら無詠唱で魔法を発動ができたとしても魔法を選ぶことに時間がかかり、衝撃波の魔法を使おうとした瞬間、魔物は横に吹き飛ばされ、横穴の壁に叩きつけられる。


「ふく様!その魔法はこの穴の中では使ってはいけません!衝撃で崩れると思います!そうなれば全員死んでしまいます!」


 ガルドは槍を構え直し、魔物へ向かって間合いを詰める。

 狭く出口がない空間で戦闘をするのは初めての経験で、強力な魔法が仇となっていた。

 同様にライラも魔法を発動することができずやきもきしていた。

 

「狭くてちょこまか動くから、魔物に当てられないし、ガルド君を巻き込んじゃう……!」


 体力の減りを知らないというべきか魔物の動きはどんどん苛烈になっていき、ガルドが押されていく。

 クマの腕による一撃で先ほどのお返しと言わんばかりに壁に叩きつけられる。

 魔物がとどめを刺そうとした瞬間、突然苦しみ始めて顔を押さえて暴れ始める。

 ボゴボゴと骨が砕けていくような音をあげ、顔の形が変わっていく。

 顔がフクロウのように闇夜に特化した生体へと変わっていく。


「フクロウは暗闇でも昼のように見えるって、セイラ様が言ってた!ガルド君を助けなきゃ!」


 ライラは走ってガルドの前に飛び出し、両手を広げてかばう形になる。

 獅子の腕がライラに向かって振り上げられ、思わず目をぎゅっと瞑る。

 ライラの言葉を思い出し、ふくは一つの魔法を放った。


「『閃光よ、眼を潰せ!』」


 魔物の目の前に小さな光の玉が現れ、炸裂し、暗い洞窟の中を真っ白な光が空間を支配する。

 光が収まると魔物は目を押さえて苦しそうにもがいていた。

 ライラは偶然目を瞑っており、ガルドは吹き飛ばされたダメージで直視しなかったおかげで被害はなかった。

 ふくは【蒼炎】で魔物の体を溶かし、ライラとガルドでどす黒い石を【火】と【水】の元素魔法で破壊する。

 三人はほっと一息をつくが、まだ問題は解決していなかった。

 ふくはヴォルフの元に行き、彼の体を触って確認するが、特に変わったところはなかった。


「なぜ動けなくなったのじゃ……」


「このあたりが禍々しい空気に包まれているからですか?」


「それならば、わしらはぼるふよりも動けないはずじゃ」


「ヴォルフ様だけ動けないなんて……神様だから?」


 ライラの一言でふくは袖をまくり上げ、右腕をヴォルフの口の前に差し出す。


「ぼるふ、わしの血を少し飲むのじゃ。幾分か変わるはずじゃ」


 ヴォルフは頑張って動かそうとしているようだったが、一歩も動けず口すら開けることができなかった。

 予想以上の重度な症状でふくは不安に駆られる。

 

「ご無礼お許しください!」


 ガルドが無理やりヴォルフの口を開けていくが非常に重たいのか、一瞬開けられればといった雰囲気であった。


「ふく様!ねじ込んでくださいっ!」


「わ、分かったのじゃ!ぐっ……ああっ……!!」


 ヴォルフの牙で肉は裂かれ、狼であるヴォルフの咬合力は風の刃や刃物が通らない硬さを持つ魔獣の皮ですら肉ごと引きちぎる力がある。

 そんな力で嚙まれてしまうとふくの前腕骨は簡単に砕けた。

 ヴォルフがふくの血を摂取したことで二人の力が一時的に共有され、ふくの目にあるものが映った。


「なんじゃ……!?なぜこんなに縛り付けられておるのじゃ……!?」


 ヴォルフの体にぐるぐると太い鎖が巻き付けられ、前足と後ろ足、マズル部分、そして胴体を地面に固定するように縫い付けられていたのだった。

 

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