一歩ずつ進むのじゃ
無事に【それ】を斃し、どす黒い石による二次被害も避けられた。
成果とは裏腹に、失ったものはかなり大きいものであった。
国民は全体の二割ほど犠牲となり、気候が冬のように寒くなった影響で動けなくなった者が逃げ遅れ、犠牲となっていた。
そして、レオンとコリーの死が大きかった。
獅子族はもともと数の少ない一族であり、彼は子孫を残すことなく逝ってしまった。
魔法は子供に継承されやすく、成長するまで扱うことはできないが強く、希少な魔法であり、王族変異していればその子供も王族変異する可能性が非常に高いとヴォルフは話していた。
彼の持つ【精霊】魔法は非常に希少なものであり、再び持つものが現れるまで待つことになった。
レオンとコリーは王族変異をしたヒトであったため、戦力的にも精神的にもかなり痛手である。
若い子供達、王族の二人の犠牲者を弔うために棺に入れ、土に埋めていく。
「ぼるふよ、この世界に学舎を作るのは無駄じゃと思うかの?」
「うーん……学舎というものはこの世界に存在はしていないね。でも、ふくが必要だと思うのならばオレは手伝うよ?何をするのか知らないけど……」
「……この世界の生き方を学ばせるのじゃ」
「……?」
ヴォルフはふくの言っていることが理解できず、首を傾げる。
生き方を学ばせるという事が弱肉強食のこの世界で何を学ばせるのか分からなかったからだ。
食うか食われるか、殺すか殺されるか。
そんな世界で学ぶものといえば戦いの事くらいしか思い付かず、頭を抱えて悩む。
そんなヴォルフにふくはため息を吐きながら頭を撫でる。
「ぼるふ、お前はまだこの世界の……ヒトの秘密を持っておるのじゃろう?なぜ、我々は人間の姿ではなくケモノの姿をしておるのか、番いとなった者との魔法が変わる事、王族変異を引き起こすキッカケ……様々な秘密があるじゃろうて。若い子たちはそれを知らぬ。早いうちから知る事ができれば……」
ふくは一瞬言葉を躊躇ったが、手をギュッと握りしめて鋭い瞳孔の金眼で見つめる。
「何は、わしを超える事ができる者も出てくるじゃろうて」
真剣に話した内容にヴォルフはニヤ〜と意地悪そうに笑った。
「……出るとは思ってないでしょ?」
「……千年の間はないと思うとる。何じゃ!……わしらの子が、超えるかもしれんじゃろ!」
ふくは下腹部を愛おしそうに撫でながらそう答えると、ヴォルフは申し訳なさそうな顔をする。
そんな顔を見たふくはキッと睨みつける。
「……まさか、子種がないとは申まい?」
「そ、そんな事はない!ただ……」
「ただ?」
妖狐になったふくは威圧感が以前より迫力を増しており、ヴォルフはタジタジになってしまう。
「た、ただ……同じ種族の子供は……非常に出来にくいんだ……。強くなりやすいけど……」
「???」
ふくはヴォルフの言うことを理解できずにいた。
確かに綱彦とは大よそ千年近くは身籠ることは無かった。
そこは理解しているのだが、ヴォルフとできにくいと言うところに疑問を抱いていた。
「……ぼるふとわしは氷狼と妖狐じゃろう?種族は違うと思うのじゃが?」
「えっとね……オレとふくは【神族】になるんだ。だから見た目は違っても、同じ種族になるんだ」
「……そうじゃったのか。それなら、仕方のない事じゃ。じゃが、出来ぬわけではないのであろう?」
ヴォルフはその問いに関してはしっかりと頷く。
それを見て、安心したような顔をしてヴォルフに背を向けた。
「それは良いとして……。獣人、鳥人、竜人の国を作るには皆の考えをまとめる必要があると思うのじゃ。それぞれの種族を孤立させずに皆が手を取り合って協力せぬといかぬじゃろう?」
「そうだね。食性の違いもあるし、そこはみんなに理解してもらったほうが良いだろうね」
「それだけではない。龍や度々出てくる厄介な【ヤツ】。あやつらは数を増やすとわしらだけではどうにもならぬ。せめて大人数でも良いから龍を斃せるくらいまでの実力が欲しいところじゃ。力をつけ、知識を共有する事で皆が死なずに済めば良いと考えた結果が学舎を作る事じゃと思ったのじゃ」
ヴォルフはその考えに否定的な感情はなかった。
いくら二人が現状最強の力を持っていようと、処理の仕方が限定されている【それ】の対応は非常に難しい。
優秀な元素魔法の使い手であるライラとガルドのようなヒトは早々出てくるものではない。
現状彼らしか被害を出さずに仕留める事ができるヒトはいない為、元素魔法の使い手を増やすのは急務であった。
それを担当していたのはレオンだったのでヴォルフは頭を抱える。
「獅子頭に全部任せてたからヤバいかもな……」
「……そういえば、こりぃは野狐族を逃がしておったが、何か目的があったのじゃないのかの?」
「あ、野狐族は元素魔法を持って生まれる事が多いんだった!アイツら育てて、もしかしたら……」
「では早速じゃが、野狐族を追うのじゃ!」
ヴォルフは狼の姿に変わり、ふくを背中に乗せて走った。
少しずつだが、ふくとヴォルフの想いがこの世界を導いていくのであった。
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