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小さな魔法の物語  作者: かほなみり
第一章
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アレクシオスとセオドリック


 アレクシオスとセオドリックは、屋敷の中庭にある開けた場所に移動した。使用人たちが心配そうに見守っている。テオだけは相変わらず何が不満なのか眉根を寄せているが。

 アレクシオスはそこにある柱に上着をかけ、ポケットの中からそっと顔を出すエラに向かってしいっと唇の前で指を立てた。心配そうにハラハラと落ち着かない様子を見せるエラに、優しく微笑んで見せる。


(妹思いなのか、剣を交える口実を作りたかったのか)


 恐らく両方だろう。

 アレクシオスは騎士から摸造剣を受け取り、セオドリックに確認させた。セオドリックはそんな煩わしいことはしなくてもいいと言わんばかりに、チラリと確認しただけでサッと剣を構えた。


「念の為確認だけど、魔法はなしだね?」

「ああ。お前の剣技を見たいだけだ」

「そんなの、セオドリックには叶わないけど」

「狭い場所でのアレクの身のこなしが素晴らしかったと報告を受けているぞ」

(……後者か)


 セオドリックの言葉に思わず苦笑する。

 この男は、学園では一二を争った剣技の達人だ。卒業後も鍛錬を怠っていないのは再会してすぐに分かったが、考え方も変わっていないのかと懐かしさやおかしさが込み上げてくる。

 ちなみに、セオドリックとその一二を争ったのは、他でもないアレクシオスだ。


 チラリと柱にかけた上着へ視線を向ける。足元にはレトとあの黒猫がいてこちらを見ていた。


(ということは、ダグザ殿もこれを見てるのか)

「いくぞアレクシオス!」

 

 そんな掛け声とともにあっという間にセオドリックが懐に飛び込んできた。


(早い)


 剣で受け止めるとその重みにびりびりと腕が痺れる。


(なるほど、維持していただけではないということか)

「考え事とは余裕だな」


 ぎりぎりと剣を力で押し付けられ防御する一方のアレクシオスに、セオドリックが低く呟く。


「感心していただけだよ」

「最後に己の身を守るのは己自身だからな」

「お互いね」


 ガリッと音を立て剣が離れる。すぐにセオドリックの剣が振り下ろされ、アレクシオスはそれを流れるように後方へ払い、その勢いに身を乗せ回転すると、がら空きになったセオドリックの体側に向けて剣を叩きつけた。

 だがセオドリックはそれすら簡単に受け止める。アレクシオスは後方へ飛び退きセオドリックから距離を取った。


「必要最小限の動きで行う最大の攻撃だな」

「君に力で敵う訳がないから、ねっ!」

 

 腰を低く落とし正面から向かってくるセオドリックに、アレクシオスはさらに低く腰を落とすと、今度は下から剣を振り上げた。仰け反り剣を躱すセオドリックはアレクシオスが剣を振り上げ空いた腰目掛け、模造剣を叩き込む様に打ち付ける。だがその動きすら予測していたように、アレクシオスはぎりぎりで剣を躱しセオドリックの剣を流した。それを力で無理やり戻すかのようにセオドリックはすぐにまたアレクシオスめがけて打ち込む。

 ガアンッ! と大きな音を立て模造剣同士がぶつかり、弾かれ、またぶつかる。


「ところで」

「なに?」


 セオドリックの剣は絶えずアレクシオスに向かい振り下ろされ、その威力が弱くなる気配はない。


「あの魔法陣に書かれた古代文字、本当に見覚えはないか」

「ないよ」


 防戦一方のように見えるアレクシオスだが、決して打ち負かされている様子もなく淡々と攻撃を捌いている。


「……一年前、ある小国の貴族が攫われた」

「え?」

「昔から、古代文字の解読に長けている国だと言われていた」

(ユーリエ王女の母上の国か)


 無意識にアレクシオスは柱にかけた上着に目を向けた。

 その隙を見たセオドリックが、一気に間合いを詰めアレクシオスに剣を振り下ろす。

 アレクシオスはその剣を受け止めるが、上背もあり力の強いセオドリックの一撃を流すこともできず、渾身の力で剣を跳ね返そうとするが力が拮抗し動けない。


「お前の往路は何事もなかったかもしれないが……、帰りは気をつけろ」

「関係があると?」

「誰も知らない古代文字を使うなど、考えられるか?」

「……妹思いだね」

「!」


 アレクシオスはふっと突然身体の力を抜いた。セオドリックの身体がつんのめるように前に倒れるのを、アレクシオスは流れるように躱し、そのままセオドリックの背後を取る。


「……っ!」


 振り返り態勢を整えようとしたセオドリックの背に膝を乗せ体重をかけて押さえつけると、背後から剣を首に当てた。


「――っ! し、勝負あり!」


 焦ったようなセオドリックの部下の声が響き渡った。


「――クソッ!」

「私の勝ちだね」


 地面に顔を伏せ悪態をつくセオドリックの背中から降りたアレクシオスは、その肩を叩きセオドリックを立たせた。不満げに顔を顰めたセオドリックはアレクシオスの手を取り立ち上がると、固く握手を交わす。


「油断した」

「それは一番しちゃ駄目なことだろ」

「分かってる」


 セオドリックは握手をしたまま、じっと考え込むようにアレクシオスを見た。


「アレクシオス……ユーリエを頼む」


 セオドリックの真剣な表情に、アレクシオスもその手を強く握り返した。


「分かった」


 そしてまた無意識に、柱にかけた己の上着に視線を向けたのだった。

 

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