【最終話】生存率わずかの一年後だけではなく、ずっとずっといっしょに……
祖国にいる本物のカミラ、つまり姉は、しばらくは別荘ですごしていたらしい。だけど、すぐに飽きて王都に舞い戻ったという。
『里帰りなの』
と周囲に触れ回り、様々な子息と遊びまわっていたとか。
ビルは、さらに調査した。
サザーランド伯爵家の使用人に金貨を与え、秘密の話を仕入れた。
そして彼は、アンドリューの名代として「身代わり花嫁」の件を宰相と王族に突きつけて弾劾した。家族のわたしにやってきたことも添えて。
「閣下、そこはご心配なく。ユノ様の家族も含め、向こうにはちゃんと宣言しておきました。『将軍閣下はユノ・サザーランドをいたく愛され、もう彼女なしでは生きていけない。いまも国で舞い上がってユノ様を大切に扱っている。だからこそ、サザーランド伯爵やその家族がユノ様にやってきたすべてを見逃すつもりはない。許すつもりもない。ゆえに、然るべき対処をしてもらう。これは、将軍閣下個人の問題ではなく、国家間の問題である』。そのような感じで脅しておきました。これでいかがですか、閣下?」
ビルは、おどけたように両肩をすくめた。
「完璧だ」
「閣下、それはどうも。あっ、まだ重要なことが。ユノ様。あなたの余命ですが、一年後にどうのこうのというのは誤診です。いえ、嘘です。あなたのクソッたれの家族が、あっ失礼。名ばかりの家族が、あなたを揶揄う為に嘘をついたのです。ですから、あなたはいつまでも元気でいられますよ。それと、おれなりに調べたかぎりでは、もしかするとあなたには『聖なる力』が宿っているかもしれません。閣下の呪いを解けるかもしれないのです」
「ビル、ありがとう」
アンドリューは、驚きで唖然としているわたしの横で満足そうに頷いた。
「あの、閣下……」
いろいろ驚くことがあって頭の中がごちゃごちゃしているけれど、まずは謝罪をしないと。
しかし、焦るばかりで肝心の言葉が出てこない。
「ユノ、なにも言わなくていい。そんなことはどうでもいい。いまからだ。たったいまからのことを考えよう。わたしは『呪いの将軍』で、心身ともに病みまくっている。そんなわたしでもきみを守り、しあわせにしたいと切望している。きみに多大な迷惑と負担をかけることになる。だが、わたしは、それ以上にきみを愛したい。いいや。愛すると約束する。きみとほんとうの家族になりたい。夫婦や親子の絆を享受し、しあわせを噛みしめたい。もしかすると、呪いのせいでそれも長くは出来ないかもしれない。一生とは、約束出来ない。それでも生あるかぎり、なにがなんでも約束は守る。ユノ、お願いだ。わたしの側にいてくれないだろうか。いままでと同じように寄り添ってくれないだろうか」
アンドリューは、わたしの肩から腕を放した。それから、わたしの前に片膝をついてわたしの手を取った。
「ユノ。きみが『聖なる力』を宿していようといまいと、そのようなことはどうでもいい。いまのわたしには、きみしかいない。きみしか見えない。きみしか感じられない。どうかわたしを見捨てないで欲しい」
手の甲にやさしく口づけをされた。
彼の申し出について考える必要なんてある?
そもそも、彼の申し出じたい必要ないのである。
これからは、ユノとして彼の側にいることが出来る。
愛する彼により添い、ずっと一緒にいられる。
そして、ビルの調べ通りもしもわたしに「聖なる力」があるのだとすれば、なんとしてでも力に目覚めて彼の呪いを解きたい。
「閣下……」
やはり、言葉は出なかった。感極まって涙は出てくるのに。
どうにか彼に抱きついた。
「ユノ、ありがとう」
彼には、それだけで充分だった。
力強いのにやさしく、愛をいっぱい感じる抱擁をしてくれたから。
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
先程とは比べものにならないくらいの拍手や歓声が起こった。
警察の人たちも含め、居合わせた多くの人たちの祝福である。
「ほんと、手のかかるふたりだ。愛のキューピッド役のおれを見捨てて、しあわせにでもなんでもなってください」
ビルの愚痴が、祝福に混じっていた。
家族が「一年後の生存率はわずか」と告げたので、それなら名ばかりの家族は忘れて思うように生きよう。
このスタンスはかわらない。
ずっと生きていられるということと、愛する人の為に生きるという真実を見つけただけ。
そう。真実の道を、ともに歩んでくれる人を見つけただけ。
(了)