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彼と街へ行く

「カミラ、どうした?」


 いつの間にか立ち止まっていた。アンドリューは、わたしの顔をのぞきこんでいる。


「閣下、申し訳ありません。もちろん、同道させていただきます」


 慌ててしまった。


 そうして、アンドリューと歩き始めた。


 着いた先は、カジュアルからフォーマルまでなんでも揃っていそうな服屋である。


 店先で待っていると、アンドリューは店主夫妻となにやら話をしてから戻ってきた。


「カミラ、この店の店主夫妻に任せておけばいい。わたしは、違う店をのぞいてくる」

「はい? 閣下、どういう意味でしょうか……」

「これはこれはいらっしゃいませ。閣下、とても可愛らしい奥方様ですね。さあ、こちらへどうぞ。うちは、普段着から舞踏会用のドレスまでなんでも揃えています。ご満足いただけるに違いありません」


 店主夫妻が近づいてきたタイミングで、アンドリューはわたしの手をサッと撫でてから店外へと歩いて行ってしまった。


 わけがわからないまま、ありとあらゆるドレスやシャツやズボンやコートなどを試着した。


 気がついたら、店の中央部に箱が積み重ねられている。


 アンドリューが戻ってきた。


 彼は店主夫妻に「購入品は屋敷へ」と依頼し、わたしの手を取って店をあとにした。



「あの、閣下」


 歩きだしてから周囲の雑踏に負けじと声を張り上げ、アンドリューに切り出した。


「先程のたくさんのドレスや服ですが……」

「すまない。どれも最新の流行とは言い難いな。気に入らなかっただろう? 王都が近ければ、王都のブティックで既製品ではなく、オーダーメイドで作ることが出来たんだが。この辺りなら、ブティックどころか服屋だ。流行遅れの既製品しか手に入らない。気に入らないだろうが、せっかくだから着用して欲しい」

「そ、そんな……」


 足が止まっていた。


 絶句してしまった。


「あんなにたくさんの? わたしの為に、ですか?」

「いつも言うように、わたしの心身の調子が驚くほどよくなったのはきみのお蔭だ。こうして街の人たちの前に出られるようになったのも、ひとえにきみのお蔭だ。あれくらいでお礼をというにはおこがましいが、せめてきみが使えるものを贈りたかった」

「閣下。わたしはなにもしていないのに……」


 それこそアンドリューに癒しの力を施したり、治癒能力を発揮したわけでもない。


 彼自身の気持ちの持ちようなだけなのに、ここまでしてくれるだなんて……。


 あらためて、罪悪感にどっぷりつかってしまった。


「今日一番やりたかったことは終わった。遅いランチといこう。それから、ブラブラ市を見てまわろう」


 彼は、なんとも言えないでいるわたしの腕を取ると、ゆっくり歩き始めた。


 なんとも表現のしようのない気持ちの中、それでも彼とランチを楽しんだ。


 五種類のキノコを使ったパスタで、とても美味しかった。


 食べながら、覚悟を決めた。


 今日一日は、アンドリューと楽しむ。


 楽しんだ後、彼にすべてを話そう。


 そう決意すると、心から楽しめた。


 ランチ後はふたりでさまざまなお店を見たり、アイスを食べたりして午後を楽しんだ。



「有名なクレープの店があるんだ」


 もうそろそろ帰ろうかということになり、荷馬車のところにやって来たタイミングで、アンドリューが言いだした。


 どうやら、部下の兵士たちに教えてもらったらしい。


 アンドリューは、わたしが気にいった雑貨やレシピ本やアンティーク物や書物を購入してくれた。彼は、それらの荷物を荷台に置いてから通りをはさんだ向こう側を指さした。


「あの店のようだな」

「まぁっ! すごい行列ですね」

「ここで待っていてくれ。買ってくる」

「ですが、だいぶんと並ばないといけませんよ」

「なあに、屋敷でおれたちを待っている者がいるわけではない。それに、急ぐ用事もない。きみは、馭者台に座って通行人をボーッと眺めていてくれ」

「閣下、わかりました」


 これほど多くの人の中にいるのは初めての体験。人間ウオッチングをするだけでも楽しくて、ついついボーッと眺めてしまう。アンドリューは、そんなわたしの様子を見て面白がる。


「時間がかかりそうだが、楽しみにしていてくれ」

「それでしたら閣下、お勧めのクレープをふたつお願いします」

「おいおい、ふたつも食うのか? わかりましたよ、王女様。あなたの望み通りふたつ購入してまいりますので、座ってお待ちください。もしもわたし以外の男性に誘われても、けっしてついていきませんよう、ここで気長にお待ちください」


 彼はおどけたように言い、わたしが馭者台に上がるのを手伝ってくれた。それから、クレープ屋の行列へと向かった。




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