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アンドリューと外出する

 急いで朝食づくりにとりかかった。


 アンドリューも汗を拭いて着替えを終えてから手伝ってくれた。


 ふたりで他愛のないことを話しつつ、味見と称するつまみ食いをしながら準備を終え、テラスに運んでゆっくり食事をした。


 いつもより美味しく感じられたのは、アンドリューが手伝ってくれたからに違いない。それから、手塩にかけて育てたカブのお蔭でもある。


 お鍋二個分のシチューを作ったので、一個を酪農家夫妻に持って行くことにした。


 ぜひとも、ご主人と奥さんに食べてもらいたいと思いついたのである。


 アンドリューが付き合ってくれることになった。


 彼は、白いシャツとズボンと黒色のコートを着用し、銀仮面をつけている。


 わたしはといえば、いつものシャツにズボン姿。それらも、ここで着用し続けているので着古した感が出始めている。


 アンドリューは、駐屯地で使用している荷馬車を借りて来てくれた。


 彼は、シチューの入っているポットを「荷台に置けば」と言ってくれた。が、この辺りの道はでこぼこしている。シチューをこぼしてしまってはもったいない。


 その旨をアンドリューに伝えると、彼は「もったいない?」と言って笑った。


「たしかに、こぼしてしまってはもったいないな」


 笑いながら、わたしが馬車に乗るのを手助けしてくれた。


 馭者台にふたり並んで座り、ポットは膝の上に置いた。


 やはり、この恰好では肌寒い。ほんのりあたたかいお鍋では、さすがに暖をとることは出来ない。


 そのとき、急に両肩が重くなってあたたかくなった。


「男物のいかついコートで重いだろうが、寒さはしのげるだろう」


 アンドリューが自分の黒いコートを肩にかけてくれたのだ。


「ですが、閣下。閣下が寒く……」

「寒さには強いし、これでも一応軍人だ。寒さ暑さに耐えられるよう鍛えている。だから、このまま羽織っているといい」

「ありがとうございます」


 すごくあたたかい。


 彼のコートはもちろんのこと、彼のあたたかい心を感じる。


 馬車は、ゆっくり進み始めた。


 酪農家夫婦に歓待され、しばらくいっしょにときをすごした。


 夫婦は、アンドリューを見て驚いていた。


 アンドリューは、彼らのすぐ近くでずっとすごしているのに、一度も会ったことがなかったからである。


 それはともかく、彼らは、寒いからと今朝搾ったばかりのミルクでホットチョコレートを作ってくれた。しかも、奥さん得意のアップルパイを出してくれた。


 それがまた美味しくて美味しくて、アンドリューとおかわりをしてしまった。


 また遊びにくるという約束を彼らと交わし、彼らの家をあとにした。


 持って行ったシチュー以上のお土産をいただいて。



 翌日、荷馬車で街に連れて行ってもらった。もちろん、連れて行ってくれたのはアンドリューである。


 街は街道沿いにあり、この東方地域にある領地の中では一番大きな街らしい。


 宿屋や食堂や衣料品や食料品や雑貨等、店舗がたくさん並んでいる。月に一度、大規模な市があるらしく、近隣の領地どころかわたしの祖国からも越境して訪れる人たちも少なくないらしい。


 そして、この日がその月に一度の市である。


 アンドリューは、見物旁々誘ってくれた。


 朝食をはやくすませ、荷馬車で出かけた。


 森を抜け、キラキラ光る湖面に興奮し、いくつかの村を通過してお昼前には到着した。


 人とお店の多さに驚いてしまった。


 荷馬車や馬を置いておける場所が準備されていることも驚いた。


 そこに荷馬車を預け、彼と肩を並べて人ごみの中を歩き始めた。


「カミラ、さきに用事をすませたいんだ。付き合ってくれるか?」


 アンドリューにお姉様の名であるカミラと呼ばれるのは、いつだって心苦しい。


(今日こそ、今度こそ、いまこそ、真実を告げて許しを請うのよ)


 アンドリューに自分が姉カミラの身代わりであることを告白し、許しを請う。


 彼をだました上に厚意に甘えきってしまっている。本来なら、とっくの昔に告げなければならなかった。許しを請い、然るべき罰を受けなければならなかった。


 それがいまだに出来ないでいるのは、彼といっしょにいることが出来なくなることを怖れているからである。


 アンドリューに真実を告げれば、彼はわたしを追い出すだろう。いいえ。もしかしたら、然るべき機関に渡して罰を与えるかもしれない。


 どのような末路になろうと、彼と離れ離れになることだけは確かなこと。


 そう思うと、つい先延ばしにしてしまう。そうして、いまにいたっている。


 わたし自身の身勝手な思いと申し訳なさで、どうにかなってしまいそう。


 その一方で、彼とのいっしょの時間を楽しみ、彼のすべてに甘えてしまっている自分がいる。



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