一年後の生存率がわずかしかないわたしが、姉の身代わりで嫁ぐことになりました
「どうせあんたは一年後の生存率がわずかだから、私の代わりに嫁いで適当に死になさい」
「でも、お姉様……」
「口答えはやめて」
頬を平手打ちされた。
いつもそう。このワイアット王国で美女と名高い姉は、屋敷では、というよりかわたしにたいしてはつらくあたる。
「もうわたしたちで決めたことなの」
「カミラ、その間は出来るだけ屋敷でおとなしくしておくのだ」
「そうよ、カミラ。あなたは、それでなくてもその美しさが目立つのです。いくら隣国の辺境とはいえ、その噂が届くかもしれません」
「わかっています、お父様、お母様。ですが、相手は『呪われ将軍』と呼ばれる粗野で無知な人物です。たとえ噂が流れたとしても、どうとでもごまかせます。一年後にユノが死ねば、あとはどうとでもなる。そうでしょう? 『呪われ将軍』がなにか言ってきたとすれば、お父様が『おまえに嫁いだ愛娘を、おまえが殺したのだ』と、逆に責めればいいのです」
「まったくもう。カミラ、おまえの悪知恵には恐れ入るよ。いずれにせよ、いくら国の為とはいえ、わが娘をやるつもりなど毛頭ない。わがサザーランド侯爵家が、なぜ犠牲にならねばならぬのだ?」
「美しさのせいよ。宰相は、わたしがいなくなれば自分の娘のエディットがこの国一番の器量よしになるものだから、わたしをどうにかしたいのよ。ふんっ! そうはいくものですか」
「とにかく、カミラ。宰相のこともある。しばらくは屋敷を離れ、別荘にでもこもっていろ」
「あんなところ、つまらないわ。遊ぶところがまったくないんですもの」
「おい、おまえ。なにをしている? カミラが気に入らずに捨てたドレスを何着か持ってさっさと出ていけ。それと、遺体は向こうで葬ってもらうよう遺言しておけよ。生きていようが死んでいようが、もうおまえが帰ってくる場所はない。いままで同様、おまえの居場所はどこにもないのだ」
お父様は、唖然としているわたしの肩をドンと押した。
その憎しみさえこもった力の強さに、おもわずうしろへふらついた。そして、倒れてしまった。
「一年後の生存率が一割もないって。ほんと、笑えるわよね。だけど、ちょうどいい厄介払いだったんじゃない? せめてわたしの身代わりをちゃんと務めてから死んでちょうだい」
「ほんとうね。死ぬのがあなたでなくてよかったわ、カミラ」
立ち上がろうとしてまたふらついた。
これが、わたしの家族。
いいえ。赤の他人。
わたしには、家族はいない。いいえ、いなかった。
あと一年。これでもう苦しまずにすむ。つらい思いをせずにすむ。
そう思うと、急にふっきれた。まるでどんよりした雲の間から、太陽が顔を出したようだった。
わたしは、姉の身代わりで隣国の「呪われ将軍」と悪名高い将軍に嫁ぐことになった。
一年間。たったの一年ですべてが終る……。