表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/17

一年後の生存率がわずかしかないわたしが、姉の身代わりで嫁ぐことになりました

「どうせあんたは一年後の生存率がわずかだから、私の代わりに嫁いで適当に死になさい」

「でも、お姉様……」

「口答えはやめて」


 頬を平手打ちされた。


 いつもそう。このワイアット王国で美女と名高い姉は、屋敷では、というよりかわたしにたいしてはつらくあたる。


「もうわたしたちで決めたことなの」

「カミラ、その間は出来るだけ屋敷でおとなしくしておくのだ」

「そうよ、カミラ。あなたは、それでなくてもその美しさが目立つのです。いくら隣国の辺境とはいえ、その噂が届くかもしれません」

「わかっています、お父様、お母様。ですが、相手は『呪われ将軍』と呼ばれる粗野で無知な人物です。たとえ噂が流れたとしても、どうとでもごまかせます。一年後にユノが死ねば、あとはどうとでもなる。そうでしょう? 『呪われ将軍』がなにか言ってきたとすれば、お父様が『おまえに嫁いだ愛娘を、おまえが殺したのだ』と、逆に責めればいいのです」

「まったくもう。カミラ、おまえの悪知恵には恐れ入るよ。いずれにせよ、いくら国の為とはいえ、わが娘をやるつもりなど毛頭ない。わがサザーランド侯爵家が、なぜ犠牲にならねばならぬのだ?」

「美しさのせいよ。宰相は、わたしがいなくなれば自分の娘のエディットがこの国一番の器量よしになるものだから、わたしをどうにかしたいのよ。ふんっ! そうはいくものですか」

「とにかく、カミラ。宰相のこともある。しばらくは屋敷を離れ、別荘にでもこもっていろ」

「あんなところ、つまらないわ。遊ぶところがまったくないんですもの」

「おい、おまえ。なにをしている? カミラが気に入らずに捨てたドレスを何着か持ってさっさと出ていけ。それと、遺体は向こうで葬ってもらうよう遺言しておけよ。生きていようが死んでいようが、もうおまえが帰ってくる場所はない。いままで同様、おまえの居場所はどこにもないのだ」


 お父様は、唖然としているわたしの肩をドンと押した。


 その憎しみさえこもった力の強さに、おもわずうしろへふらついた。そして、倒れてしまった。


「一年後の生存率が一割もないって。ほんと、笑えるわよね。だけど、ちょうどいい厄介払いだったんじゃない? せめてわたしの身代わりをちゃんと務めてから死んでちょうだい」

「ほんとうね。死ぬのがあなたでなくてよかったわ、カミラ」


 立ち上がろうとしてまたふらついた。


 これが、わたしの家族。


 いいえ。赤の他人。


 わたしには、家族はいない。いいえ、いなかった。


 あと一年。これでもう苦しまずにすむ。つらい思いをせずにすむ。


 そう思うと、急にふっきれた。まるでどんよりした雲の間から、太陽が顔を出したようだった。


 わたしは、姉の身代わりで隣国の「呪われ将軍」と悪名高い将軍に嫁ぐことになった。


 一年間。たったの一年ですべてが終る……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ