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最終話 異世界天使リョーシカちゃん誕生!! 後編

「...参った」


 リョーシカが大天使の称号を与えられ、3日が過ぎた。

 まさかの称号に意識を失ったリョーシカ、会場は大混乱となり、彼女は貴賓室で手厚い治療を受けた。


 目覚めたリョーシカにシャオリー達三人は涙を流したのは言う間でもない。

 そのまま貴賓室がリョーシカの部屋と決まり、静養生活に入った。


「落ち着かない...お家に帰りたいよ」


 国賓を招く為に作られた貴賓室。

 全部で四室の部屋には全て豪華な天蓋付きのベッドと高価な調度品が置かれてあり、余りの豪華さにリョーシカは落ち着けない。


 明らかに過剰な扱い。

 リョーシカは勇者に選ばれて以来、二年も自宅に帰っていない。


「あと問題はこれよね...」


 リョーシカは豪華な机の引き出しから一枚の封筒を取り出した。

 王家の蝋封が捺された封筒、その中に入っていた一枚の書類には沢山の数字が並んでいた。


「ひいふうみいよう、いつ、むう...」


 指折り数えるリョーシカの額に脂汗が滲む。

 とんでもない金額が書かれているのだ。


「金貨70万枚か...」


 金貨5枚あれば、三人家族の庶民なら一年は暮らせる。

 70万枚は余りに途方もない金額。

 それは世界から集まった勇者リョーシカへの功労金だった。


「こんなの要らない」


 爵位を辞退すれば大天使の称号、報償金を断れば勇者としての功労金。

 リョーシカの意に反して、話は違う方にばかり進んでいた。


「どうしたのリョーシカ?」


「何かあったの?」


「リョーシカ様、起きてらしたのですか?」



 部屋の扉が開き、別室からカリム達が部屋に入って来る。


「何でもないよ」


「そんな事ないでしょ、この前倒れたじゃない」


「そうです...私、死ぬかと思いました...」


「大丈夫よ、みんな心配かけてごめんね」


 これ以上過保護に扱われては自宅に帰る事はますます叶わなくなる。

 いや、カリム達はこのままリョーシカと四人で暮らすつもりだった。


「本当に大丈夫?」


「本当だって」


「「「良かった!」」」


「ち...ちょっと」


 三人から抱きしめられるリョーシカ。

 小柄な身体は揉みくちゃにされてしまった。


「...で、リョーシカちゃんは何で溜め息吐いてたの?」


「...これ」


 リョーシカ成分を存分に堪能したアンナ達。

 息も絶え絶えのリョーシカは先程の金額の紙を差し出した。


「ああ功労金ね」


「まあ妥当な額ね」


「ええ、リョーシカ様なら当然ですわ」


 全く驚いた様子を見せない三人はただ頷く。


『どこか妥当な金額なの?』

 それすら聞く気力も無くなる。


「はあ...」


「どうしたの?ひょっとして少なかった?」


「ごめんなさい、お父様(国王)に言って増額を」


「私も、父上に頼んで我が家の私財を」


「私もよ、ギルドに頼んでもっと働き掛けを...いいえ、私が高額の依頼を受ければ」


「手伝うわカリム」


「ええ私も」


 これ以上話が変な方に行っては堪らない。

 リョーシカは部屋を飛び出そうとする三人を止めた。


「待って、違うの」


「違うの?」


「何が?」


「リョーシカ様?」


「多いのよ!!なんなの金貨70万枚って?」


 数字を指差しながらリョーシカが叫ぶ。

 異常な金額である事を三人に理解させようと訴えた。


「だから妥当じゃないの?」


「前回の魔王討伐では金貨65万と聞きましたし」


「シャオリー、それ30年前の話でしょ?

 今なら金貨100万枚くらいじゃないと」


「それなら少ないわね、やっぱり依頼を」


「「そうね」」


「だから!!」


 三人は再び部屋を出ようとする。

 いつもなら諦めて引き下がるリョーシカだが、この時は違った。


「どうしたのですかリョーシカ様。

 そんな愛らしい顔で」


「焦るリョーシカちゃん...可愛いわ」


「堪らない...」


 なにやら恍惚な表情で三人は頷く。

 貞操の危機だが、リョーシカは諦めなかった。


「ふつう功労金って頭数で割るものよ?

 前回の魔王討伐は1500人が参加したって聞いたけど」


「でも勇者が半分取ったそうよ」


「無駄に死傷者まで出した無能勇者ね」


「本当、リョーシカ様と前勇者では格が違いますわ」


 なんの格が違うというのか。

 最後の戦いでリョーシカがしたのは、カリム達に痛め付けられ、死にかけの魔王に聖剣を突き刺しただけ。

 それも三人に後ろから抱きしめられての一撃だった。


「...せめて四人で頭割りにしようよ」


「いらないわ、自分の食い扶持くらい自分で稼ぐし」


「ええ、お金には不自由しでませんし」


「それにまた学生だからね!」


「「「ねえ!!」」」


 声を揃える三人。

 しかしカリムは王立学校の生徒では無い。


『まさかカリムが新入生?

 それは余りに非常識だ、世界最強の魔術師が学生なんて』

 あり得ないと思うリョーシカだが、笑顔のカリムに不安が広がる。


「なんでカリムまで...」


「あら言わなかった?

 王立学校の臨時魔術教師になったのよ」


「はあ?」


「二年間の限定だけどね、陛下から直々に頼まれちゃって」


 最強の魔術師が臨時教師。

 王立学校からすれば有難い話だが、良いのだろうか?


お父様(国王)から、カリムが生徒なのは無理があるって言われたの」


「厚かましいわよカリム。

 いったい何歳だと思っているの?」


「うるさいわね!」


 今度は殺気が部屋を包む。

 息苦しい空気にリョーシカは項垂れた。


「止めてリョーシカちゃんが!」


「ごめんなさい、リョーシカ」


「私達ったら、なんて事を...」


「だから大丈夫だって!」


 再び迫る三人に後退するリョーシカ。


「とにかく私はお金なんかいらないの」


「あって困る物じゃないと思うけどな」


「いや困ってるんだって...」


 一度受け取ってしまえば、責任が伴ってしまう。

 勇者、そして大天使としての責任が。


「それなら財団に寄付しまょう」


「財団?」


「ええリョーシカ様、財団よ」


「なるほど」


 シャオリーが名案とばかりに立ち上がる。

 それなら全額寄付してしまえば良いのだ。


「孤児院の運営や奨学金、世界にリョーシカ様の慈悲を知らしめるの!」


「良いわね!」


「それなら」


 アンナの意図は別として、孤児や事情があって学校に通えない人の役に立てるならリョーシカに異論は無かった。


 寄付するなら王国が運営する財団だろう。

 匿名で教会が運営する財団でも良い、私腹を肥やす人間の居ない所にしなければならない。


「どの財団に寄付しよう?」


「いっその事、リョーシカ様が財団を立ち上げてしまっては?」


「はへ?」


「それ良いわね、他人に託すより安心だし」


「なら大天使リョーシカ財団って名前は?」


「「賛成!!」」


「待てい!!」


 そんな事をしたら、ますますリョーシカの名声だけが独り歩きしてしまう。

 思わずリョーシカの言葉が荒くなった。


「わ...私...俺は大天使なんかじゃないんだ...」


「「「え?」」」


「転生した人間よ...人間だ。

 本当は薄汚い悪人なの...なのだよ」


 覚悟を決めたリョーシカ。

 必死で男の言葉を紡ぎ、三人を見た。


「...詳しく教えてくれる?」


「カリム...」

「アンナ、シャオリーも聞きなさい、リョーシカは全てを打ち明け様としてるのよ」


 止めようとするアンナをカリムが制止する。

 リョーシカを見詰めるカリムの真剣な眼差し。

 リョーシカは覚悟を決めた。


「うん...私は前世では亮二と言う男だったの。

 酷い人間でね...」


 リョーシカの懺悔が始まった。

 前世で犯した罪の数々。

 女性を食い物にし、愛する人同士の仲を裂き、嘲笑っていたクズの人生。

 転生後もアンナやシャオリーに近付いた真の目的を...


「リョーシカ様が異世界から来た男だったなんて...」


「...そうだったのね」


「リョーシカちゃん...ああ...」


「...軽蔑したでしょ?」


 間違いなく軽蔑されただろう。


『こんなクズに私は!』

 そんな言葉が返ってくるに違いない。

 リョーシカは涙を堪え、罵倒の言葉を待った。


「それで?」


 最初に口を開いたのはアンナだった。


「だから私は転生した人間で...」


「それは分かったけど、異世界での話でしょ?

この世界でリョーシカちゃんは何か悪い事したの?」


「だって私はアンナの婚約者を...」


「リョーシカちゃん失敗したって思わないで、私は救われたんだから」


「でも...」


 アンナの婚約者が悪人だったのは結果論。

 もし善人だったとしても、リョーシカは婚約者を奪っていただろう。


「そうよ、私もリョーシカ様に助けて貰ったんだから」


「シャオリー...」


 シャオリーに近づいたのも打算だった。

 結果として彼女を救う事になったのは、あくまで婚約者がまた悪人だっただけの事。


「誰にも迷惑なんて思ってない。

 私達はリョーシカ様に救われた、そして今も。

 それだけなの」


「そんな...」


 アンナとシャオリーは笑みを浮かべ、リョーシカを見つめる。

 その瞳に軽蔑等全く無かった。


「リョーシカ、貴女は私をクズから救ってくれた。

 あれも打算から?」


「違う!」


 カリムを助けたのは打算からでは無かった。

 ただカリムを救いたい、クズから彼女を、それだけだった。


「前世なんか関係ない、大切なのは今よ。

 私達はリョーシカが大好きなんだから」


「私もよ、リョーシカちゃんから一生離れないんだから」


「そうですわ、前世の記憶を持ってるリョーシカ様の方がおかしいのです。

 私だって忘れてるだけで、前世は悪人だったかもしれませんわ」


「...シャオリー」


 シャオリーはリョーシカの手を握り頷いた。

 その美しい姿にシャオリーこそが本当の天使ではないかとリョーシカは思った。


「なんかしっくり来るわね、悪いシャオリー」


「ええ、闇落ちシャオリーって」


「こら例えでしょ!!」


 カリムとアンナがシャオリーを茶化す。

 もちろん冗談、リョーシカを笑わせる為の言葉に空気が軽くなって行く。


「フフ、なら私とシャオリーは似た者同士ね」


「リョーシカ様まで!」


 ようやく笑ったリョーシカ。

 四人の明るい笑い声がしばらく続いた。


「ありがとう、これからもみんな一緒だね」


「ええ」


「ずっとよ」


「生まれ変わって、リョーシカが男に戻ってたら私を寝取りに来てね」


「...あのね」


 カリムの軽口にリョーシカは苦笑いを浮かべた。

 まさか寝取って欲しいとは。


「私もよ、リョーシカちゃんなら大歓迎だから」


「アンナまで」


「まあ、私は誰の物にもなってませんからね。

 リョーシカ様と普通に出会いますけど?」


「「シャオリーずるい!」」


 シャオリーの言葉に一際大きな笑い声が貴賓室に響き渡った。


「ありがとう...みんな...本当に...」


 そっと涙を拭うリョーシカだった。

おしまい!

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― 新着の感想 ―
[一言] 逆にリョーシカの記憶を引き継いだ亮二が記憶のない転生した彼女たちも救うために悪役としてNTRダークヒーローみたいなのも面白そう。
[一言] よかったね、亮二~
[一言] 大団円。 次に転生しても又、女の子の気もするが。
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