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最終話 異世界天使リョーシカちゃん誕生!! 前編

我等(われら)が英雄勇者リョーシカ、及び勇者パーティー入場です」


 荘厳な音楽が流れ、巨大な扉が大きく開かれる。

 会場内で待ち構えていた人々が見つめるその先には、1人の少女が恥ずかしそうにうつ向いていた。


「...なんて美しいの」


「これは噂通り、いや噂以上だ...」


「素晴らしい...」


 初めてリョーシカを見たのだろうか、口を開いたまま固まっている人が。

 白いドレスに身を包んだリョーシカの姿は天使が降臨したかの様であった。


「リョーシカちゃん、そんなに緊張しないの」


「そうよ、リョーシカが主役なんだから」


 リョーシカの後に立つアンナとカリムが耳元で囁く。

 最後にカリムが熱い吐息をリョーシカの耳に吹き掛けた。


「ヒャン!?」


 不意に洩らしたリョーシカの甘い声。

 その幼くも愛おしい声色に、場の空気が和む。

 勇者リョーシカも普通の女の子、それが安堵に繋がったのだ。


「...うぅ」


 緊張と羞恥からリョーシカは逃げ出したくなる。

 しかしリョーシカの背後には最強の魔術師と、最強の剣士。

 その強さは魔王を圧倒した事で明らか、リョーシカに逃れる術は無い。


「リョーシカ様」


 先に会場内でリョーシカを待っていた聖女シャオリー。

 王族でもある彼女はリョーシカの手を取り、エスコート役を務める。


「そんなに緊張しないで」


「...緊張しない方が無理です」


 国王の元へと歩むリョーシカとシャオリー。

 その後にアンナとカリムが続く。


 たった四人の勇者パーティーが世界を救ったのだ。

 畏敬と羨望の眼差しを受け続けるリョーシカは...ますます気持ちを萎縮させていた。


 陛下が自ら主催するパーティー、最初からこうなる予感はしていた。

 凱凱パレードも、


『少し大通りを走るだけだけだ、そんなに人は集まらないと思う』

 そう聞かされていた。


 結果は数万の群衆を前にして、半日のパレードだった。

 そして現在、会場にはどうみても世界の重鎮としか思えない人々の姿。


『パーティーなんか結構です』

 大恩のある国王にそんな事を言える筈もないリョーシカ。

 国王にとってもリョーシカは、娘シャオリーの危機を、引いては国の危機をも救ってくれた恩人。

 軽い扱いなど出来る筈が無かった。


 リョーシカは前世の下衆男、亮二の記憶も未だ抜けきれていない。

 善のリョーシカと悪の亮二。

 もうリョーシカに寝取り願望は無い。


 ただ幸せになりたいという当たり前の願いさえ、亮二の記憶に引き摺られ、彼女を苦しめていた。


「あれが聖教会の教皇フシアマ様で隣にいるのが同じく教会のツーカ枢機卿、その後にはフグリン帝国のホール皇帝陛下ね、後は...」

「...もう止めて」


 そんなリョーシカの心中を知らないシャオリー。

 耳元で周りの人間が誰であるかを教え続ける。

 シャオリーはリョーシカの為に、会場内300人の出席者全ての顔と名前を頭に叩き込んでいた。


「リョーシカ様が思っていたパーティーじゃ無かったでしょ?」


「まあ...シャオリーの言う通りね、ビックリよ」


 はち切れんばかりの笑顔のシャオリー。

 リョーシカの思っていたのは国王を始め、国内貴族の面々が集まってのパーティーだった。

 まさか世界中の重鎮を集めていたとは想像が出来なかった。


「うわ!」


「「「危ない!」」」


 つまずくリョーシカを素早く三人が抱き止める。

 余りの素早い動きに出席者達は息を呑んだ。


「リョーシカちゃん大丈夫?

 足を挫いてない?」


「シャオリー、パーフェクトヒールを早く!」


「もうやってます!」


「大丈夫だから...」


 赤子をあやす様に、されるがままのリョーシカ。

 赤い顔で俯くリョーシカの姿、その神々しさに教皇を始め、教会の関係者達は納得した表情で国王を見ると頷いた。


「勇者リョーシカ、並びに勇者討伐隊。

 魔王討伐の褒章を授ける」


 国王の前に到着したリョーシカ達に衛兵の凛とした声が響き渡る。

 会場内が静まり、式典が始まった。


「勇者リョーシカ」


「はい」


 国王直々に名を呼ばれ、その前に(ひざまづ)く。

 列席者の中にはリョーシカの両親や兄達も居る。

 これ以上無様な姿を見せる訳にはいかない。


「被害者を出す事無く、魔王討伐を無事果たし見事であった」


「...仲間達のお陰でございます」


 被害者にマンフは含まれていないのは、何やら作為的な物を感じるが、口にはしない。

 実際魔王討伐はほぼ全てアンナ建の功績による物。

 リョーシカがしたのはみんなの食事作りや、行く先々で孤児院や教会を回ったにすぎなかった。


「...リョーシカ様」


「リョーシカちゃん...」


「リョーシカ...そんな事無いのに...」


 シャオリーや仲間達はリョーシカの言葉に涙ぐむ。

 すこしでも役に立とうとする献身的なリョーシカの姿に三人は討伐の旅で胸を打たれていた。


「その功績により、新たに侯爵を叙爵(じょしゃく)するものとす」


「...は?」


 国王の意外な言葉にリョーシカは思わず間抜けな声を出す。

 リョーシカ自身、貴族の爵位を与えて貰える程の事を成し遂げたと思っていなかった。


「何か?」


「いや、あの...私如き浅才なる身には、あり余る栄誉で、その...実家より上と言いますのはちょっと」


「辞退すると申すか?」


「出来れば...」


 当然だった。

 子爵令嬢というだけでも不自由な生活だったのに、更に侯爵までなっては、自由な生活が更に遠ざかってしまう。

 逆らうのは不敬だと知りつつ、リョーシカは固辞の意思を示した。


「やはり」


「なんと無欲な...」


「我等に気遣わずとも良いものを...」


『誤解です父上!』

 リョーシカは涙を浮かべる父達にそう叫びたい気持ちを懸命に堪えた。


「天使は爵位等、意味を為さぬか」


「ですな」


「リョーシカ様らしいわ」


「ええ、リョーシカちゃんは女神の名こそが相応しいもの」


「女神リョーシカ...」


「あぁ...」


 とんでもない方向に話が進みそうな空気、当然だがリョーシカが望む筈も無かった。


「爵位より叶えて欲しい事がございます」


 リョーシカは国王に向かい頭を上げる。

 ただ1つだけの希望があった。


「う...うむ、何かあれば申してみよ」


「出来れば学校に復学したいのですが」


「王立学校に戻りたいと」


「はい、まだ二年残っておりましたから」


「素晴らしき向学心である」


「...畏れ入ります」


 リョーシカは学校に戻り、元の生活をやり直したかった。

 学友は卒業してしまったが、最低限の自由が保証された生活に。


「分かった、次年度からの復学となるが良いか?」


「有り難きお言葉...」


 次年度まで3ヶ月あるが、それくらいなら我慢出来る。

 どうやら上手く行きそうだ。


「では最後に教会より称号を与える」


「称号ですか?」


 また意外な事を言い出した国王。

 混乱するリョーシカを他所に、控えていた1人の男が歩み出た。


「教皇様...」


「勇者リョーシカ、貴女には教会より大天使の称号を与える物とする」


「はい?」


 聞いた事も無い称号。

 リョーシカには理解出来ない。


「大天使とは天上界より遣わされた神の化身に贈られる物、貴女の様な方にこそ相応しい」


「凄いわ!」


「ありがとうございます!」


「さすがね」


 唖然とするリョーシカ、シャオリー達の喜ぶ声が遠くに聞こえ...


「リョーシカちゃん!!」


「大変リョーシカ様が!!」


「しっかりして!!」


 気を失ってしまうリョーシカ。

 こうして大天使の称号を受けてしまうのだった。

次ラスト!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 所詮、亮二はりょうz・・・・・あら? 驚きの白さ! どの漂白剤を使用したのか、見事に漂白されていますねw 良い意味で裏切られました。
[気になる点] 実家、子爵家から伯爵へぐらいされたのかな? 当の本人、只の子爵令嬢から侯爵家当主断ったし。 [一言] 称号・大天使(ムンク)。 大聖女とかを超えた称号だな(笑)。
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