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マッチング王妃

 

 陛下と食事をした夜から、私は何だかモヤモヤとしたものが胸の端っこに引っ掛かっているような気がしてならなかった。

 ちょっとした会話の小気味良さや、かと思えばちっとも発達していない情緒。ディーノ様のことを思って柔らかい目をするのに、その息子の為に自分は何もしない焦れったさ。

 その後も何度か食事の機会はあったが、結婚してすぐに二人で話した時以来ルクレツィア様の話は出ない。

 あの時も正確には、もう恋することはないだろう、と言われただけだけれど、普通に考えればルクレツィア様に生涯最後の恋をしていた、ということなのだろう。切ない。

 陛下もまだまだ若いんだし、何も諦めることないのに。勿論、生涯亡くなった奥様を思い続ける、なんてロマンチックだし素敵だとは思うけど……


「……私なら、もっとめちゃくちゃ楽しい人生にしてあげるのに」

「ん? ウィレミナ、どうかしたか?」

「!!」

 ぽつ、と零れてしまった声を、少し前を歩いていたディーノ様に拾われて慌てる。て、言うか私、今何言いました!? 忘れてください! 何か気付くと危険な気がする!! 気の迷い!!

「な、何でもありません」

「そうか? 転ぶなよ」

 ん、と手を差し出されて五歳児の紳士っぷりに、私は惚れ惚れする。王子様にエスコートされるなんて、乙女の夢だわ。


 今日は天気が良かったので、王城の奥の庭を二人で散歩しているのだ。ここは王の家族しか立ち入ることが許されていない区画らしく、私とディーノ様が来なければせっせと庭師が整えてくれているこの美しい庭も日の目を見ない。

 勿論そんな勿体ないことを私が見逃すわけもなく、今日のお茶は庭園の奥のガゼボでいただくことにしたのだ。勿論散歩しているのは私達二人だけだが、後ろから護衛や侍女、メイド達が静々と付いて来てくれている。

「あら、綺麗なお花」

「それはベルナ」

 ふと目についたオレンジ色の花がとても美しく咲いていたので、私がつい呟くとディーノ様がすぐに名前を教えてくれた。さすが王の庭、この隣のピンクの花も初めて見るわ。

「こちらは?」

「ローレル」

「お詳しいんですね」

「図鑑で見た」

「へぇ……!」

 本当に真面目で勤勉な王子様だ。

 私も実家の屋敷で花を活けることはあったので、ごく一般的な花の名前は一通り知ってはいるものの、ここに咲いている花は一見して珍しいものが多い。後で聞けば、献上された新種のものや他国との友好の証に贈られたものもあるらしく、種類も豊富だった。


「ディーノ様、この変わった形の花は、何という名なのですか?」

 少し離れた日陰にひっそりと一輪だけ咲いていた花が妙に気になって、お花博士に訊ねてみたところ博士も首を傾げた。

「見たことないな……」

「まぁ。では本当に珍しい花なのですね、庭師に聞いてみましょうか」

「え!? 庭師に直接声を掛けるのか」

 ぎょっとしたディーノ様に、私も驚く。

「ええ。だってここを世話している者に聞くのが一番早いでしょう?」

「……でも使用人に、僕が聞いたら嫌がられないか?」

 ディーノ様はちょっと困ったように眉を寄せる。


 確かに、王子様が庭師に突然声を掛けたら護衛達は慌てるだろうし、庭師の方も恐縮するかもしれない。でもここは王の庭。

 王子様が声を掛け、労いの言葉を掛けることは庭師にとって誉になるのではないかしら。まして、質問をして他者と会話をするのはディーノ様が外に目を向けるささやかながら、いい機会だと思うんだけど。


 しかし残念ながら結果から言うと、庭師はこの時間休憩していて会うことが出来なかったので、会話することは出来なかった。


 *


 とはいえ傍に仕えている人達だけではなく、普段接することのない人とディーノ様が交流を持つのはいいことなのではないか、と思った私は、さっそくある提案をした。

 陛下と私の夕食の席に、王子様をお招きしたのだ。何せ、ライアン様は国王陛下。ディーノ王子様にとって、接することがもっとも大切な人だ。何せ親子!

 決して、私が陛下と二人きりになると何だかモヤモヤするから、などとそんな理由ではありません。ええ、勿論、そんな。


 そして、親子と新入り家族一名、計三名の食事会が始まった。

 テーブルはなるべく小さく! と指定したので、部屋は広いが私達三人が囲むのはサイズはごく普通の丸テーブルだった。ディーノ様は子供用の椅子にちょこんと座り、とても緊張しているが、父親である陛下をキラキラとした瞳で盗み見ている。

「あら、このワインは初めて飲みますわ」

「……ああ、西の新しい産地のものだな」

 多忙な陛下との食事は、私も数えるほどしかない。でも、こんなに嬉しそうにしてくれるならばもっと早くディーノ様をお誘いすればよかった。共通の話題のない陛下に対して、私は近頃は必死に「今日のディーノ様」の話をしていたのだ。

「そうなんですね……美味しい。とっても好きな味です」

「まだあまり流通していないが……そなたが気に入ったのならば、少し多く入れるように言っておこう」

「まぁ、ありがとうございます」


 そして息子を育てることに出来る限り参加する、という言質もいただいていたので、今夜だけは何としてでも来てください、って陛下にお伝えしてもらって、見事マッチング成功! やーいい仕事しました、私。




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