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一緒にいましょう、王子様


「ディーノ様のお母様は、ルクレツィア様だけです。今までも、これからも」

「……そうだ、僕のお母様は、お母様だけだ。……なのに、ここに来る女は皆、新しいお母様が欲しいでしょう、と言う」

 無神経甚だしい発言に、その「女」とやらに怒りが込み上げる。

「そんなの無視して大丈夫! 私が保証します」

「……お前にホショウされてもな」

「あら、私王妃ですよ? この国で二番目に偉いんですから、信用出来ますでしょう?」

 実際のところは、権力ゼロなので信憑性もゼロですけどね。でも母親を亡くして、寂しがっている子供に私利私欲でそんなこと言う女は悪! で間違ってないでしょう?

「二番目にえらいのは僕だ」

「え、嘘、私じゃないんですか?」

「僕だ! お前は」

「お前、じゃなくてウィレミナっていう立派な名前があります」

「……ウィレミナ」

「はい、ディーノ様」

 ふふ、と微笑むと、ディーノ様は私の手を握った。小さな手は意外と力が強くて、離さないとばかりにきゅっと握られると、胸が締め付けられるような気持ちになる。


「……さっきは積み木を投げて悪かった」

「そうですね、人に当たったら危ないので、もうやめてください」

「うん……ウィレミナ」

「はい」

「……お母様になりに来たんじゃないなら、ウィレミナはここに何をしに来たんだ? お父様のことが好きなのか?」

 なんて可愛いんだろう。母親に成り代わられる不安が消えると、次は父親を取られてしまうことを心配している。

 これは思っていたよりももっとずっと、家族の愛情に飢えているみたい。乳母は遠慮しすぎているのかしら? そりゃあこの国唯一の王子様だものね。

「私の方にも事情があって、陛下のことを好きだから来たんじゃありません。今ここにいるのは……」

 何せ愛することはない、て初っ端で宣言されてるんですよ。

 麗しの王子様、ご安心くださいな、あなたのお父様はお母様にだけ恋をしておられるらしいですよ! あ、何かちょっとモヤッとしたわね。

「いるのは?」

 いけない、と私はディーノ様に集中する。子供は嘘を見抜く。私の心は彼の心に鏡のように映るのだ。

 嘘には嘘。誠実には、誠実を。


「ディーノ様の家族になりたくて」


「家族?」

 王子様は瞳を丸くする。

「ええ。夫婦だって、血が繋がってなくても家族にはなれるんですから、私とディーノ様も頑張ったら家族になれると思いませんか」

 これは経験談。私と血の繋がらない義母は、間違いなく家族だ。

 私がそう言うと、ディーノ様は悩むように唇を尖らせた。何でしょう、可愛らしいこと。

「まだお前と」

「ウィレミナ」

「……ウィレミナ、と会ってから少ししか経ってないから、分からない」

「それもそうですね。じゃあお互いを知る為に、一緒に過ごしてみましょう」

 ぱちんと手を打って提案すると、ディーノ様は困惑しつつ頷く。

 賢いのに、純粋。

 私に裏がないか考えを巡らせているんですね、本当に裏なんてないんだけど確かに突然現れた女がこんなこと言ってくるのって控えめに言ってうさんくさいよね。本当に賢い子。


 さてさて。

 そんな経緯で王子様に「私」を強くアピールすることに成功した私。

 愛されない妻ですが、夫からの数少ないリクエストは王子の養育と最低限の公務ですものね。実際に会ってみて王子様と相いれないようならば、乳母や世話役に任そうと思っていたが、生意気で可愛い王子様のことを私は一目で大好きになってしまった。

 ディーノ様に「愛することはない」って言われたら泣いちゃうかも。

 そんな可愛い王子様の為に勿論全力で頑張るつもりではあるけれど、私は別に何か保育的な資格を持つ者でも経産婦でもない、ただ小さい子供の世話をたくさんした経験があるだけの、うら若き乙女だ。

 まだまだ経験足りないし勉強もする必要があるだろう、ここからは乳母や他の世話役達ともよくよく話し合って、ディーノ様との家族としての関係を育んでいきたい。

 きっと陛下は実母のような、愛情や安らぎ、時にはきちんとディーノ様を叱れるような役割を私に要求しているのだろうけれど、そんな「理想的な実母」なんてどこにもいないでしょ。

 子供が百人いれば、お母さんも百人いて、その子とそのお母さんにとってのベストな形があるだけで、その形は百通りある筈だ。

 でもディーノ様が次代の王で、私や乳母達の所為でモンスターに育ててしまっては大惨事。



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