表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/50

番外編・ななつのこ

 

 わたしのことを家族はリーシェ、と愛称で呼ぶし、それ以外の人は姫、と呼ぶ。さっきわたしが姫と呼ばないで、と言ったのでレナードはわざわざ名を呼んでくれたのだ。

 リーデルーシェ。

 父上様が願いを込めてつけてくれた、お気に入りの名前。


 生まれる前に男の子用と女の子用の名前をちゃんと考えてあったのに、生まれた赤ちゃんのわたしの顔を見た父上様はもっと相応しい名前がある、と直感したんですって。

 それから、母上様がいい加減にしないと私がさくっと名付けちゃいますよ! と怒るまで散々悩んで考えてくれた、名前なのだ。

 忘れていた。父上様はきっと、わたしが姫でなくなってもわたしのことを大切に思ってくれる。娘じゃなかったら冷たいかも、なんて考えちゃダメよね。


 わたしは大切なことを思い出させてくれたレナードに感謝の気持ちを込めつつ、でもツッコむべきことを口にする。

「……じゃあ見合いを抜け出して来たの? ダメじゃない」

「いや、だって、今日会ったばっかの女の子を将来の伴侶とするかどうか、なんてすぐ決めれっこないだろ?」

「そうね……」

 言いながら、先程見たガゼボの光景を思い出す。

 今日会ったばかりでも、将来の伴侶を決める人も、いると思う。

 王太子の見合いに来ている令嬢なんだから家柄は当然申し分なくて、あれだけ楽しそうにお喋りしていたんだから、気も合う筈。

 そして一度決まったら余程のことがない限り、お兄様は本当に結婚してしまうのだ。


 また悲しくなってきた。

「そんなこと言ってても……レナードだっていつか結婚するんだよ」

 レナードともこうして仲良くお喋り出来なくなっちゃうかも、と考えるとますます悲しくなる。どうすれば大好きな皆と一緒にいられるのかしら。

「俺? うーん、俺は結婚しないと思ってるんだけどな」

「どうして? 侯爵家の為に跡取りが必要じゃない」

「親戚筋から養子を取ればいいだろ? 俺は家を守るより剣を振るう方が性に合ってるし、得意な奴がその椅子に座った方が皆幸せだろ」

 侯爵家の直系であるレナードの、思いもよらない言葉にわたしは目を瞬く。結婚しない。そんなこと、考えたこともなかった。

「でも……大人になって、奥様もいなくて一人だと……寂しくない?」

「そうか? 友達もいるし、寂しくはないだろ」

 けろっとレナードは答える。

「お前もいるしな」

「ちょっと、姫をお前呼ばわりしないでよ……」

 くしゃくしゃと頭を撫でられて、まるで子供扱いにわたしは顔を顰める。後でデイジーに綺麗に整えてもらわなくっちゃ。

「でも実際侯爵令息だから、これからもお見合いは用意されちゃいそうね。その度に抜け出すの?」

「まぁなーいっそ騎士宿舎に入って連絡を絶つとか……無理があるか」

「無理に決まってるじゃない、ばかねぇ……」


 そこまで言って、わたしの頭に雷が落ちたみたいに衝撃が走る。

「そうだ、わたしが結婚してあげるわ!」

「え、お断りシマス」

 レナードが即返してくる。

「なんでよ! 姫の申し出を断るの!?」

「さっき姫って呼ぶなっつったのはどちらさんだよ」

「ひ、姫様、お気を確かにっ」

「そうだぞ、お気を確かに持て姫」

 デイジーとレナードの両方に言われて、逆にわたしの中でメラメラと闘志がわく。


 そうだ。これは考えれば考えるほどいいアイデアのように思う。

 わたしはお兄様のことが好きだけれど、結婚は出来ない。せめて妹として傍にいようとは思っているけれど、お兄様が結婚しお子でも産まれようものならば、わたしはどんどんお兄様から離されていってしまう。

 でもレナードと結婚していたら、どうだろう?

 妹、しかも乳兄弟の妻ともなればお兄様の傍にいてもごく自然だし、それにもしわたしが寂しくなっても友達のレナードが傍にいてくれたら、寂しくない。


「大丈夫、友達として結婚するのよ! そうすればレナードはお見合いに呼ばれなくなるし、わたしはお兄様の親友の妻という盤石のポジションを得られるわ。これって、うぃんうぃんってやつでしょう!?」

「どこがだ!」

 え? 間違ってる?

 驚いてわたしがレナードを見上げると、彼は唸った。

「お願い、レナード」

「…………お前に、別に結婚したい人が出来たらすぐに婚約は解消する、いつでも変更可能って条件なら、いいぞ」

「あら、それは心配いらないわ。お兄様以外にわたしが結婚したい人なんて現れるわけないもの」

「お前なぁ……まぁいいや、とりあえず俺が婚約者になっておけば周囲も文句はないだろうし」

 ガリガリと頭を掻いたレナードがぶつぶつと言う。ん? これはOKってこと?

「よろしくな、お姫様」

「やった! ありがとうレナード!!」


 こうしてわたしは、七歳でレナードと婚約した。


 この後思い付きで婚約したものだから、父上様は盛大に落ち込み、お兄様はレナードに決闘を申し込み、母上様にはめちゃくちゃ怒られたけど、わたしとレナードの婚約は今も続いていることだけは、お伝えしておこう。



これにて番外編終了です!

読んでいただき、ありがとございました!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ