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歴代最速、王妃就任!

 


 その後はもう、予め決まっていたのであろう完璧な段取りだった。

 陛下は私に選択権をくれたけど、周囲は当然そんなことは考えていない。あの場に父と共に辿り着いた時点で、私が二人目のお妃様になることは決定していたのだろう。

 すぐに恭しく聖職者が結婚宣誓書を持ってきて、私とライアン様がサイン。大司教様の宣言で、私は王妃となった。


 なっちゃったよ!!??


「事を急いで、すまん」

 怒涛の嵐が去って数刻。場所を移して、応接室。

 先程までずらりと並んでいたお偉いさんも父もいなくなり、今は私と陛下の二人がテーブルを挟んで向かい合ってソファに座っている状態。護衛やメイドも、部屋の外。

 何故護衛まで追い出すの? と思っていたらこの王様、謝ってくれましたよ!??


「あ、あの王は謝っちゃダメなんじゃ……」

 通説として言われていることを躊躇いつつ言うと、ライアン様は僅かに首を横に振った。

「そなたはもう私の妃だ。家族に謝るのに、何の支障がある」

 あ、そこは偉そうなんですね。でもちゃんと謝ってくれたことに、私は好感を持つ。

 ごめんなさいとありがとうが言えるのは、大事なことだ。そう思うと、大変な身の上になってしまったが何だか肩から力が抜けた。

 成るように成る。成るようにしか、成らないのだ。ことは王命、形だけでも選択権をくれたのは、この方の配慮だったのだろう。


「……もう構いませんよ、どうせ婚約破棄騒動の所為で外を出歩けない身になっていたし。家でじっとしてるか、お城でじっとしてるかの違いしかないわ」

 開き直ってそう言うと、陛下はまた首を振る。その度にきらきらと揺れる金糸が、綺麗だ。

「そなたの自由を奪うつもりはない。護衛はつけることになるが、荷物を整理したり家族との別れを済ます為に伯爵家に帰るのも自由だ」

 へぇ! でもちょくちょく帰っていいなら、今はいいかな。街も家も騒ぎになってる様子しか浮かばないし、ここはお父様に説明を任せそう。たまには、放ったらかしの長女の役にもたってもらおうじゃないの。

 弟妹達は寂しがってくれるかしら……うーん、元気に遊んでる姿しか浮かばない。ウィルお姉ちゃんの不在よ!


「陛下こそ、本当に私でよかったんですか? 政治的なバランスの為とはいえ、もう世継ぎの王子様はいらっしゃるわけですし、いっそ好きな令嬢を娶ることも出来たのでは?」

 砕けた空気に、私はつい素人考えを言ってしまう。

 好いた相手と思い合うことは許されない立場かもしれないが、私で可能ならば大抵の令嬢を王妃に迎え入れることも出来るのでは? て思っちゃうのは仕方がないでしょう。

 それぐらい、私は特筆すべき点のない伯爵令嬢なんだから。いえ、だった、ね。


 メイドがいないので、テーブルにセットしてあったポットから自分でお茶を注ぐ。あ、一杯目は喉がカラカラだったのですぐ飲んじゃったんです。

 宝石みたいなお菓子もずらっと並んでるし、落ち着いたらお腹が空いてきちゃったわ。

 そこに、ひやっ、とした陛下の声が耳に届く。


「私はもう……誰かに恋をすることはないだろう」


「…………そ」

 唇が一瞬、震える。何だかすごいことを聞いてしまった、と感じた。

「そう、ですか…………」

「ああ」

 カップに視線を移し、お菓子に視線を移す。

 僅かに俯いた陛下の、その表情を見るのが何だか怖かった。


 陛下はきっと、先代のお妃様であるルクレツィア様をとても愛していたのだ。

 だから、これほど急に私なんかを娶らなければならない状況になるまで、長く次のお妃様を迎えなかったのだろう。

 愛することはない、と言われた本当の意味が分かった気がする。


 私がどうこうじゃないんだ。

 ルクレツィア様じゃないと、ダメなんだ。


 大丈夫。私だって、陛下のことを男性として好きだったわけじゃない。それは本当。恋がコリゴリなのも、本音。

 敬愛する国王陛下の穏やかな治世に、何も持たない私がイチ国民として役にたてるなら、いい人生じゃないの。


 *


 その後、一人目のお妃様であるルクレツィア様がああいう最後を迎えたので、ということで私が二人目の妃となったことは、ごくシンプルに広く発表されただけで豪奢な式や盛大なお披露目の会もなし。

 確かに私とロイの婚約破棄の話題も冷めやらぬ内に、王妃就任。世間の注目と好奇の視線の的になるのなんて真っ平御免だった私はあっさりとそれを受け入れた。

 しかし、さすがに女子憧れのウェディングドレスも何もないって、ちょっと腹立つじゃない。

 新人の働き手でももう少しお祝いされるのでは? とつい愚痴ったらその日の内に部屋に高価なワインが届けられた。プレゼントで私が絆されるとは思わないで欲しいわね! まぁ。美味しかったけど。これで許したと思わないでくださいね、陛下!

 次は大粒の宝石とか、いいかもしれませんよ!!



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