表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/50

番外編・世界で一番、お姫様

本編終了から数年後。

ウィレミナは陛下との間に姫を生み、家族四人仲良く騒がしく暮らしているところから始まります。

 


 パチン、と鋏で花の茎を切る。

 後で活ける時に調整するから、長めに残す。蕾のものではなく、盛りをほんの少しだけ超えた満開のものを選んで。


「姫様。こちらも数日で盛りを過ぎますので、摘んで構いませんよ」

「ほんとう? ありがとう!」

 ここは王の庭。

 初めて一人でお花を摘んだ時はこれから咲くものや、まだ盛りを迎えていないものの区別がつかず好き勝手に摘んでしまって、母上様にとっても叱られちゃった。

 でも今は大丈夫! 庭師のサムじいさんが教えてくれるもの。

「サム、ここ持っててくれる?」

「はい、姫様」

 サムじいさんが花のすぐ下部分の茎を持ってくれている間に、わたしはまた長く茎を残して下の方でパチン、と切った。

 肘に掛けたバスケットの中には先に摘んだ色とりどりの花が入っていて、わたしはそれを見て満足する。

「ふぅ、今日はこのぐらいにしておくわ」

「ええ、ええ、それがよろしいかと」

 額を腕で拭ってそう言うと、サムじいさんはにこにこと微笑んで頷いた。サムはいつもにこにこしているけれど、わたしがお花を勝手に切っちゃった時は、とっても悲しそうな顔をしていた。

 実は母上様に怒られたことよりも、サムじいさんに悲しい顔をさせちゃったことのほうがグッときて、反省したの。

 あの頃のわたしは子供だったとはいえ、職人のきょうじを傷つけたのは姫としていけないことだったわ。


 わたし専用の小さなの鋏をサムじいさんに渡して、バイバイと手を振るとサムじいさんも手を振り返してくれる。

 ずっと付き添っているメイドと一緒に建物の中に入ると、彼女が口を開いた。

「姫様、バスケットをお持ちします」

「自分で持てるわ」

「ですが」

 メイドのデイジーは、わたしが生まれた頃からお世話係なのでいつまでもわたしを子供扱いするの。わたしはもう立派なレディなのに、失礼しちゃう。

 ぷん、と顔を背けて廊下を早足で歩くと、慌ててデイジーも付いてくる。

 そのままズンズン突き進むと、廊下の角のところを曲がってきた人とぶつかりそうになった。が、相手は慌てずひょいとわたしの脇に腕を差し入れて、抱き上げる。

「おっと。僕の姫は、随分機嫌が悪いな」

「ディーノ兄様!!」

 ぱぁっ! と私の機嫌は急上昇、大好きなお兄様の首に抱き着いた。

「リーシェ。今日も可愛いな」

「お兄様は今日もカッコいいわ」

 私を愛称で呼び、お兄様はほっぺにキスをくれる。

 今年十五歳になったディーノ兄様は、正式にりったいしの儀も済ませて今は国王陛下である父上様のお手伝いをしているのよ。リーシェの自慢の、誰よりもカッコいい、大好きなお兄様!

「デイジー、籠を頼む」

「はい、殿下」

 抵抗虚しく、バスケットはお兄様の手からデイジーに渡されてしまう。いいけど、抱き着くのにちょっぴり邪魔だったし。

「姫、このまま朝食にお連れしても構いませんか?」

「まぁ素敵。魔法の絨毯のようですわ、王子様」

 大好きなお兄様に抱っこされて移動なんて、うれしい!

 ぎゅうぎゅう抱き着きながら朝食の間まで運んでもらい、デイジーが扉を開けるとそこには既に父上様と母上様が待っていた。


「おはよう。ディーノ、リーシェ」

「おはようございます、父上」

「おはようございます!父上様!」

 お兄様に降ろしてもらい、父上様に駆け寄るとその頬にキス。お返しももらって、今度は母上様のほうに向かう。

「母上様」

「ん。おはよう、リーシェ。また王の庭に行ってたの?」

 母上様はわたしにキスをしてから、髪についた花の香りを嗅ぐ。

「うん! あのね、この赤いお花はお兄様のお母様にあげるの」

 今日はななつの月の最初の日なので、ディーノ兄様はお母様のお墓に行く日。わたしはお歌の授業があるから一緒に行けないから、お花をお供えするのはお兄様にお任せするのよ。

「いつもありがとうリーシェ。お母様も喜ぶと思う」

 お兄様は優しく笑って、わたしの頭を撫でてくれる。

 お兄様には母親が二人いて、亡くなったお母様にはわたしは会ったことがないけれど、大好きなお兄様が好きな人なんだから、わたしもきっとお母様のことが好きだ。

「青いお花は父上様のね」

「ありがとう、姫。執務室に飾ろう」

 毎朝摘んできたお花を配るのは、わたしの仕事だ。

 父上様のお仕事の部屋には小さな一輪挿しがずらっと並んでいて、昨日と一昨日のお花も飾られている。

 父上様は優しくて穏やかで、うっとりするぐらい綺麗な人だけれど、父上様の一番好きな人は母上様なのだとわたしは知っている。

 だって、母上様を見る時の父上様の瞳はとっても優しくて、真っ直ぐなんだもの。素敵よね。

「母上様の分はえっと……これ!」

 デイジーの持つ籠からお花を一輪抜き取って渡すと、母上様は伏せられているグラスをひとつ、ひっくり返してそこに水を注ぎ花を挿した。

「ありがとう、綺麗ね」

「ふふー」

 淡いピンクで、ひらひらした花びらのお花は母上様によく似合う。

 あとはお兄様の分。でもこれは後でわたしがお届けするつもり!


「お兄様、今日のご予定は? お母様のところに行った後、お時間あるかしら」

 出来たら午前のお茶もご一緒したい、と思って聞くと、ディーノ兄様は困った顔をした。

 んん?

「あー……今日は婚約者の選定の見合いがあって」

「こんやくしゃってなぁに?」

「結婚する相手のことよ」

 母上様がすぱっと答えてくれた。兄様と父上様は何だか変なお顔。

「ええと……せんていは選ぶことだから、お兄様、結婚相手を選ぶの?」

「……うん」

 視線を逸らされる。

「え、わたし呼ばれてないわ!?」

 驚いて大きな声を出すと、また母上様がさくっと答えてくれた。

「兄妹なんだから、あなたがディーノ様と結婚出来るわけないでしょう」

 え


 えーーーーーー!?

 うそ!? わたし、姫なのに!?



明日に続きます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ