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王妃、茶会に出席する


実家でディーノ様と過ごし、陛下と共に城に帰ってから数日後。

大臣達へのお披露目の夜会に出席する前段階として、私は高位貴族の夫人達の集まる茶会へと出席していた。夜会で夫人方と初顔合わせでは互いに話も弾まないだろうから、その前に少しだけでも交流があった方がいい、という妃教育の講師達の提案だ。

本来は王妃の私が開くべきなのだが、これまでの経緯を鑑みて陛下の叔母上、先代国王の娘であるモースタン侯爵夫人が王城の庭で茶会を開いてくれた。


「今日はいいお天気ですね、妃殿下」

「ええ、本当に」

「気持ちのいい陽気で」

和やかに夫人達と微笑み合いつつ、私はそっとカップで表情を隠す。

ファニーも今日は伯爵夫人として参加しているが、離れた席に座っているので他に親しい知り合いはいない。モースタン侯爵夫人とは事前に挨拶していたが、この場で一番目と二番目に高位の私と侯爵夫人が固まっていては交流にならないから、とこちらも席が遠い。

私の席の近くに座るのは、高位だが年齢の近い貴族夫人ばかり。皆さすがに気品に溢れ、私がぎくしゃくとしていても、穏やかに微笑んで待ってくれていたりと親切だった。

結婚前に妹達と愛読していた巷で人気の、身分違いの男女の恋愛小説。そこに出て来るライバル役の高位貴族の令嬢は、皆一様に意地悪だったので、私には衝撃である。皆優しくて、親切。

もっともファニーに言わせると、そんなあからさまな意地悪をしてきてくれるのならば、こちらも対処が楽なのですが、とのこと。

ん? つまり意地悪令嬢は実際にいるってこと?


「王妃様は、ディーノ様ととても仲が良いとお聞きしましたわ。私にも殿下と同い年の娘がおりますの」

「羨ましい。わたくしの子はもう、早い反抗期で……王妃様の人徳のなせる業ですわね」

「今度当家にいらっしゃいませんか? 秘訣を教えていただきたいわ。勿論、殿下もご一緒に」

なるほど。

お飾り王妃はお飾りなりに、彼女達は利用価値を感じているのね。皆、次の王様であるディーノ様への橋渡しとしての役目を私に期待している。でもこれって普通の打算であって意地悪でもないわよね。

私としてもディーノ様の将来の為に、どこどこのご子息がどんな子供なのか、とか把握しておくのは悪いことじゃない。もっとも王子様の将来の側近候補なんて、既に偉い人達が厳しい目で選抜してそうだけど。

ディーノ様の乳母のオルブライト侯爵夫人も今日の会に出席しているけれど、彼女にも大勢の夫人がひっきりなしに話しかけているし。オルブライト侯爵夫人・リリーナ様は有能! てカンジのキビキビした女性で、彼女が乳母として挨拶に来た際に自然と私は背筋が伸びた。

でもアマンダの様に教育熱心というわけではなく、その凛とした在り様は元女性騎士という経歴の賜物だ。

つまりカッコいい系のお姉様、といったところだろうか。お母様が元騎士なので、ご子息のレナード様も幼いながらに騎士を目指していると聞いた。

ディーノ様も乳兄弟に影響されて剣術とか興味を持つかな。成長したディーノ様が騎士服とか着たら絵になりすぎて、女性は皆恋に落ちちゃうんじゃないかしら!


そんな妄想に浸りながらもしっかりと周囲の話に相槌を打っていると、向かいの席に座っていた夫人がそういえば、と声を掛けて来た。

「妃殿下は、お菓子作りがとてもお上手だと聞きました」

それは誤解です。クッキーしか作れません。

「まぁ。王妃様が自ら?」

「厨房にお立ちになるということですか?」

高貴な貴婦人達は驚いて目を丸くするので、私は慌てて訂正した。

「いえ、嫁ぐ前に弟達におやつを作ったことがあるだけで……とても上手というレベルではありません」

それでも彼女達のざわめきは落ち着かない。私の菓子作りのレベルではなく、王妃が自ら厨房に入るということに戸惑っているのだ。

「実は、わたくしも料理は好きなんです。夫には料理人に任せておけと叱られているのですが、子供が生まれたら自分が作ったものを食べさせてあげたくて」

先程の女性が、そう言った。

「まぁ、それは素敵ですね」

返事をしながら急いで頭の中の参加者リストを捲る。

席の位置は、カークデル伯爵夫人ミリア様。確か伯爵は結構年上で、ミリア様は後妻。結婚したばかりで彼女と伯爵の間に御子はおらず、前妻の間の御子が二人、だったかしら。

「嬉しい! 妃殿下ならそう言ってくださるって思ってました」

「え」

それまで静かだったミリア様が突然大きな声を出したので、私も他の夫人達も驚く。

何となく立場が似ているから、ミリア様は私に親近感を抱いているのかしら。

「よかったら今度一緒に料理をしませんか? わたくしはいつでも構いませんので」

「あ、いえ、ですから私は料理が得意というわけではなく……」

ミリア様は結婚前は子爵家の令嬢だったということも関係しているのか、ぐいぐいと話しかけてくる様はこの場では少し浮いている。

ええと、こういう時はどうすればいいのかしら。意地悪をされているわけではなくて、なんというか、ちょっと困る、みたいな時は。

周囲の夫人達も顔を見合わせているが、私がハッキリと答えを出さないので対応に困っている。王妃として一人の貴族夫人とだけ仲良くなるわけにもいかないし、一人受け入れてしまえば、では当家にも、となっても困る。そもそも料理、出来ないしね。

よし、ここは穏便に断ろう、と私が方針を決めた時、庭の入り口の方でざわめきが起き誰かの黄色い声が響いた。

「まぁ、陛下!」

「え?」

驚いて声の方に顔を向けるとライアン様が庭の入口に立っているのが見え、思わず立ち上がる。

結果的にこの行動は正解で、他の夫人達も次々に立ち上がるとカーテシーをしていく。勿論私も爪先まで意識して、皆に倣った。


陛下はお茶会の会場を見渡し、私を見つけると真っ直ぐにこちらに向かってきた。

「叔母上、無粋な真似をして悪いが我が妃に用がある故、彼女を借りていくぞ」

モースタン侯爵夫人に向かってそう言うと、陛下は私の手を引いて歩き出す。え? ここで退席してもいいのかな? いや、王様に連れて行かれるんだからいいんだろうけど。

「み、皆様、お先に失礼します」

何とかそれだけ言って、あとはもう陛下に引かれるままに転んでしまわないように気をつけて庭園を後にした。



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