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焼きたての味は、格別です!

 

 レイリーネが生んだおちびちゃん達は皆可愛くて、私はすぐに彼らの虜になった。

 姉様姉様と言って慕ってくれる弟妹は無条件に可愛らしく愛おしく、この子達の為ならば私はどんな苦労も厭わないだろうと考えていた。

 だからロイに婚約破棄を言い渡された時も、生家から離れなくて済むと喜んだほどだ。

 でも同時に、どうしても弟妹達と違う髪の色や目の色、実母に似た自分の顔立ちを鏡で見ると自分だけが彼らとは違う、という孤独が心を苛んだ。

 唯一同じ立場である同腹の兄はその頃にはもう学校に通っていたので寮生活だった為、たまの休暇で帰省した時にそんな話をすることは躊躇われた。この家で幸せに暮らし育ってきたけれど、何も感じることなく過ごしてきたわけではない。

 その孤独を認め、ゆっくりではあるものの自分の中で咀嚼出来るようになってきたのは本当に最近、陛下とディーノ様のおかげだ。

 実の親子でありながら、関係の希薄だった二人。彼らを結びつける過程で私も彼らと家族になり、少しずつ自分の輪郭を掴んできたように感じる。

 今はまだその途中だという感覚があるが、おかげで今まで見えなかったものがだんだんと見えるようになってきた。

「そうね、私……皆のことが大好きだわ」

 改めてそう言うと、ランスロットは不思議そうな顔をしたけれどすぐに笑顔になって繋ぐ手に力を込めた。


 部屋に戻ると、弟妹達はディーノ様と一緒にわいわいと型抜きを行っていた。

「それじゃあ形が崩れてしまう。そっと持ち上げてみろ」

 椅子の上に立つベンジャミンをルークが支えてやり、ディーノ様がアドバイスを送る。

 ディーノ様ったら今日が型抜き初挑戦なのに、もう指導が出来るほど上達している!

 ベンジャミンはディーノ様の言葉の意味は分かるようで、慎重に型抜きを持ち上げた。すると綺麗に抜かれた生地が残り、おちびちゃんはパァッと笑顔になってディーノ様の方に顔を向ける。

「上手いぞベンジャミン!」

 ディーノ様も嬉しそうに笑って、はしゃぐベンジャミンの頭を撫でた。

 なんて素敵な光景! 絵描きを呼んでちょうだい!!

 ディーノ様は普段自分よりも年下の子供と接する機会がないので、仲良くなれるかしら、と心配していたけど杞憂だった。ベンジャミンに微笑みかける姿は、立派なお兄さんの姿そのもの。

「ディーノ様!」

「ウィレミナ」

 声を掛けると、ディーノ様はご機嫌なまま笑顔を向けてくれる。ベンジャミンには強請られて抱っこをしながら、私も王子様に微笑み掛けた。楽しそうで何よりです。

「ディーノ様、次はヴィオと一緒にやりましょう!」

「ああ、いいぞ」

 ヴァイオレットに腕を引かれて、ディーノ様は別の型抜きへと取り掛かる。ヴィオは自分の方がお姉さん、のつもりなんだろうけどディーノ様が紳士的にリードしている。

「可愛い……」

 私がぽつりと呟くと、隣でアイリスも大きく頷いていた。


 そうして、皆でせっせと型抜きをして焼き上がった天板と交換してまた生地を置いて、を繰り返してようやく全てのクッキーをオーブンへと送りこむことが出来た。

「ウィル姉様……今回ちょっと多くなかったですか?」

 さすがにランスロットがげっそりとしている。おちびちゃんのヴァイオレットとベンジャミンは途中で飽きて、子供部屋へと乳母達と共に行ってしまった。

「久しぶりだし、たくさん作ろうかなって」

 私もさすがに疲れた。単純にいつもの倍量作ったんだけど、人数がいるから作業的には楽かなって、浅はかな考えでした。

 ディーノ様も最初は楽しかっただろうけれど、流石に最後の方は無言で黙々と型抜きをしてたものね。うーん、欲張り過ぎたかしら。

「ディーノ様、お疲れさまでした。王子様をこき使ってしまってごめんなさい」

 椅子に疲れた様子で座るディーノ様に声を掛けると、彼は顔を上げて珍しくふにゃりと笑った。

「いや、皆でわいわいやるのは特に楽しかった。ウィレミナもお疲れ様」

 怒るどころかお礼を言われてしまった! しかも私のことまで気遣ってくださるなんて、相変わらずディーノ様は優しい。恐るべき五歳児です。


 それから皆でゆっくりと休憩のお茶の時間を取った後、晩餐の支度の為にそれぞれの部屋へと向かって行った。

 舞踏会ってわけじゃないけど、普段の夕食とは違い特別な晩餐なので、皆ちょっとオシャレするのだ。ディーノ様も訪問着と盛装は別。勿論私も。

 でもその前にミラベルとエリックの手まで借りて、一番最初に焼き上がっていた分のクッキーを大急ぎでラッピングした。残りはいつも通り、大箱に入れて常備のおやつだ。

 アイリスの分は綺麗な箱にどっさりと入れて、この為に城から持ってきた特別綺麗なリボンを添えた。

「ふふ……飾り結びもミラベルに教えてもらって完璧! ……ちょっと歪んじゃったけど」

「きっとアイリス様もお喜びになりますよ!」

 ミラベルにそう励まされ、へにゃりとしたリボンの結び目に指で触れて私は苦笑した。本当はミラベルに結んでもらえば見栄えも完璧になっただろうけれど、これは自分で結びたかったのだ。

 光沢のある青いリボンは、この後アイリスの髪飾りに使ってもらえたらいいなぁ。あの子の金の髪にすごく綺麗に映えると思うの。


 あとは少量ずつを包んでいく。これは他の兄妹に配る用。中身を知っていても、ラッピングされているとちょっとした贈り物感あって楽しいじゃない? そして勿論、彼らにも。

「手伝ってもらった端から渡すので悪いけど、ミラベルとエリックも受け取ってね」

 包み終わったクッキーを差し出して言うと、二人は快く受け取ってくれた。

「わぁ! 嬉しいです、いただきます!」

「ありがとうございます」

 よかった。お礼の意味も勿論あるけれど、こういう贈り物ってたくさんの人に受け取ってもらえるとアイリスの誕生日を一層祝っている気持ちになって、嬉しい。

 今夜は晩餐が終われば私はディーノ様と共に城に帰るので、陛下へのお土産にもしよう。練習で作ったジンジャークッキー、あの方もとても気に入ってくれていたから。

 ディーノ様も型抜きしたんですよ! て伝えたらどんな顔をするのかしら。



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