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さらに頑丈になります!



*



 近付いてきた美しい顔の圧に耐え切れず、私は手を翳して止めた。

 つもりだったが、何故か陛下は無視して私の掌に音をたててキスをする。

「ぎゃっ!」

「口付けはまだダメか? 我が妃よ」

 ダメじゃないけど、心の準備がまだって言うかっ!!


 恋をして欲しい、と言われてからも相変わらず陛下は忙しい合間を縫っては、私との時間を作ってくれている。

 以前はある程度纏まった時間を捻出する為に仕事を前倒しで行ったりしていた所為で、滅多に会いに来ることが出来なかったようなのだが、今はちょっとした隙間時間を見つけては顔を見に来てくれるようになった。

 ぶっちゃけめちゃくちゃ嬉しいけれど、王様の仕事的に大丈夫なの? と心配もしていて。


 その辺り、陛下の傍仕えのガルドさんという人にこっそり確認してみると、問題ないとのことでしたー! 逆にこれまで仕事を詰め込み気味の陛下を皆心配していたらしく、王妃様のおかげで皆も定期的に休憩を取るようになりました! と感謝されちゃった。愛の力って偉大ね。

 なんか自分で言うと、恥ずかしいな。


 ……じゃなく、やっぱりワーカホリックでした陛下! デキる人って平均レベルの人のことを想像も出来ないのよね。

 ええ、ええ、私は平均の人なのでよく分かるわ。仕事は大事! 特に国に関わることなんだから疎かには出来ないわよね。でもね、働いているその人自身だって国の民の一人なのよ。

 デキる陛下の速さに合わせて全力疾走を強いられているかのような労働環境は悪! 今回は予想外のことが齎した結果だけど、これを機に陛下に平均値の働き方を知ってもらうのはいいことかもしれない。

 もっと一般的な感覚を養ってもらおう。

 期せずして、役に立ってる! 私!


 とか、まぁ。

 ツラツラを現実から目を背けていたけれど、目の前にはその麗しい陛下。彼はまだ私の手に頬を付けている状態だ。私が変な性癖に目覚めたらどうしてくれるんですかっ

 さっ、と手を引くと、彼の青い瞳の視線がそれを辿り、最後は私の顔に戻ってくる。

「で、心の準備とやらは済んだか?」


 陛下、それ悪役の台詞です!!!


 *


「陛下の顔が綺麗すぎて辛い!」

「贅沢なことを言うな、ウィレミナ」

 ディーノ様は今日も絶好調、教師との勉強の時間が終わり、私とのお茶の時間なのに本を片手に会話しています。マルチタスクだ……

「お父様はお忙しい方なのだから、僕が直接お会い出来る時は顔を注視しておきたいぐらいだが」

 うんうん、とディーノ様が頷いてくれるが、そうだけどそうじゃない……! ていうか本当に陛下贔屓だな、この王子様は。


 どんどん本を読んで言語を吸収していっているディーノ様の、最近の口調はもはや五歳児とは思えない。え、体は子供だけど中身は大人とかなの……?

 人生悟っているかの様子もあるし、私に対して冷静なツッコミが最近の常だ。私の方がお姉さんなのに……!


 あの一件以降、相談の結果夕食は三人で摂ることになった。私も陛下も、自分達の恋の為にディーノ様を仲間外れになんてしたくないからね。

 ディーノ様は当初本来貴族の子供は別で食事を摂ることや、夫婦の時間を邪魔している、という気持ちがあって遠慮がちだったのだが、本音はやはり陛下と共に過ごせるのが嬉しいようで、すっかりとお父様大好きっ子だ。

 その代わり、ディーノ様が就寝した後でほんの少し夫婦で過ごす時間を設けてくれてはいる。いる、のだが……

「顔が良過ぎる!! 今まで私はどうやって陛下の顔を見てたの……?」

「ええと、ふしあな?」

 またうんうん、と王子様。

 この小生意気な美しい天使は、ライアン様に顔がそっくりだ。ディーノ様を見ていても、可愛いなぁ綺麗だなぁ、とは思うが直視出来ない、とはならない。

「ディーノ様、ひどくないですか?」

 キッと睨むと、分厚い本越しに彼にじろっと睨まれた。

「僕の読書を邪魔しているウィルミナは、ひどくないのか」

「……すみませんでした」

 すごすごと私は引き下がる。ええ、ええ、お茶を一緒に摂る約束はしていたけれど、この王子様に勝てるなんて思っていませんとも。どうせまた夢中になる本を見つけたんだ。

 私なんてポッと出の継母だし、邪険にされて当然なんですよ。ふんっだ。今度ケーキの上の苺、勝手に食べてやる!


 ディーノ様の部屋を出て、いつも私に付き添ってくれている侍女と護衛と共に広い廊下を歩く。王の家族が暮らす一角は、とても静かだ。

 それでなくとも真昼間、城にいる人はほとんどが仕事中なので暇なのは妃公務を免除されている私ぐらい。

 本当に女避けとディーノ様を育てる為だけに選ばれた頑丈な妃、として存在するならばこのままでも構わないのだろうけれど、私は本当の意味でライアン様の妻になりたい。だとしたら、彼の妻の務めは果たすべきではないだろうか?


 などと難しく言ってみたが、ようはじっとしてるのが耐えられないタイプなだけだ。お仕事ください、お仕事。

 でも、ライアン様も認める優秀な才女だったルクレツィア様でさえ心が折れてしまった公務とか怖くて、やります! 出来ます! て気軽に言えないのよね。


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