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魔法のお花と賢い王子様、そして

 


 ある晴れた午後。私がいつものようにディーノ様のお部屋を訪れると、彼は待ちきれない、といった様子で駆け寄ってきた。

「ウィレミナ! この前見つけた花。どんな花なのか、庭師に聞いてきたぞ」

「え、ディーノ様自分で庭師に聞いたんですか!? 絶対図鑑で調べると思ってた~」

 ディーノ様の言葉を聞いて、私は素直に驚く。


 先日二人で王城の庭を散歩していた際に見つけた花の件は、お互いの宿題にしていたのだ。

 私があんまりにも驚いた所為か、ディーノ様は唇を尖らせてご機嫌を斜めにしてしまう。

「ウィレミナが、人に聞くのも大切だと言ったんだぞ」

「そうですけど、ディーノ様は自分で調べることが大事って仰ってたので、てっきり……」

 そう言って、私が薬草図鑑を取り出すと今度はディーノ様が驚く。

「本を読むとすぐ寝てしまうのに、自分で調べたのかウィレミナ!」

「何です、そのわんぱく坊主みたいなスキル! 私だって本ぐらい読めます!」

 実際結構大変な道のりでしたけれども! 本当に、この王子様はどうしてああも四六時中本を読んでいられるの? 私なんて図書館に入っただけで、その古い紙の香りに幼い頃家庭教師に叱られた日々を思い出して回れ右しそうになったのに。

 ああ、優等生だから教師に叱られたことがないのか。そうですか。ふーんっだ!


 普段私が本に興味を持たないのに、図鑑を抱えている姿が面白かったのか、ディーノ様は途端に機嫌を直してニマニマと笑う。可愛いけど、こ憎たらしいなぁもう! でも可愛いんだから!

「よし、じゃあ答え合わせをしよう」

「そうですね」

 メイドが用意してくれたカップを移動させて、私は図鑑をテーブルに置いた。

「でもなんで薬草図鑑なんだ?」

「いや……最初はちゃんと草花の図鑑から調べ始めたんですが載ってなくて……三冊も調べたのに」

 そりゃあもう大変でした。

 いつも本で調べる、と言っていたディーノ様もこんなに大変なことをしているの? と気が遠くなりそうでしたからね! あとちょっと寝た。

「調べ方にコツとかあるんでしょうか」

「うーん、僕も知らない花だったから、普通の図鑑に載ってない、ぐらいは思いつくかなぁ……でも何事も、調べるのは時間のかかることだぞ」


「なるほど……近道なしですね」

 出来れば裏道とか知りたかったんですけど。

「でも調べてる内に、目的とは違う知識が増えるのも楽しいからな!」

「は、はぁ……?」

「ウィレミナ、変な顔になってるぞ」

「うら若き乙女に向かって、失礼な」

 いやだって、天才の考えが全く理解出来ません! 調べてる目的以外の知識が増える? それが楽しい? もう何言ってるのか、本当に意味が分からない。これが天才の理由……!

「…………だから物知りなんですね、ディーノ様」

「そうか? ……そうかもな」

 へへ、とはにかむ天使に、全て吹っ飛んだ。

 可愛らしさの最上級をいつも更新し続けていますね、ディーノ様。ディーノ様がおられれば、アディンセルの未来は安泰です。何せ可愛いので!


 さて。

「花の名前は、ホラディアだな」

「はい。庭師は知ってたんですね」

「うん、でも詳しいことは知らないそうだ。昼間と夜で花の色が変わるので、何か魔法的な植物だと思う、と言っていた」

 ディーノ様は私が紙を挟んでおいた図鑑のページを、食い入るように見つめる。彼の体の半分ほどもありそうな図鑑は装丁からして古く、魔法に使う薬草が描かれているのだ。


 アディンセルに、魔法を使える者はほとんどいない。

 魔法は足が速いとか背が高いとかの身体的なスキルと見做されていて、魔法が使える者は幼い頃にそれが顕現することがほとんどだ。そのことが分かると、すぐに最寄りの教会に行って魔法使いとして登録し、扱い方のレクチャーを受ける。

 何せ生来持っている力なので、制御方法が分からない者が多いのだとか。まぁ、背が伸びるのを止めろ、と言われても無理なことだが、成長痛が何かを知っていればその点については対処出来る、とかかな? あんまり上手な例えが浮かばないわ。

 まぁ、そんなわけで。すごいスキルであることは事実だけど、そもそも使える者が少ない為国として活用するには汎用性が低く、基本的に魔法使いは国の保護の元、それぞれの能力やその使い道について研究している人が多い、というのがこの国での実情だった。


 他国では魔法師団っていう騎士団の魔法使いバージョンがあったり、戦争に利用している国もあるようだけれど、結局マンパワーなので安定しないし実力差にもムラがあるらしい。

 アディンセルは長く戦争のない統治が続いているので、あまり想像出来ない。

 しかし、魔力を帯びた植物なども当然存在する。それが、今回のこの花、ホラディアだった。

「魔法の花が王の庭にあるのは、いいことなんですか? ダメなことなんですか?」

「庭師は慌てていたので、ダメなことなんだろう。魔法研究の部署にどうすればいいか聞くそうだ」

「なるほど。……うーん、他国からの贈り物の土の中とかに、種が混ざってしまっていたのかしら」

「生えていた位置的に、きっとそうだと思う」

 ディーノ様はうんうんと頷く。

 ちなみにホラディアが王の庭に混じっていたことに気付いたのはディーノ様だったが、庭師には自分で気付いたことにして魔法研究部署に連絡させたらしい。もし何か危険な植物で、そうと気付かず放置していたのならば、庭師の責任問題だものね。でも、


「うーん。それはどうなんでしょう」

 庭師だけの落ち度ではない、と思うけど、今後もこういったことがないとも限らないので、ちゃんと報告した方がいいのでは?

「今後は、そういったことがないように苗などは全て魔法研究部署の方に調べてもらってから、庭に持ってくることにした。……お父様に相談したんだ」

「!」

 何と! ディーノ様が自発的に考えて庭師を気遣い、陛下に話を通したのですね! これは素晴らしい成長なのでは……!?

「殿下の方で既に対処済なのでしたら、私が言うことはありませんね」

「……うん」

 嬉しくなって私が言うと、ディーノ様は誇らし気だ。

 権力を持つ子供が、下手に勝手な行動を取るなら目を光らせておくべきだけど、ディーノ様は本当の意味で賢い。ちゃんとライアン様に進言しているのならば、本当に私なんかが言うべきことは何もなかった。

「大きくなられて……」

 感涙にむせび泣く思いで言うと、ディーノ様はちょっと引いている。何故ですか、いいシーンじゃないですか。


「いいや、まだ全然ダメだ。……僕はこれまで、本に書いてあるのだから人に聞くよりも自分で調べた方が、自分の力になると思ってた」

 勿論それも間違っていない。何でもかんでも人に聞いていては、自分の中に知識は溜まりませんものね。

 その点は、すぐ人に聞こうとした私が反省です。

「でも聞いてみると庭師はもっと詳しく草花のことを知っていたし、図鑑に載っていないことも教えてくれた」

「職人さんですものねぇ」

 うんうん、と私が頷くと、図鑑の上に乗っていた私の手をディーノ様がきゅっと握ってきた。小さな手。

「……人に、話を聞く大切さを教えてくれたのは、ウィレミナだ。……ありがとう」


 う。泣いてもいいのでは? むしろ泣かずにおれますかっ

 ぶわっ! と私の両目から涙が零れた。情緒不安定なのです。



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