表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ王子 Ⅱ 〜輪廻の輪から外れた俺は転生させられて王子になる〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/65

20・闘うこと


 ブガタリア隊は昼には国境の町に着いた。


案外、近かったせいか、すぐに全員が集まる。


先日、王都の町が魔獣に襲われたと聞いたばかりだった住民たちは三十体のゴゴゴを見て悲鳴を上げた。


俺は国境警備の兵士に事情を伝えさせて住民を落ち着かせる。


この町でも時折、魔獣が町に入り込むことはあるそうだ。


今は兵士だけで何とか追い払えているが、最近は別の問題がある。


 イロエストから来た兵士でもない平民や、素行の悪い兵士が多く入って来て、町の治安が悪くなっていたのだ。


彼らは魔獣の討伐に向かわず、比較的安全なこの町に留まっている。


「なるほど」


魔獣より、そちらが問題のようだ。




「おいおい、なんだこりゃ、早く追い出せ!」


警備隊の兵舎で事情を聞いていたら、身なりは良さそうだが品のない男が入って来た。


「あー?」


ブガタリアの鍛えられた兵士がズラリと並んで、その男を睨む。


イロエスト兵崩れで、ここで隊長ぶっていた男だった。


「捕らえろ」


「はっ」


俺の命令で兵士たちが動く。


「ひっ、た、助けてくれ!」




 俺はツデ国の警備兵に町を案内させることにした。


ついでに、町で悪さをしていた奴らを出来るだけ捕らえ、そいつらを広場に並べる。


「俺たちはイロエストの王弟殿下から依頼された魔獣討伐部隊だ。


確かお前たちもイロエストから来たんだよな。


じゃあ、お仲間だ」


エオジさんが優しく話す。


「そ、その通りだ」


助かると思ったのか、笑みを浮かべる罪人たち。


「うん、そうだよな。 では行こうか、魔獣討伐に」


「ひいいい」


大人しく生活していたものは温情として残し、俺たちから逃げようとした者を縄で繋ぐ。


「魔獣の住処すみかはどこだ?」


俺は警備兵に訊く。


たまに来るというなら、近くにあるのだろう。




 ツデ国はブガタリアより土地は広いが、人は少ない。


国境の町以外は王都とされる大きめの街があり、後は農地の中に何ヶ所か村があるそうだ。


「町の外は農地です。 ほとんど湿地帯ですが」


話の分かる警備隊のオニイサンを一人拉致、いや連れて来た。


国境の町から湿地帯へと回る。


「何で、この沼を埋めた?」


湿地帯の所々に土が盛られ、埋め立てた跡がある。


「はい、あの、イロエストから麦を作る農地が欲しいと」


「沼を埋めたら、魔獣が溢れたんだな」


「は、はい、そうです」


魔獣に詳しい者の話では、沼の水溜りは魔獣の巣穴だ。


「ちゃんと事前に調べたのか?」


オニイサンは首を横に振った。


だろうな。


俺はため息を吐いた。




グルル


グロンが警戒する。


「何体だ?」


【ニタイ】


「誰も手を出すな!」


俺は大声で叫ぶ。


「エオジさん、今から二体、出て来るみたいだ。


俺が一人で出るんで攻撃しようとする兵士がいたら、ぶん殴って止めといて」


俺は、この土地の魔獣が話が出来る相手かどうかを見たい。


「承知」


エオジさんが答える前に俺は走り出す。




『魔法強化』


『気配察知』


グロンが強化された『防御結界』を発動する。


「来るぞ」


トカゲ型魔獣であるグロンは沼地も平気で走り、沈むこともない。


水溜りの上を走る俺たちの足音に反応した黒い影が、泥を跳ね上げて飛び出した。




 沼地の魔獣は蛇型だ。


試してみたが、話し相手にはなってくれなかった。


住処を荒らされて怒っているせいかもしれない。


仕方ない、少し減らそう。


「美味いらしいよ」


クオ兄が言ってた。


「皮が大変丈夫な上に水を弾くので、とても高価です」


警備隊のオニイサンの話では、昔は蛇狩りの猟師もたくさん居たそうだが、イロエストから人が入って来るようになると減っていった。


「蛇肉は気持ち悪いとか、蛇を狩るのは野蛮だとか」


ここでも弱体化が起こっていた。


「もしかしたら一夫多妻制ですか?」


「え、ええ、昔はそうでしたが、最近は」  


あー、そうですか。


まったく、バカバカしい。


それじゃあ魔獣に勝てやしない。




 俺は瞬く間に二体の魔獣にトドメを刺す。


引き摺って戻り、見張りを付けて捕虜たちに町まで運ばせ、解体出来る者を雇って処理するように頼んだ。


残りの兵士たちで見回りを続け、魔獣が出たら順番に討伐させては町に持って行かせるというのを繰り返す。


 湿地帯の外周を回っている間に大きな街に着いた。


どうやら、ここがツデ国の王都らしい。


いや、小せえわ。


国境の町とそう変わらない。


ブラブラしてたら人が集まって来て、その中から小綺麗な服装の男性が出て来た。


「だ、誰じゃ!」


あ、マルと似た喋り方する爺さん発見。


 先頭を歩いていたエオジさんがゴゴゴを止める。


「俺たちはイロエストの王弟殿下に頼まれて来た。


ここがツデ国の王都で間違いないか」


「そ、そうじゃ。 おぬしらは何しに来たんじゃ」


爺さん、元気だな。


「ちょっと蛇狩りにな」


そう言って、倒したばかりの魔獣を見せる。


 反応はキレイに二つに分かれた。


顔を顰めて嫌がる者と、うれしそうに目を輝かせる者だ。


「誰かさばける者はいないか。 土産に持って帰りたい」


エオジさんが訊くと、爺さんが手を上げた。


「ああ、手配しよう。 すまないが、手間賃に少し分けてもらえんか」


「構わない」


俺が頷くとエオジさんがそう答えた。




 全員でゴゴゴから降りる。


広場に案内され、そこで今夜の寝泊まり用のテントを張り、食事の用意をした。


俺は井戸の側で泥を落とし、グロンたちを洗い、ブラシをかけて労る。


エオジさんと兵士長が、さっきの爺さんに話を聞きに行った。


 クオ兄の鍋が煮える頃、二人が戻って来る。


「殿下、思ったより酷い状態ですな」


飢えた様子の民に、兵士長は顔を歪める。


「イロエストの軍はどこだ?」


「いません」


エオジさんの言葉に俺は首を傾げた。


「魔獣を見て逃げたそうだ。 ツデの兵士だけで何とか凌いだらしい」


へえ、勇敢に闘った兵士たちを讃えたいな。




「蛇狩りの頭目はどこだ」


大きな声で誰かが呼んでいる。


俺は食事を続け、代わりにいかにも蛇狩りの頭に見える兵士長が返事をした。


「ここだ」


ゴテゴテとやたら着飾った高そうな服を着た中年男性と、若いが気弱そうな現地人の男性が来た。


他にも柄の悪そうなデカいのが何人か居たが、うちの脳筋共を見て小さくなっている。


「やあやあ、良い腕をしているな。


ワシはイロエストの王都から来た大商人だ。


あの蛇を全部買ってやろう、ありがたく思え」


そう言って代金が入った小袋を兵士長の足元に投げた。


「はん、何を言ってやがる。


あれは俺たちのもんだ。 とっとと帰れ」 


兵士長は、その小袋を蹴り返した。


それが商人の顔に当たり、中身が散らばる。


 小銭ばかりの中身に兵士たちが大爆笑。


「見ろよ、あれが大商人様だとよ。 ケチ臭いこった」


商人は顔を真っ赤にさせて喚く。


「ワ、ワシは王都の」


「俺たちはヤーガスア領主の王弟殿下から直接頼まれた。


アンタ、名前を教えてくれないか。 報告しなきゃならん」


いかにも騎士らしいエオジさんが声を掛けると商人は口ごもり、慌てて逃げるように去って行った。




 さっきの爺さんが解体した肉や皮を持って現れる。


「ありがとう。 あいつらは大商人とは名ばかり。


僅かしか取れない魔獣の貴重な素材を安く買い叩く小者じゃ。


我らが自分たちで他の国に売りに行こうとしても、あやつらは邪魔してくる」


俺は肉をクオ兄に渡して鍋に入れてもらう。


周りを見回して子供たちを見つけると、手招きして、肉の入ったお椀を渡してやる。


「熱いから気を付けて食べろよ」


「うん、あちっ」


ブガタリアの兵士たちはその様子を微笑んで眺める。


いつの間にか子供だけでなく、大人たちまでが自分の食器を持って並び、長蛇の列になっていた。


 俺は、涙を流して喜ぶ爺さんに訊いた。


「マルマーリア姫を知ってるか?」


「ひ、姫様に会われたのか。 お元気でおられるのか」


そっか、やっぱりマルの知り合いで間違いないのか。


で、女王様はどこかな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ