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元勇者のTS少女が親友に膝枕されたり頭を撫でられたりする話


 春。空の晴れ渡った気持ちのいい日。

 私たちは二人、とあるアパートの一室に来ていた。


 ……あ、いや、来ていた――というのは、もう少しおかしいのかも。


「――その荷物はこっちにお願いしまーす」


 宅配業者の人にお願いし、家具を家の中に運び込む。

 今回の引っ越しは荷物が多いので大変だ。私も運んでいるけどまだまだ時間がかかりそう。勇者の力で一気に運べば楽だけど、人目があるし。

 

「――ふう」


 荷物を下ろし、垂れて来た髪を払いつつ、軽くため息をついた。

 なんとなく周りを見渡すと、そこにはまだ何も置かれていない部屋が広がっている。


 片隅に段ボールだけが積み上がった部屋だ。

 がらんとしていて荷物に対して部屋の大きさが釣り合ってない気もした。


 借りたこの物件は部屋数が多いからそのせいもあるのかも。


「……大学生が暮らすには、贅沢な部屋だよね」


 二LDKの部屋。大学の場所が県内でも田舎だから少し値段が安くなっているけど、それでも大学生が借りるにはお高めな値段になっている。


 ……でも、今回その部屋に引っ越して来たのは――。


「――カナメ」


 後ろから名前を呼ばれる。低めの落ち着いた響き。

 これまでずっと聞いてきて、これからもずっと聞くことになる声だ。


「廉次」

「……少し休もう。そろそろ昼だ」

「え、もう?」


 手渡されたお茶を飲みながらスマホを出す。

 見ると、もう十二時を回っていた。


 少し夢中になっていたかもしれない。

 今日をずっと楽しみにしていたから。

 

 ……だって、ここは私たちが――。


「一緒に暮らす場所、だもんね」



 ◆



 一年と少し前のクリスマス。

 私と廉次が晴れて恋人になった後のことだ。


『……なんで大学の場所のこと何も言ってくれなかったの』

『いや、別に家から通えるしな』

 

 ひとしきり喜んだあと、数日経って恨みがましく質問したところ、帰ってきたのはそんな言葉だった。


『……え? 二時間でしょ?』

『電車ならな。車だったら一時間位だ』

『……』


 ……まあ結局、そういうことだったらしい。

 廉次としては進学しても実家に暮らすつもりだったと。


 つまりは全て杞憂だったという訳だ。


 ……ただ。


『それだと一緒に居る時間減るよね』

『……まあ、それはな』


 と、いう訳で――


 

 ◆



「かんぱーい!」

「……ああ、乾杯」


 引っ越しが終わり、廉次の部屋から持って来た卓袱台の上にお菓子やジュースを並べて乾杯する。窓の外は日も沈み、部屋の中は新しく設えた電灯が部屋の中を照らしていた。


 新しい廉次の部屋。

 まだ慣れていないこの家特有の匂いがしていて、それがすごく新鮮だった。


「ここが私たちの城だね!」

「……大げさだな」


 去年のクリスマスから一年以上。一念発起して勉強をし、なんとか同じ大学に滑り込めた。とは言っても、学部は違うけど。大学というものは学部によって偏差値が二十も違ったりするものなのである。


「……ここに来るまで長かったなあ……」


 本当に大変だった。勉強なんてほとんどしてなかった私にとっては聞くも涙、語るも涙の地獄の受験生活で……正直思い出したくない。


 付き合いたてなのにあんまりイチャイチャできなかったし。廉次はやると言ったらやるタイプなので妥協は許されなかった。


「……でも、そのおかげで今日からずっと一緒だね!」

「そうだな」


 今日から私たち二人はこの家で暮らしていくことになる。

 同棲生活だ。対外的にはルームシェアだけど、恋人同士なんだから実際は同棲だろう。お互いの両親も二つ返事で許可してくれたし、責める人なんて誰もいない。


 金銭的にも一人一部屋借りるよりよっぽど安いし、光熱費も食費も家事も分担できるのでとてもお得だ。

 

「……ただ、寝室は別なんだよね」

「当然だ」


 二部屋あるけれど、お互い一部屋ずつ使うことになっている。寝るのもそれぞれの部屋ということになっていて……廉次はお堅いなあ……。


「……いまからでも」

「ダメだ」


 取りつく島もない。

 家具選びの時から、この件に関しては廉次は一歩も引いてくれなかった。


 ……まあ、仕方ないか。

 廉次はそういう人だ。そういうところも含めて好きになったんだから。廉次が私が私だから好きと言ってくれたように、私だって廉次が廉次だから大好きなのである。


「……」


 ……

 ……

 

 ……そんなことを考えていたら、なんとなく傍に寄りたくなってきた。


「……廉次、膝貸して」

「ん、ああ」


 廉次の太ももに頭をのせる。

 そして、廉次の手を掴み、私の頭に乗せて――。


「――はふう」

「カナメはこれが好きだよな」


 ……だって、落ち着くから。

 異世界から帰ってきたばかりの頃にやってもらって以来、これをして貰いたくなることがある。


 こうしていると安心して、満たされる。

 ……ああ、幸せってこういうことなのかなって。


「……ねえ廉次」

「なんだ?」

 

 ゆっくりと頭を撫でられる感触。

 目を瞑り、それを感じていると、なんだかとても廉次のことが愛おしくなってきて。

 

「大好き」

「……ああ、俺もだ」


 ……こんな時間がずっと続けばいい。そう思う。

 これからの大学生活もその後も、ずっと、ずっと。


 ――そう願い、廉次の暖かさに身をゆだねた。


 


これで『元勇者のTS少女が親友に膝枕されたり頭を撫でられたりする話』は完結です。

大体半年くらいですね。ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました。


課題の多い今作ですが、なんとか完結させることが出来て安心しております。

感想など大変励みになりました。


次はTS令嬢の続きか、ちょっとした短編などを投げようと思っております。

機会がありましたら、そちらもお付き合いいただけたらと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はふぅ、最高でございました。
[良い点] 甘い物語をありがとうございました! テステロンさんの描くカップルは幸せそうで読んでてこちらも幸せになります! [一言] 完結お疲れ様でした。 TS令嬢と次回作も楽しみにしております!
[良い点] 完結お疲れさまです! 大変楽しく読ませていただきました!
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