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元勇者のTS少女の親友が大切なことを伝える話


 夜、なんとなく天井を見上げながら、明日のことを考える。

 クリスマス。一カ月以上前から約束していた日だ。俺とカナメにとって、きっと大切な一日になるであろう日。


「……しかし、眠れないな」


 ――なのだけど。


 緊張でもしているのか、どうにも眼が冴える。目を瞑ってもなかなか寝付けない。

 寝不足の顔で告白するのもなんだし、そろそろ眠りたいんだが……。


「……はあ」


 こういうものは考えれば考えるほど眼が冴えるものだと聞いたことがある。

 人生で眠れないことなんて初めてで、混乱していた。目を瞑っても、人生で初めてひつじを数えてみても、どうにも眠気が感じられない。


「……困ったな」


 ぼんやりと天井を見上げる。

 そしてなんとなくこの半年のことを思い返して――。


「――ん?」


 ガラリ、と音がした。次いで、ギシリ、という窓枠に足を掛ける音。

 視線を向けると、影が見える。灯りがないのではっきりとは見えない。でも見覚えのあるシルエットが部屋の中に入って来た。


「……カナメ?」


 長い髪が見える。

 そして窓から漏れる月明りに照らされた金色の髪も。

 

「……カナメ、どうした?」

 

 こんな時間にどうしたのだろう。

 不思議に思いつつ、体を起こし、声をかける。


「……廉次」


 返事は俺の名前だけだった。ただそれだけ。事情は分からない。

 ……でも、そこに込められた感情だけは分かった。


「……何かあったか?」

「……」


 悲しそうな、辛そうな声だ。

 何故そんな声を出すのか分からない。返事もない。でもふらりふらりとこちらに近づいてくる。


「……カナメ?」

「……」


 ポン、という軽い音と共に、カナメが布団に倒れ込んでくる。

 俺の足の上。上半身だけをベッドに預ける様に、縋りつくように。


「……廉次」

「ああ」

「………………廉次は、さ……」

「……ああ」

「………………ぅ」


 か細い声。かすかに聞こえる大きさで俺の名前を呼ぶ。

 しかしそれ以上の言葉はない。


 ……しばしの沈黙が部屋を包む。


「……………………怖くなったの」

「……怖くなった?」


 そして、カナメが口に出したのはそんな言葉だった。


「……怖いの。怖い。でもどうすればいいか分からない」

「……」

「どうにもできない。だって、それは私が私である以上ずっと付きまとってくるものだから」

「……カナメがカナメである以上?」

「過去は変えられない。何があっても私がかつてそうだったことは、絶対に変わらない」

「……」

「不安なの。……どうしようもないから、不安になる」


 ……

 ……

 

 ……どういうことなのだろう。よく分からない。

 カナメは不安らしい。でも何が不安なのかが分からない。カナメ自身、そこを隠して言っている気がする。


「……」


 カナメは先の言葉を一息に言って、そして口を閉じている。

 何も言わない。ただ、布団を掴んだ手が震えている。


 ………………不安、か。


 分からない。よく分からないが……しかし、カナメはきっと今この瞬間も不安なのだろう。それなら俺は考えなければならない。カナメは俺の大切な人なのだから。


 ……カナメは一体何を不安に思っている?


「……」


 ……不安。

 ……そういえば俺も不安だったな、なんて、そんなことを思い出す。


 もう半年近く前のことだ。ある夏の日のこと。

 カナメが女の子になって、どんどん変わっていく気がして、置いて行かれそうな気がした。


 変わっていくカナメが俺の傍にいてくれなくなるんじゃないかと思って、今のままじゃダメだと思った。

 ……だから、カナメの恋人になろうと思った。俺も変わろうと。カナメの傍にいられるような男になろうと思ったんだ。


「……」


 ……昔、カナメが異世界に行く前は、そんな不安なんてなかった。ただ毎日が楽しかった。俺たちはずっと親友だと信じていられた。

 でも女の子になって帰って来たカナメは、日々変わっていって。


 性別。言葉にするとたった一言なのに、それは何よりも大きな変化だった。


「……ああ」


 もしかして、と、ふと思いつく。

 これなんだろうか。カナメの不安は、性別のことなのでは?


 親友であっても別の人間である俺でさえ不安になったんだから、もしかしたらカナメはもっと不安になっているのかもしれない。


「カナメ」

「……うん」

「不安というのは……その、性別のことか?」

「……!!」


 ビクリ、とカナメの肩が震える。

 そして顔を上げ、俺を見て――。


「――」


 何度か口を開いたり閉じたり。驚いたような顔。 

 そして、次に悲しそうな表情を浮かべ、目を伏せる。


「……気付いてたの?」

「……いや、今気付いた」

「……そう」


 カナメが唇を噛む。

 握りしめた手が震えていて、何かを堪えているようにも見えた。


「……廉次。ずっと聞けなかったことがあって」

「ああ」

「…………私、元男だけど…………どう思ってる?」

「……なに?」

「男だったのに、今は女になってるから……き、きもちわる……変だなとか、思ってない?」


 ……………………は?


 ……は? 変? 気持ち悪い?

 そんなこと――


「――思うはずがないだろ」

「……え?」


 カナメに対してそんなこと考えるはずがない。

 真剣な顔でありえないことを言わないで欲しい。まさか、そんなことを不安に思っていたのか?


 改めて顔を見る。驚いたような顔。

 冗談を言っているようには見えない。


「……」

 

 ……というか、そもそも。


「……そんなの、今更じゃないか?」

「へ?」


 もうカナメがこの姿になって半年以上経つ。

 最初の頃ならともかく、今更する話じゃないような。


「――」


 ――ああ、でも。

 言われてみれば、そのことについてカナメと話したことはなかった気がする。


 カナメの性別が変わったことについて、最初はあまり触れない方がいいかと思った。

 そして途中からは、慣れてしまって話すほどのことでもない気がした。


 ……もしかして、それが間違いだった?


「……」


 なんとなく、思う。普通なら、気持ち悪いとか変だと思った人とは仲良くしない。近づかない。そういうものだ。

 でも俺たちは最初に親友という関係があった。誰よりも仲が良かった。……だから。


「……もしかしたら」


 これは一番最初にするべき話だったのかもしれない。

 カナメが帰って来たばかりの頃にそれをしなかったから、いろいろ拗れてしまったような、そんな気がして。


「……カナメ」

「……へ、あ、うん」

 

 しっかり伝えなければ。そう決意し、カナメに向き直る。

 

「カナメに言うべきことがある」

「う、うん」


 一度、深呼吸をする。

 そして、伝えるべきことを頭の中で整理して――。

 

 ――ふと時計を見る。もう午前零時を回っていた。

 ……クリスマスだ。


「……俺はカナメのことを気持ち悪いなんて思わない」

「……!!」


 思わない。思うはずがない。

 カナメは俺にとって誰より大切な人だ。


「むしろ可愛いと思っている」

「……へ?」

「髪は綺麗だし、目の色はたまに魅入られそうになる」

「……ふぇ?」


 カナメの目を見る

 見開いた目としっかりと目を合わせて、伝える。


「手を繋いだら嬉しそうな顔で笑うのが好きだ」

「……あの」

「繋いだ後、何度か手をにぎにぎとするのは、擽ったいけどつい俺も笑いそうになる」

「……あ、えっと」


 そうだ。傍にいて、一緒に歩いているだけで幸せになれる。

 ……それくらい大切で、愛おしく思っている。


「毎日作ってくれる弁当は美味いし、作ってもらえる俺は幸せ者だ」

「……」

「朝、カナメに会えるのが嬉しい。笑顔で挨拶してくれると今日も頑張ろうという気持ちになる」


 日々、感謝している。

 ……それなのに、カナメを不安にさせていたのが申し訳ない。

 

 だから、もう二度と勘違いされないように、俺が思っていることを、一から十まで伝えなければならない。

 

「――カナメ」

「……は、はい」

「好きだ。愛している。これからの人生を一緒に生きて欲しい」

「――」


 でも、考えていることを全て伝えるのは大変だ。とても時間がかかる。

 今だけだと到底伝えきれないだろう。……だから、これからの人生で。


「俺の恋人になってくれ」

「…………の?」

「……カナメ?」

「――いいの? でも、私は元男で」


 ……まだ言うか。

 それほどまでに不安になっていたということなのか。


「男だったときの顔、知ってるでしょ?」

「もちろんだ」

「……だったら」

「だから、それも含めてカナメのことが好きだと言っている」

「……へ?」


 驚いた顔をしているが、当然だろうに。

 俺はカナメがカナメだから好きになった。


「好きだ」

「……」

「俺たちは長く傍にいた。昔も今も良く知っている。その全てをひっくるめて、カナメのことが好きになった」


 だから元男だとか、そんなことは気にしないで欲しい。


「何度でも言おう。俺は、カナメが好きだ」

「……うん」

「だから、俺の恋人になって欲しい」

「…………ぐすっ……うん」


 カナメが俯いていた顔を上げる。

 その顔は、涙で濡れていて……でも確かに笑っていた。


「……ひっく……わ、私も」

「ああ」

「私も、廉次が好きです」


 言葉と共にカナメが飛びついてくる。

 それをしっかりと受け止める。


「……うぅ……廉次ぃ」

「ああ」


 暖かい感触。

 

 ……それを手放さないように、しっかりと抱きしめた。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] ようやく! おめでとう!
[良い点] やったぜ!やりおったぜ!
[良い点] 廉次くんの愛が深すぎる…… いや、TSして別人と化してても即気づくほどだから今更かとも思うけども…… そして度量がでかすぎる…… これはまごうことなきイケメン…… カナメさん良い男つかま…
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