裏話 元勇者のTS少女が呻いたり後悔したりする話
「ああああああああ……やっちゃった……」
家に帰り、布団に倒れ込む。
顔を枕に埋めて、胸の奥の感情を吐き出した。
「……なんで……ああああああ」
あのとき。ついさっきの帰り道。
廉次はどこか覚悟を決めた顔で私を見つめていて――
「――あれ、私に告白しようとしてなかった……?」
……してたよね? してた気がする。
だってそんな雰囲気が出てた。そんな感じの顔をしていた。
勇者の直感もそうだよって言ってる。
多分間違いない。廉次はきっと告白するつもりだった。
「……」
……でも、それなのに私は、つい待ってくれなんて言ってしまって。
「……あああああああ」
後悔、後悔だ。悔やんでいる。
なんであんなことを。あと数秒何も言わずに待ってたら、今頃もしかしたら廉次と恋人同士になれてたかもしれないのに。廉次の部屋でいちゃついてたかもしれないのに……。
「……うう」
……だって、突然だったから。
一か月後で準備をしていた。クリスマスの日に私から告白するつもりだった。
廉次に告白してもらえるなんて全く思ってなくて……。
……なにせこれまでがこれまでだった。
色々アピールしたけど廉次は朴念仁で、今日のお化け屋敷だって抱き着いても不思議そうな顔をしてた。だから、当然のように私から告白することになると思っていたのに。
「……いきなり不意打ちで告白されても困るよぅ……」
慌ててしまった。そしてつい逃げてしまった。
「ああああああ……」
……というか、私の悪いところが強く表れた気がする。もともと私は、用事があっても直前までやらないタイプなんだ。
定期テストの時も夏休みの課題の時もそうだった。ついついあと伸ばしにしてしまって、その結果廉次に泣きついた。
私は、期限を区切ったら必ずやる。異世界の時からそうだ。でもその代わり、期限ギリギリまでやらないダメなところがあって……。
……だから、期限の前にいきなり目の前に来たから混乱してしまった。
「……やっちゃったよぉ」
告白してもらえそうだったのに。それをずっと待ち望んでいたのに。何よりも欲しいものがすぐ手の届くところに来てたのに……慌ててつかみ損ねてしまった。
……おかげでクリスマスまでお預けだ。誰が悪いかと言えば間違いなく私が悪い。
「……というか、これから一カ月待たなきゃいけないの……?」
クリスマスまであと一カ月以上ある。
私がそう言ったんだから、廉次はそのようにするだろう。それまではしない。廉次はそういう人だ。
だから……これから一カ月、目の前に餌を吊り下げられた状態で生殺し……?
「辛すぎる……」
そんなの耐えられない。今すぐにだって付き合いたいのに。
何よりも欲しいものだから、手に入らない辛さは何よりも強いのに。
「……いっそ今から」
窓を開けて隣の部屋に行って、廉次にさっきは変なことを言ってごめんなさいって言えば、きっと廉次は欲しい言葉を……。
「……いや、そんなの無理だよ……」
それが出来たら苦労しない。
出来ない。出来なかったからこそもう半年以上悩み続けてるんだから。
「怖い……」
あのときの廉次の言葉は、おそらく告白だった。きっと間違いない。直感もそう言っている。
……でも、もしそうじゃなかったら。そう思うと何もできなくなる。これまでの半年間ずっとそうだったように、足がすくんで動かなくなる。
何よりも大切だから、失いたくない。
ずっとそばにいて欲しい。いてくれないなんて嫌だ。
「……初めて剣を持った時より怖いよ」
体が痛いことより怖い。死にそうになることより怖い。
命よりも重いものは、確かにある。
……というか、命より重いものがあるからこそ、あの世界ではみんな剣を取って戦っていたんだから。
痛いことより、自分の命より大切なことがあったから。家族が、友が、誇りがあったからこそ、みんな必死に足掻いていたんだ。
……それが私にとって廉次だったというだけの話。
「……はあ」
思わずため息をつく。
どうしよう。どうすればいい?
「クリスマスを待つしかないの……?」
待つのは辛い。でも勇気が出ない。
断られたくない。失いたくない。
……その堂々巡り。
「……ああああああ」
ほんとに、なんであんなことを……。
後悔して、でも今更どうしようもなくて。
布団に向かって呻いているうちに時間は過ぎていった。




