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裏話 元勇者のTS少女が決意したり親友を誘ったりする話


 誠実ではなかったと思い、なんとかしなければと思った。

 フリなんかじゃなくて、ちゃんと恋人同士になる。そう決めた。


「……」


 そして、その決意から何も変わらないまま一カ月が過ぎました。

 我ながら正直どうかと思います。


「……はあ」


 自室のベッドの中。枕に顔を突っ伏してため息を吐く。

 知らなかったなあ……私ってこんなにダメ人間だったんだ……。


 なんとかしようと思っても何ともならない。万が一の言葉が怖くて何もできずに時間が過ぎていく。元男はちょっと……とか、そういうつもりじゃなかったんだ、とか。そんな言葉が帰ってきたらと思うと何もできなくなってしまって。


 ……というかむしろ距離が開いた気もする。物理的に。

 夏も終わり、秋も深まって来た。エアコン魔法はもう必要なくて、手を繋ぐ必要もなくなった。……それが悲しくて、今の自分が情けなくて。


「あの屋上の女」


 あのとき廉次を呼び出した女。

 廉次に手を出そうとしたのは腹が立つけど……でもその一方、すごいなとも思う。私よりよっぽど勝算は低かっただろうに、でもきちんと呼び出して話をした。

 

 私には出来ない。出来てない。私はあの娘よりよっぽど弱虫だ。

 勇者をやってた時の勇気はどこに行ったのかな? 勇気あるものと書いて勇者じゃなかったんだろうか。


「……まあ、正直今の方が異世界の魔王戦より辛いけど」


 あのときよりよっぽど怖いし、悩んでいる。まあ、あれは肉体的な命の危険で、こっちは精神的な命の危険だから一概に比べられるものじゃないのかもしれないけれど。


「うーん」


 どうすればいいのかなあ……。

 悩んでも悩んでも答えが出ない。

 

「………………でも、辛くてもどうにかしないと」


 いつまでもこうしているわけにはいかない。

 うじうじとしているのは楽だけど、でもそれはいけないことだ。


 ……こういうとき、異世界だとどうしてたっけ……?


「……確か……期限を区切っていたような」


 やりたくない仕事をするときにしていたこと。期限をきちんと区切って、そこまでには必ずやると決意する。

 そうだ。魔物が下水道に巣食っていたときも、ゾンビに埋め尽くされた町に行った時もそうだった。嫌だけど、やると決意してやる。そうすれば案外なんとかなるものだ。


 ……うん、それなら今回もきっと。


「……よし!」


 決める。大事なのは期限だ。そして覚悟を決めること。

 ダラダラとしていたのが間違いだった。もっとはっきりと。そう決意する。


「……クリスマスまでに恋人になれてなかったら、私から告白する!」


 これは絶対だ。何があろうともそうする。

 決意は意志を生み、意志は行動を産む。そういうものなのだから。


 あの娘は好きじゃないけど、でも見習う必要がある。

 逃げてばかりじゃなくて、ちゃんと向き合って。


 ――クリスマスまで、あと一カ月と少し。出来る限りのことをしようと思った。



 ◆



「廉次! 文化祭何する!?」


 決意から一晩。放課後のひと時。

 廉次の部屋に集まったところで、早速行動を起こすことにした。


 話題は文化祭。高校生にとって、大きな大きなイベント。

 恋人を作るのならこのタイミング、とそう言っても過言じゃないだろう。


 クラスの中にもちらほらカップルが増え始めていて――これに乗らない手は無いように思う。夏にも似たようなことを考えた気もするけれど、あのときはあのとき、今は今だ。


 みんな浮ついた雰囲気を出している。私もそうだし、きっと廉次もそうだ。なので大チャンスのはず。


「……文化祭か」

「うんうん、パンフレット貰ったでしょ? 当日何するか決めようよ。お化け屋敷とかどうかな」


 つり橋効果的な意味でいいと思う。お化けに怖がってるふりして抱き着いたりとか。本当はお化けとか全然怖くないけど。あっちの世界で幽霊やらゾンビやらと戦ってきた私にそんなものは効く訳がないけど。しかしそれは、嘘も方便というやつだ。


「ほらほら、二クラス合同でやるんだって。結構大掛かりみたいだよ?」


 規模が大きいというのは良いことだ。抱き着くチャンスも増える。抱き着いたまま歩く距離も増える。クリスマスまでに決着をつけると決めた以上、もっと積極的にいかないと。


「あとこれとか、大きい迷路作るんだって。それに出店も沢山――

 ――廉次?」


 と、ふと気付いた。

  

「なんだ?」

「……その、なんで私の顔を見てるの?」


 ……まあ、別に見られるのが嫌って訳じゃないけど……でもさっきからずっと私の顔しか見ていない気がして。どちらかと言うと、今は文化祭のパンフレットを見て欲しいな、と。


「……すまん、カナメが楽しそうだったから、つい」

「楽しそうだったから?」


 申し訳なさそうな顔で廉次が、頭を掻いて――。


「――ああ、少し思うところがあってな」

「……?」

「すまん、なんでもない。パンフレットを見よう。

 ……大きい迷路か、楽しそうだな」

「え、うん」


 ……まあ、なんでもないっていうのならいいんだけど。

 気を取り直して二人でパンフレットを覗き込む。


 その日の放課後は二人で予定を立てながら過ぎていった。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 期限を切ってちゃんとタスクをこなせるなんてカナメちゃんはエライなあ・・・ [気になる点] ・・・おや!? 廉次のようすが・・・!
[一言] どうしたのかな?
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