元勇者のTS少女の親友が遠回しにものを言ったり、膝を叩かれたりする話
正直に言うと、少し期待していた。
何か変わってくれるんじゃないかと。
『それなら、カナメはどうしたら人のことを好きになるんだ?』
その質問に、しかし返答は分からない、と帰ってきて――想定通りではあるものの、少しがっかりする。まあ、なんとなくそんな感じの言葉が帰ってくるんじゃないかとは思っていた。
結局、カナメは俺を男としては意識していないということなんだろう。カナメは俺を親友だと思っている。もちろんそれ自体は嬉しいことだ。だが……。
「……そうか……わからないか」
「そ、そうだよ。全然わからないよ」
……まあ、残念だが仕方のないことだ。俺の努力不足をカナメのせいにする事は出来ない。なにせ俺はまだカナメへの感情を自覚したばかりだ。まだまだこれからなのだから。
誉め言葉の一つも言ってこなかったくせに、自分のことを好きでいてもらおうなんて、いくら何でも傲慢が過ぎる。
「……」
「で、でもなんで廉次はそんなことを聞くの?」
……ん、俺?
それはもちろん、俺がカナメのことを好きだからだ。それ以外に理由はない……しかしそう言う訳にもいかないのが現状だった。
まだ早い。それを言うのはもっと時間が経って、カナメが俺に恋愛感情を抱いてくれてからだ。それが確信できてから。
今俺が告白したら、もしかしたらカナメは受け入れてくれるかもしれない。本当は俺のことを好きじゃなくても、カナメは優しいから。俺が傷つくことを嫌って、内心どう思っていても頷いてしまうかも。
……でも、それは俺がしたいことじゃない。
俺はカナメを幸せにしてやりたいし、心から笑う姿を見ていたい。だから、無理強いはしたくなかった。
……なので、とりあえず誤魔化すことにする。
何かないかと思って頭を巡らせると、カナメの買ってきた漫画が目に入った。
「……たまにはいいじゃないか。この前読んだ漫画にあっただろう? 恋バナ、というやつだ」
まあ、似合わない自覚はあるけれど。
俺も初めての感情を抱いて、のぼせ上っているのかもしれない。膝から伝わるカナメの体温は暖かくて――その熱が頭に伝わったのかも。
熱くて、心地よくて、苦しくて――。
――でも嫌じゃない。そんなよく分からない熱がある。
「……考えてみれば、カナメとこんな話をしたことはなかったかもな。今まではそんなこと、しようとも思わなかった」
ふと思う。もっとこういう話をしても良かったのかもしれない、と。
例えば修学旅行の夜、例えばお互いの部屋に泊まった日。そういう時にこういう話をしていれば、もしかしたら何か変わっていたのかもしれない…………なんて、そんなことを。
「ふ、ふーん。……それは別に遅くないんじゃない?」
「……なに?」
「今からでもいいじゃん。……私も、廉次がどんな人が好きなのか知りたい」
……なるほど。
俺がカナメの好きな人が気になるように、カナメも俺の好きな人を気にしているということか。
それなら、答えないわけにもいかないだろう。何せ最初に聞いたのは俺だ。その責任は取るべきだと思う。なんでもそうだ。言い出しっぺの法則。
「……そうだな」
しかし悩む。俺が好きなのは紛れもないカナメだが、まだそれを伝えるわけにはいかない。だからそれを少し婉曲的に、でも嘘はつかない程度で……。
――と、カナメと目が合った。
そしてそこで一つ思いつく。
「――そうだな、目の色が綺麗な人、なんてどうだ?」
「……え?」
なんとなくそう思った。目の前にあるもの。好き透った色。真っ青な目。
それがまるで、空を思い出すような、宝石のような綺麗な色が見えたから。
「…………えっと……え?」
カナメが瞬きする。
蛍光灯に照らされた青色が瞬くように光る。
……ん?
気付く。カナメが顔を赤くしている。
「……目、目の色? それって……?」
長いまつげが揺れる。
そしてその奥の瞳が右へ左へと動いていた。
……少し、あからさま過ぎただろうか。
でもこれくらいは言ってもいいだろう。別にカナメだなんて言ってないんだから。
「……どうした、カナメ?」
「ね、ねえ廉次。……これはさっきの――廉次の好みとは関係ないんだけど……私の目の色ってどう思う?」
カナメと目が合う。
水に濡れた青い瞳が美しく輝いている。
「……」
「……」
綺麗だ。心からそう思う。
……でも、それを言うともう告白になってしまうことくらい俺にも理解できた。
「……さあな」
だから、誤魔化した。
伝えることだけは、まだ出来ないから。それはもっと後、時間を重ねてからだ。
「………………むー!!!!」
と、なぜかカナメが唸り、俺の足を叩き始める。
最初はぺちぺちと。しかしだんだん強くなっていって――。
「――おい、痛いぞ?」
「痛くてちょうどいいの!」
頬を膨らませている。パチンパチンと足を叩きながら。
目を少し吊り上げて、もう、もう、と叫んでいる。
「廉次のばーか!」
「……すまんな」
……でも、そんなカナメも可愛いと思ったのは、カナメに少し失礼だったかもしれない。




