元勇者のTS少女がスカートを気にしたり親友に囁かれたりする話
カナメと二人で歩いていきたいと思った。
そのためにはどうすればいいかと考えた。
親友のままではダメだ。いつかはきっと離れることになる。俺は男で、カナメは女になった。今までのように何も考えず友達でいる事は出来ない。
男女の友情は成立しないという言葉もある。
本当にそうかは分からないが、俺とカナメに関してはそうだったのかもしれない。
カナメはどんどん変わっていって、親友のままでと思っていた俺は、気が付けば置いて行かれそうになっていた。
ではどうするか。どうすればいいか。
……そんなものは決まっている。その手のことには縁遠い俺だが、さすがにそれくらいは分かっている。
――恋人になるしかない。
親友ではなく、恋人になって手を握り締めておくしかない。
……だから、そのために行動しようと思った。
◆
夏休みが終わり、九月がやって来た。
久しぶりの学校は特に変わったこともなく始業式とホームルームだけで終わり、今はカナメと二人で帰路についている。
「……」
「……」
二人で特に会話をすることもなく歩き、しかし気まずいと思うこともない。
久しぶりののんびりとした時間は緩やかで、俺としても居心地がいい。こういう時間を守りたくて、俺はカナメの恋人になりたいのだろうと思う。
考えてみれば、こういうゆったりとした時間も久しぶりだ。
夏祭りに行ったのが八月の二週目で、その次の週には俺は祖父母のいる田舎に帰っていた。そこで一週間だらだらと過ごして、そして最終週はというと――。
『……どうして宿題を全くやってないんだ……?』
『……うぅ……ご、ごめんなさい……』
――という感じになっていたので、ゆっくりする余裕もなかった。
ここ一週間は余計なことをする暇もなく、朝から晩まで勉強漬けだったことになる。
それはそれで楽しかったが、恋人になるという点では全く進展していないのが少し歯がゆかった。
「……」
「……ん」
なんとなく手を握り直す。するとすぐにカナメが握り返してくれた。
体は冷気に包まれて涼しくて、でも手の平だけが暖かい。
「……」
……カナメは今の状況をどう思っているんだろうな。
そう、ふと思う。カナメは俺のことをどう思っているんだろうか。
こうして手を繋いで歩いているのは友情なのか、それとも恋愛感情なのか。
………………まあ、恋愛感情ではないだろうな。
それだとおかしな点がいくつかある。
膝枕をしたり、頭を撫でられたがったりと、もしかしたらと思う点はあるものの、しかしそれはこちらの世界に帰ってきてからずっとだ。
それが恋愛感情によるものだとすれば、カナメは帰って来たばかりの頃から俺のことが好きだったことになる。それは流石に無いのではないだろうか。
カナメは女性らしくなったとは言え、それはこの数カ月で少しずつだ。帰って来たばかりの頃は男に言い寄られて嫌だった――みたいなことも言っていたし。あの頃の性自認は男だった可能性が高い。なので、その頃から恋愛感情を持っていたかと言われれば疑問符が付く。
……ああ、きっとそうだ。
だから俺はこれからカナメに好きになってもらえるよう努力しなければならない。それが俺のするべきことだ。
「……ただいま」
「おじゃまします」
そうこうしているうちに家へと辿り着く。
我が家は共働きなので家の中から返事は聞こえない。いつものようにそのまま俺の部屋へと向かった。
「はー学校疲れ……た……」
「……?」
部屋に入るなり、カナメがいつものように俺のベッドに飛び込もうとして――止まる。そしてスカートを整えながらベッドに座った。両足がぴたりと閉じて背筋も伸びている。
「……どうした?」
「な、なんでもないよ?」
首を振ってカナメはそう言う。しかし手はスカートを抑えていて……。
……なんだ? そういえば今日は妙に動きがぎこちないような……。
……ああ、そういえば。と一つ思い出す。
「……新しい制服が合わないのか?」
「ち、違うよ?」
カナメが目を泳がせている。
……まあ、違うというのならそれでもいいんだが。
◆
しかし、カナメに好きになってもらうとは言っても、何をすればいいんだろうな。そんなことを考える。
物語とかならデートをしたり、二人で勉強したり――というのが多い気もするが、俺とカナメの場合その辺りは普段からしている。暇なときは一緒に出掛けることも多いし、勉強なんていつものことだ。
……では、これ以上はなにをすればいい?
それが分からなくて、頭を悩ませる。朝はとりあえず褒めてみたが、それだけでは何も変わらないだろう。
「廉次、頭撫でて」
「……ああ」
……まあ、少しずつやっていくしかないのかね。
そう思いながらカナメの頭を撫でた。
最初は妙に動きが鈍かったカナメも、時間が経つにつれていつもの調子に戻って来た。
今はベッドの上に寝転がり、俺の膝に頭をのせて漫画を読んでいる。
なぜかスカートを頻繁に確認したり、抑えたりしているのが気になるが……まあ本人が大丈夫と言うのならそれでいいのかもしれない。
「廉次、あーん」
「……ほら」
指で口元を指して催促するので、カナメの口の中にチョコを入れてやる。
「ありあとー」
「……ああ」
ニコニコと笑うカナメを微笑ましく思いつつ――
――しかしこいつ無防備だな。
女として意識すると、カナメがいかに隙だらけかよくわかる。
俺だからいいが、これを俺以外の男相手にしていたら大変なことになっていただろう。
「……」
……俺以外、か。
自分で考えといてなんだが、少しイラっと来るな。
「ほらほら、もっと撫でれ」
「……ああ」
いつの間にか止まっていた手を動かす。
催促されて通りに頭を撫でると指の間を髪が通った。さらさらと流れる金色の髪は触れているだけで心地いい。
「ふわぁ……」
「……眠いのか?」
「うん……気持ちよくて。ねえ廉次、こんなこと私以外にしちゃだめだからね?」
「……しないさ」
何を言っているのやら。
俺がこんなことを他の人間にするわけが無いだろうに。
「……」
……そしてその言い草に先程少しイラついたのを思い出す。
そうだ。他の人間にするなと言うのなら――。
「――カナメ」
「んーなに?」
「お前こそ、俺以外の男にこんなことするなよ?」
「………………ふぇ?」
醜い独占欲だ。
まだ付き合ってもいない身で言うべきではないのかもしれない。
……でも、どうしても抑えられない。
カナメの隣に立つのは俺であってほしい。そう思う。
「……いいな?」
「………………ひ、ひゃい」
耳元で囁くと、カナメが顔を赤くしている。
……強く言い過ぎただろうか。
そのことを少し後悔しつつ……しかし訂正する気にはなれなかった。




