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裏話 元勇者のTS少女が相談したり知ってはいけないことを知る話


 夕方はあの漫画についつい共感してしまった。

 そう思いながら頭を悩ませる。


 悩んでいる理由はもちろん廉次だった。


「……なんであんなに鈍感なんだろう」


 私が異世界から帰ってきてそろそろ三カ月。

 当初の予定ではとっくにイチャイチャしている頃だ。それなのに、私は今こうして頭を悩ませている。


 廉次が早く告白してくれていたら……なんて、そう思う。

 私がしたら? という意見は横に置いておくとして。


「……ていうか、そろそろ夏休みなんだよね」


 夏休み、そう夏休みだ。

 学生生活の華。一年で最も楽しい季節。青春と言えば夏休みと、何十年も前から決まっているくらい大切な時期。

 

 皆が皆、きっと楽しい思い出を期待して胸を高鳴らせているだろうし、彼氏彼女を求めて行動している人も少なくない。

 実際にクラスの中でちらほらカップルが成立していることを私は知っている。

 

「……」

 

 ……それなのに、私たちときたら……。


「……このままじゃダメだよね」


 そうだ。このままじゃダメだ。なんとかしないと。

 この調子だと、いつものように部屋でダラダラしているだけで一カ月が終わってしまう。


 私はこの夏、出来ることなら海とか行きたいし、旅行とかも行ってみたい。

 廉次と遊び回って、イチャイチャして……。


 そしてついには……


「……」


 ……なんてことも考えるけど、現実は厳しい。

 現状では何も進んでなかった。私は変わらず親友のままだ。


「……」


 ……なのでそろそろ真剣に行動することにした。



 ◆



「と、いうわけで、お母さんどう思う?」

「……廉次君のことねえ……」


 考えてみた。

 自分でいろいろ頑張ってみてダメだった時に、どうすればいいか。


 ――答えは簡単だ。誰かの助けを借りればいい。


 思えば、異世界にいる頃もそうだった。

 私は確かに強い力を持つ勇者だったけど、じゃあ私一人で何でもできたかと言えばそうではない。


 敵を倒し、街を開放することが出来たとして、ではその街の復興はどうするのかと聞かれると私は知らない。倒れた建物の再建なんてできないし、食料を手配することも出来ない。支援要請の手紙だって書けない。なので、出来るのはせいぜい怪我人の治癒位だ。


 人には出来ることと出来ないことがあって、出来ないことは人に頼るのが一番いい。

 それを私は経験で知っていた。


「廉次とどうやったら付き合えるかな」


 ――なので、今回はお母さんに頼ることにする。

 何せお母さんだ。一度は通った道のはずなので、恋愛についても詳しいはず。


 ちょっと前はお母さんにも隠していたけれど、もうそういう時期は通り過ぎたのだ。

 今はとにかく廉次と付き合いたい。


「そうねえ……あなたが告白すれば?」

「出来たら苦労しないよ!」


 いきなり役に立たない答えが返って来た。

 それが出来ないからこうして悩んでいるというのに。


「なんで?」

「なんでって……断られたら困るし……」


 元男だし……キモイとか言われたくないし……。

 断られたらもう立ち直れないし……。


「いや、成功するでしょ?」

「え?」

「だって廉次君、あなたの事大好きじゃない」


 え?


「あなたたち、昔から本当に仲が良かったから……お母さん、ちょっと覚悟してたのよ?」

「……覚悟?」


 覚悟って、なんの?

 突然出てきた言葉が良く分からなくて、聞き返す。


 しかし、お母さんは何故か目を泳がせた。


「……ごほん、それはともかく、まず成功すると思うわ」

「……?」


 お母さんが一度咳ばらいをし、話を戻す。

 ……なんだったのだろう。


 少し疑問に思うものの、まあ、気になるのは本題の方なので気にしないことにする。

 私も頭を元に戻した。


「……でも、お母さんはそう言ってくれるけど、私は元男だし……」

「大丈夫よ。だって廉次君、あなたを私たち夫婦より必死に探してたから」


 ……え、それ私が行方不明になった時の話?

 廉次が三日間必死で探してくれたのは聞いてるけど。


「……」

 

 ……というか、お母さん私たちよりって……。

 

「……お母さんも必死に探してよ……」

「もちろん探したわよ?でもこれは廉次君が本当に頑張っていたという話だから」


 ……まあ、そういうことなら分からなくもないけど。


「廉次君、あの時はすごかったわよー。殆ど不眠不休みたいな感じで走り回ってたもの。心当たりのある場所に自転車で走って、チラシを印刷して、配って……って」

「へ、へーそうなんだ」


 ふ、ふーん。廉次がそんなに。

 なんだか興味が湧いてきた。そういえば、これまで私が異世界に行ってた間のことは聞いてなかった気もする。

 

 私的には、帰ってきた後の方が大変だったからだ。

 この前廉次のお姉さんに会った時もそうだったけど、私が私だと信じてもらうのが大変だったし。


「いつもはクールな廉次君が、チラシ片手に大声で協力を呼びかけててねー」

「それで? それで?」


 あの廉次が大声を……そんなの私だってあんまり見たことが無い。

 ちょっと見てみたい気持ちと、そこまでしてくれたことに対して喜びが湧いてくる。


「チラシ配りはね、私もお父さんも忙しかったから廉次君主導でやってくれたのよ。お父さんは警察の人と話をしていたし、私はあなたのパソコンを調べてたから……あっ」

「ほうほう

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………は?」


 …………いま、なんて、いった?


「……それで、廉次君がね!」

「いや待ってお母さん、流石に流せない」


 目を泳がせながら話を進めようとするお母さんを引き留める。

 さっきのよく分からないのとは話が違う。こんなの流せるわけがない。


「私の、パソコン?」

「……良く聞きなさい、カナメ。家族が行方不明になった時、その行方不明者の持ち物を調べるのは普通のことなの」


 あーそういえば、そういう話も聞いたことがある気もする。うんうん。

 遺書とか残ってるかもしれないし、検索履歴で行き先が分かったりするからって。


 ………………………………で?


「見たの? お母さん」

「……」

「見たの?」


 お母さんが目を逸らす。

 それが全てを物語っていた。


 ……そっかー。見ちゃったのかー。


 あのパソコンには私が集めた思春期とかがたくさん詰まっていた。

 あと深夜に衝動的に書いた思春期の想いとかも。


「……」

「あ、お母さん晩御飯の用意するわね」


 お母さんが逃げていく。

 でも私にはそれを引きとめる気力は無かった。


 見られた……あれを。見られた……。


「……ッ……ゥッ…………ウゥッッッ」

 

 思わず叫び出しそうになるのを必死に抑える。

 内なる衝動に耐えながら階段を上り、自分の部屋へと向かっていった。


「こ、これが、これがぁ……」


 すると必然的にパソコンとご対面するわけで。

 部屋の隅に置いてあるパソコンがこんなに憎くなったのは初めてかもしれない。


「……あっ……あっ」


 パソコンに魔法をぶつけようとする手を必死に抑える。

 静まれっ……私の右手っ……。それはまずい。流石にそれは……。


「……な、なにか」


 何かこの衝動を納めてくれるものはないかと必死に周囲を見渡す。

 なにか、なにか……。


「……」


 そんな時、開いた窓の向こうが見えた。

 隣の家の窓の中。そこで廉次がベッドに寝転んで天井を見ている。


「……廉次ー!!!!!!!」

 

 衝動のままに、私は廉次の部屋に飛び込んだ。

 


 

 

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