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元勇者のTS少女が親友に恋愛観を話したりする話


 どうしたものだろうか。

 自分のこともカナメのこともわからない。


 ――なんて、そんなことを考えていたら、もう夕方になっていた。


「廉次、ジュース頂戴」

「……ああ」


 放課後、カナメは俺の部屋にやって来た。

 その姿は朝と同じように無防備なもので、男だとか女だとか関係なく俺のベッドでゴロゴロしている。


 ……これも、冷静になってみると色々問題があるよな……。


 親友だということを抜きにして考えると、年頃の女子が同年代の男のベッドでゴロゴロしていることになる。


 ……どうするんだ、これ。


 どうして今まで気付かなかったのか自分の頭を疑いたくなるような状況だ。

 今まで自分の頭がおかしくなっていたのかと思うほど。


 夢から覚めた気分だ。それまで当然だったものが、異常だったと気付く感覚。


「廉次、どうしたの?今日なんか変だけど」

「……いや、ちょっとな」


 心配してくれているカナメの格好は、しかし目の毒になるものだ。

 寝転がったことでめくれ上がったスカートの裾は、太ももの真ん中あたりまでしか隠せていない。


「……」


 なんでお前はそんなはしたない恰好をしているんだ。

 思わずそう言ってしまいそうになるのを、必死に抑える。


 きっとこれまでこんな感じだったのだろう。

 俺が気付いてなかっただけだ。なので、これまで誰が悪かったのかと聞かれれば、俺しかいないのだとも思う。


「……」


 今目の前にあるものは、これまでの行動の結果だ。

 そう思うと、思わず目がそちらに向かいそうになるのを抑えることしかできなかった。



 ◆



「あーまた勘違いとか、もう勘弁してよ!」


 自分と向き合うことしばし、カナメが突然大声を上げた。

 何かと思ってみると、その手には最近カナメが買って来たラブコメの漫画が握られている。


「もう! 今時鈍感ものなんて流行らないんだよ!?」


 随分盛り上がってるな、と思う。

 手元を見ると、今日の帰り道にカナメが買っていた漫画だった。


「……どうしたんだ? その漫画気に入ってるみたいだが」

「えっ……だって、その……身につまされるものがあると言うか……」


 ……?

 首を傾げると、カナメはこちらに漫画を差し出してくる。


「読む?」

「……ん」


 ラブコメか……。

 普段なら、すぐにでも断っている所だが。


「……」


 ラブコメはあんまり好きじゃないし、これまでに読んだこともあまりない。

 何と言うか、登場人物の気持ちが良く理解できないというか。


「……そうだな」

「え、珍しいね。廉次がラブコメ読むなんて」


 しかし、今は何となく気分転換をしたい気分だった。

 つい視線が逸れそうになるのを抑えたいという気持ちもある。


「……偶にはいいだろ」


 カナメから受け取り、最初のページを開く。


 始まりはヒロインが転校してきたところで、そこで出会った主人公と、元から主人公と仲の良かったもう一人のヒロインの話のようだ。

 そういえば表紙にも二人の女の子に挟まれる高校生の絵が描かれていた。


「……」

 

 しばしの沈黙。

 覗き込んでくるカナメを気にしないようにしつつ読み進めていく。


「……なるほど」


 半分読んだ辺りで、なんとなく主人公のことが分かってきた。


 積極的にヒロインにアプローチされる主人公。

 好意を向けられているかもしれないと疑ってはいるが、しかし確信が持てず曖昧な態度しか取れないようだ。

 おまけに自分がどっちのヒロインのことが好きなのかもわからず悩んでいる。


 今自分が感じているのが友情かそれとも恋愛感情なのか。

 恋愛感情だとしたらそれはどちらに向いている感情なのか。


 これは、その違いに悩む高校生男子の姿を描いた漫画らしい。


「……」


 ……なんだ。

 結構まじめな話じゃないか。

 

 表紙がいかにもハーレムぽい感じだったから、もっと性欲にまみれた感じの漫画かと思ったが、そうではなかったらしい。


 二人に挟まれながらも悩む主人公の姿には個人的に好ましいものに見える。

 特に、自分の感情が分からないところなど、なんとなく理解できるところがあって――。


「ね? この主人公めんどくさいでしょ?」

「え」

「いつまでも悩んでてさ。男ならさっさと決めて欲しいよ」


 ……そうか?

 ……そうだろうか?


 いやまあ、主人公とヒロイン両方の心情が分かる読者からすれば、そう思うかもしれないが、当人からすればそんな簡単じゃないだろう。


 相手の気持ちが分からないからこそ、こういうものは悩むのだから。


「好きか嫌いかで悩むとかさ、そんなもの要するに一緒にいたいかどうかでしょ?いなくなったらいやだなと思ったら好きなんだと思うよ?」


 ……まあ、それはそうかもしれないけれど。


「それに、恋愛感情についてだよ。恋愛か友情かの判断なんて簡単でしょ?」

「……そうか?」


 それは流石に難しい問題だと思うが。

 昔から色々な哲学や物語なんかで取り扱われてきたテーマだとも思う。


「簡単だよ? 他の異性と一緒にいたら嫌だなと思ったら恋愛感情。気にならなかったら友情だよ」

「……」


 ……それはさすがに乱暴すぎる気もする。

 そんな嫉妬にとらわれない愛もあるんじゃないだろうか。


「廉次は違うの?」

「……どうだろうな」

 

 しかし、そう聞かれると悩むところだ。

 俺は恋愛に関して持論なんて持ってないし、そもそも考えたこともあまりない。


「そういうものなのか……」

「そういうものだよ」


 俺にはよくわからない。

 しかし、親友の恋愛観に触れた放課後だった。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] まるでマトリョーシカ… 読者から見たらカナメちゃんの本音ダダ漏れなんだけど 廉次君はそれに気付けないのだ 廉次君がんばれ~
[一言] まあ、間違いでもない
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