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元勇者のTS少女が不安になったり親友に質問したりする話


「廉次、入るよー」

「……ん」


 姉さんと別れ、自分の部屋に帰って少し経った頃。

 窓が開き、そこからカナメの声がした。そしてそのまま、あちらの窓枠を蹴ってこちらへと飛び移ってくる。


「っと」

 

 危なげなくこちら側に着地したカナメが窓枠から飛び降りて、トン、という音を立てて部屋の中に着地した。


 ……ふわり、とスカートの裾が風で翻る。


「……危ないぞ」

「大丈夫、大丈夫。こんなの全然大したことないから。

 それにもし落ちても怪我一つしないよ」

 

 ……そういう問題じゃないんだけどな。

 あと、そちらは良くても、こちらの心臓に悪いから怪我をしなくても止めて欲しい。


「……」

「いいじゃない、ね?」

 

 しかし、ニコニコと笑いながらカナメが言う。

 最近、カナメがこうして窓から出入りするようになって以来、毎日繰り返されている光景だった。


「……」

 

 ……まあ、仕方ないか。

 実際、本当に怪我をする心配がないなら口うるさく言うことでもないのかもしれない。


「さて、今日は何しようかなー」


 少し悩んでいる俺をよそに、カナメが当然のように俺のベッドに寝転がる。

 そしてそのままのんびりとし始め――。


 ――と、いつもならそれでもいいが、今日は一つ用があった。


「……カナメ」

「なーに?」

「……実は、今日姉さんが帰って来てる」

「……え? 姉さんって…………一華さん?」


 頷いて返すと、カナメがぽかんと口を開ける。

 一華は姉さんの名前だった。


「え!? き、聞いてないよ!?」

「……俺もさっきまで知らなかったからな」


 全く、我が姉ながら突然すぎると思う。

 もっと早く言ってくれていたら歓迎する準備もできただろうに。


「……それで、カナメと話がしたいと言ってるんだが」

「……ま、待って、いきなりすぎて困ってる」


 途端にカナメがオロオロとし始める。

 目が泳いでいて、その混乱っぷりを表しているかのようだった。


「ど、どうしよう……」

「……」

「ね、ねえ廉次、受け入れてもらえるかな……?」


 何を、とは言わなくても理解できた。

 なぜならそれは、すでに一度俺の両親で通ってきた道だからだ。


「……私が一条カナメだって信じてもらえるかな」

 

 帰って来たばかりの頃、俺やカナメの両親は勢いのままに受けいれた。

 しかし当然と言うべきか、後日俺の両親に話したとき、信じてもらうまでに色々あったのも事実だ。


 ……今思い返しても、両親がよく信じてくれたな、と思うところはある。

 最初はカナメがいなくなったショックで俺がおかしくなったのかと疑っていたらしいし。


「……まあ、多分大丈夫だと思うぞ」


 とは言え、今回はそんなに怖がらなくても大丈夫だとは思う。

 先ほど姉さんと話していた限りだと、そこまで強く疑っているという風でもなかった。


 それどころか、良かったね、とまで言っていたのだ。おそらく普通に受け入れてもらえるだろう…………多分。


「……そ、そうかな?

 廉次を誑かしてる頭のおかしい女みたいに思われないかな?」

 

 ……いや、そこまでは思わないと思うが。

 ちょっと悪い方に考えすぎている気もする。


「……ちょっと落ち着け」

「落ち着けないよ……私なんて信じてもらえなかったら、行方不明の人のフリして家に住み着いてる異常者だよ?」


 カナメがそわそわとして落ち着かない。そして遂には立ち上がり、部屋の中をグルグルと回りだした。

 ……思っていたよりずっと、カナメは悲観的に物を見ていたようだ。


「……」


 ……まあ、怖がる理由は理解できるんだが。


 魔法だの異世界だの、そうそう信じられるものじゃない。

 もし簡単に受け入れられるものだったら、学校で認識改変魔法なんて使う必要はなかっただろう。


 人は性別が突然変わったりしないし、異世界なんて無い。

 それが、現代日本における当たり前の事、つまりは常識なのだから。


「ねえ廉次、一華さんどんな感じだった?」

「……いつも通りだったと思うぞ」


 いつものようにべったりと机に張り付いていた。

 ……まあ、それは家族の前だけなので、カナメに説明したりはしないが。


「本当に?何か変わったところとかなかった?」

「……いや別に……ああ、そういえば少し雰囲気が垢抜けてたな」


 カナメが本気で怖がっているようなので、気を逸らすつもりで別のことを言う。

 実際に、服装とかが大人っぽくなっていたのは事実だ。


「いやそういうことじゃなくて……それはそれで気になるけど……」

 

 途端、カナメがそれまでと違ってじっとりとした目でこちらを見てきた。

 もの言いたげなカナメから目を逸らす。

 

 ……ちなみに、うちの姉はカナメの初恋の相手だ。

 気になるのはその辺りの事も関係しているのだろう。


「……」


 あの姉、モテるからなあ……。

 外では家の中と違って背筋が伸びているのでファンも多いらしい。いかにもできる女、という感じなのだとか。


「……なんか変なこと考えてない?」

「……いや」

「言っとくけど、好きだったのは昔の話だからね? 今は全然違うから」


 心を完全に読まれてしまっている。

 俺はそんなに分かりやすいのだろうか?


「……」

「……」


 しばし、無言の時間が続く。

 カナメはこちらを据わった目で見ていて――。


「――というか不公平だよね」

「……なにがだ?」

「そういえば、私廉次の初恋の相手知らない」


 何かと思えば、随分と今更なことを言い出した。

 ……確かに、思い返してみれば、これまで恋愛の話といえばカナメの事ばかりだった気もする。


「これは廉次にも話してもらわないと……誰が好きだったとか、どういう人が好みだとかそういうのを……。

 ………………いや、ちょっと待って、やっぱり聞きたくないかもしれない」

「……どっちなんだ?」


 ニヤリと笑ったり、かと思うと落ち込んだりとカナメがせわしなく表情を変える。

 何が何だかわからないが、それは別に隠しているわけでもなんでもない。


「……別に、いないな」

「聞きたくない……って、え?」

「……人を好きになったことが無い」


 恋をしたことが無い、なんて言うと子供みたいで恥ずかしいが、しかし、いないものは仕方がないとも思う。

 俺はこれまでに人をそういう意味で特別視したことはなかった。


「そ、そうなんだ。ふーん」

「……笑わないでくれ」


 カナメも子供みたいだと思っているのか、こちらをニマニマしながら見ている。

 ……それが少し恥ずかしかった。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] ネガティブシンキング けれどすぐに持ち直す 現金だなぁ
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