第7夢:祀られている神様ともう一人
祀られている神様ともう一人
Side:ユキ
ということで、芽上の財布を探しつつ、芽上の代わりになる犠牲者がいないか確認しに神社にやってきたのだが……。
「財布、なかなか見つかりませんね」
「代わりの犠牲者も今の所はいないようだな」
そう、わざわざ確認しに来たが、どちらとも成果なしの状態だった。
ま、財布については、主人公がお参りで神社に寄った際に偶然見つけたらしく、どこに落ちてたとか詳しい記載はなかった。
それ以上に、芽上の代わりが出るというのはあくまでも可能性の話であって、絶対にいるとは限らないし、今の所それらしき人はちっとも見当たらない。
「既にほかの人が呪われてしまったって可能性はないでしょうか?」
「さあな。芽上の代わりってことだから、まぁ、帰るのに困ってお賽銭を拝借するってのを考えると、その葛藤時間で変わるよな。もう終わっている可能性もあるし、これからって可能性もあって、何とも言えない」
俺としては、さすがに芽上が何の躊躇いもなくお賽銭を盗むなんて判断をしたとは流石に思いたくない。
「でも、お賽銭を盗ろうなんて人ってそんなにいますかね? この初詣の人混みの中」
「実際、意外とそういう事件は多いみたいだぞ。まあ、さすがに人気が多すぎるとさい銭泥棒は無理だけどな。ああ、そうなると、ある程度人が少なくなる必要があるわけか」
「そうだと思います。何せ芽上さんはあくまで財布を探しているわけですから、ここに戻ってすぐにさい銭泥棒に走ったりは流石にしないでしょう」
あぁ、その推理は鋭い。
というか、すぐにさい銭泥棒に走るようなクズなら助ける価値はなし。
「って、まて。今は芽上の代わりだろう? で、そいつが屑なら……助ける必要なんかないか」
「あぁ、それはないでしょう? むしろ、どう呪われるかの確認した方がよくないですか?」
「うむ、ある意味人でなしの発言ではあるが、今後の展開を把握しやすくはなる。何もないならそれはそれでいいしな」
「はい。……でも、だとすると俺たちは一体いつまでこの神社にいればいいんでしょうね? 一応コンビニに行くってことになってますから、あまり時間をかけると……」
そうタイキ君が言ったのが聞こえたのか、携帯電話が鳴る。
「あ、噂をすればだな」
スマホの画面には須藤さんの名前が表示されてるよ。
とりあえず、ここは素直に出ることにする。
「はい、もしもし」
『あ、鳥野君。ちょっと遅くない? 大丈夫?』
「はい。ちょっと少年雑誌読んじゃいまして」
『むむぅ。それって全生徒の見本となるべき私に対しての挑戦かな?』
「正月休みぐらい勘弁して下さい」
『うーん。はぁ、まあ今日はしょうがない、いいでしょう。でも、あと一時間以内には必ず帰ること。お姉さんとしてはそれ以上は絶対許容できません』
「はぁ、わかりました。それまでには帰ります」
『じゃ、本当に気を付けてね』
と生徒会長様に期限を切られて、電話が切れる。
「ちっ、時間制限をかけられたな」
「帰る時間と車を僕の家に置いてくることを考えると、15分前には帰らないとまずいですね」
「だな。トラブルも考えると、余裕をもって20分前には戻りたい。となると、残りは40分か」
俺はそういいながら、普段は人気がないはずのその小さい社を見つめる。
「何のかんのと年末年始はそれなりに人があつまるんだな。あんな小さな社でも」
「ですね。まあ、宮司さんにこちらもぜひどうぞって言われたぐらいだし」
うーん、断罪の神様ねー。
もとは首を切った刀を奉納して、その者の恨みを慰撫するものだったらしいが、いつの間にか悪しきを滅し、良きを助ける神という認識になったそうだ。
まあ、首を斬るってことは戦場以外だと罪人を切るものだしな。
だからこそ、正しきを守るってことになったわけか。
……まぁ、昔の司法なんてどこまで正しかったかわからんが、そんなこと言えば今の司法でも間違いはあるからな。
いずれにせよ、ここに祀られているのは、そういう『善なる』神様なんだろう。
だからこそ、こうしたたとえマイナーな神様であっても……。
「今年もよろしくお願いしますねぇ」
「過ぐる年はだん様のおかげで災い無く過ごせましたよぉ。ありがとうございます」
と、こんな感じでお年寄りたちが拝んでいるのだ。
マイナーではあるが、地元の人には愛される神様なんだろう。
「こんなのを見れば、そりゃ芽上さんが呪われたのも当然と思いますけどね」
「ああ、あまりに当然すぎて何も言えないな」
まさに因果応報だ。
まあ、今の芽上はその対象になっていないわけだが。
「ちっ、定点カメラでも持ってくればよかったな」
「あー、そうですね。アイテムボックスでもあればよかったんですけどねー」
「そうだな。さすがに魔術はなくてもいいから、便利アイテムぐらいは欲しかったな」
この夢の世界で俺らにあるのは、ある程度の知識と、余裕のある資金ぐらいだ。
それだけでもチートといえばチートだが、余裕があるわけではない。
こうして足りない道具に頭を悩ませているんだからな。
「そういえば、身体能力とかはどうだ? さっきここまで走ろうとして、結局やめたからな」
「ああ、そういえばそこらへんもしっかり確かめてないですね。まあ、アロウリトの身体能力があれば多少はましなんですけど」
いや、あの異世界での身体能力があれば、特に恐れるものはないだろう。
大岩やなんかが落ちてこようが押しつぶされることはないから、幽霊ごときに物理でやられることはない。
ま、さすがに呪殺系はどうなるかさっぱりわからんから、チート能力があろうが決して油断はできないが、タイキ君のいうとおり、そう言った力はあることに越したことはないだろう。
「まあとりあえず、ここでいきなり身体測定をするわけにもいかないよな」
「あはははは。そんなことしてたらさすがに警察呼ばれそうですから、やめときましょう。まぁ、明日にでも、町を回るついでにランニングとかして確かめましょう」
「それがいいな。じゃ、とりあえず時間一杯ここで一応見張るか。あ、甘酒追加とおみくじ引くか」
「そうですね。一応お正月ですし、それぐらいしてもいいでしょう」
と、ほとんど真面目に監視する理由はなくなったので、とりあえず甘酒を買っておみくじを引いたわけだが……。
「小吉」
「末吉」
ちぇっ、どちらも微妙だ。
まあ、大吉だとあとは落ちていくだけだから、これから運が上がる可能性があるというのは、いいといえばいいのかもしれない。
「でと。なになに、内容は、探し物見つかる。で、望みは頑張れば叶う」
「僕も同じですね」
おみくじなんていうのはそういうものだろう。
……望みは頑張れば叶うか。
適当なこと言ってんじゃねーよ! といいたいが、ここは神社だ。
しかも悪い人を裁く神様が住まう社までがある。
ということで、おみくじをたたきつけるなどできるわけもないので、とりあえずちゃんと結んでおくことにする。
「結ぶ。実を結ぶ。願いが叶うね」
「ま、おみくじなんていつまでも持っていてもあれですし、いいんじゃないですか」
「そう思うしかないよな」
ということで、神社が用意しているおみくじを結ぶ場所に俺たちも同じように結びつける。
これでよしと。
「はぁー、じゃ、とりあえず、戻ってだん様の様子みるか」
「ははっ、でも地元のおばあさんとかすごいですね。断罪様って名の神様を『だん様』とか」
「そういうものだろう。ちなみにここは神社だしな、仏、人の亡骸を祀っているわけじゃない。あくまで物だからな」
「ああ、そういやここは刀でしたね。だからそんなことで呪うことはないって感じですか」
「だろうな。さすがに童子切安綱みたいな怪異を切ったわけでもなさそうだし」
「……そりゃ、あんな刀がポンポンあっても困りますけどね」
そんな話をしながら『だん様』の社に戻ってみると丁度その時、お年寄りたちではなく、珍しく若い女性、それもちょうど中学生ぐらいの子がキチンとお参りをしていた。
「へぇ。若い子も少しは来るんだな。ま、地元に住んでるなら不思議じゃないか」
「僕もいわれてましたよ。本社以外もちゃんとお参りしなさいって」
ああ、そうやって、信仰というのは受け継がれるんだろうな。
と、最初は思ったんだが、どうも様子がおかしい。
なんか長々と必死に祈っているというか……。
ん、何をそんなに?
「……ユキさん。あの子の顔は見てないから確信ないですけど、どうもあの後ろ姿に見覚えありませんか?」
「はぁ? あの子が?」
とタイキ君にいわれて、改めてよく見てみる。
うーん、腰までしっかり伸ばした黒髪なんだが、どうも日頃の手入れを怠っているのか所々はねている。
なんというか、なんか身だしなみに気を使ってないよな。
「ん? ちょっとまて。あれって主人公と同じクラスの」
「ええ。おそらくその引きこもりの女生徒です。名前は確か野咲菊です」
「ああ、その地味な名前のな」
「それが原因でいじめられてるんですけどね」
「いじめねー」
と俺はそう返しつつ、必死に祈っている野咲をまじまじと観察する。
野咲は相変わらず何かを真剣に祈っている。
「そういえば、野咲がかかわる怪異って」
「ええ、学校でですね。シナリオ的にはそれが原因で引き籠りだったのに学校に来る羽目になるんですが」
「確か、ドッペルゲンガー系だったよな」
「ええ。こっちもかなり殺意が高いタイプでしたね。野咲さんをいじめてた連中が大けがをするんですよね。で、いじめっ子がいなくなった日から登校するようになるけど、今度はそのドッペルが野咲さんを襲い始めるって話ですね。学校の怪談総動員で」
「あれだろう? 人を呪わば穴二つって感じで。って、まて、それってここが原因なのか?」
なるほど、いじめっこをどうにかしてくれてって『だん様』におねがいしているわけか?
なんだ、お正月早々後ろ向きなお願いだな。
いや、この神様の成り立ちを考えると正しいお願いなのか?
「さあ、どうでしょう。あのシナリオって、怪談を解決していって最後はドッペルを説き伏せて終わりなんですよね。まあ、選択肢ミスれば死にますけど。で、結果野咲さんは強くなって終わります」
「ああ、成長物語でもあるんだよな。まあ、そりゃ怪談を乗り越えればいじめとか屁でもないだろうが。で、どうする? 止めるか?」
「芽上さんのことがありますからねー。やっちゃうと原因究明にならない気きがしますんで、様子見に一票です。学校の怪異に関しては何とか頑張りましょう。ネタはわかっているから何とかなると……」
「そうだな。うん、そうしよう。元々、神様なんかに頼って復讐した結果だし、成長につながることを止めちゃだめだよな」
「ですよね」
ということで、野咲に関しては、そのまま見守ることにする。
声をかけるにしてもあのお願いが終わって……と思っていたら、その社の後ろに抜き身の刀を携えた透明な鎧武者が現れた。
「……和也さん見えます?」
「……ああ。タイキ君も見えるんだな」
「はい」
「そうか」
その鎧武者は、必死に祈る野咲の姿をみて頷いただけじゃなく、さらにこちらを向いて、再度頷いたかと思ったら、そのまま静かに消えていった。
「え、今のどういうことだ?」
「さあ、というかあの鎧武者の幽霊か何かしれないですけど、こっちをしっかり認識してましたよね」
「ああ、でもどうすれば、っと、野咲は移動するみたいだなって……」
祈り終わった野咲は振り返り、そのまま立ち去ろうとしたようだが、突如体が不安定に揺れてそのまま倒れてしまった。
「おいおい。なんでだよ」
「えっ。引きこもりですし、貧血じゃないですか? だからあの鎧武者もよろしく頼むって」
「おいっ、そんなお願いかよ! くそー、とりあえず、連れていくぞ。社務所に運んでおけばいいだろう。手伝ってくれ」
「わかりました」
ということで、思わぬ成り行きに、俺たちは須藤さんとの約束の時間にギリギリ間に合うかどうかというマジで微妙なことになるのであった。