第6夢:夜を走る
夜を走る
Side:ユキ
「ふーん、なんか鳥野も中里も大変なんだね」
「あぁ、親の都合だし仕方ないけどな」
「ですねー。と、コーヒー飲みます?」
「あ、砂糖もらっていい?」
「はい。どうぞ」
家に戻った俺たちは芽上も交えて雑談をしている。
流石にちょっと嫌だったけど、このアホを一人で帰すのはあまりに愚策だと須藤さんに説得されてしょうが無く連れて帰ってきたわけだ。
「でもさー、生徒会長が一緒に住んでるって、なんかすごくない?」
「そう言いたい気持ちはまぁ分かる。だが、須藤さんも色々あるからな」
「そんなのわかってるわよ。でも生徒会長。親戚とはいえ、ちゃんと身を守ってくださいよ?」
「あはは。大丈夫だよ。その時は責任を取ってもらうし」
「え、やっぱり……」
「違うわよ。彩乃ちゃん、そこらへんは早とちりだね。鳥野君、中里君はそんな人じゃないってことだよ」
そんなこと、言われるまでも無い。
これ以上嫁さんが増えるようなことなんて真っ平ごめんである。
さらに言えばここはあくまで初夢の中。どうやってここの人を連れていけばいいのかわかりません。
とはいえ、こっちの現代の日本人レベルの人材をウィードへ雇用できればどれだけ便利か……。
うん、そうなりゃ一気にウィードの種々の処理能力が上昇するだろう。
……まて、ルナに何とかここをつないでもらって、外部委託場所として運用できれば。
なんてバカなことを考えているうちに話は進んでいたようで。
「あはははは、僕も和也さんもちゃんと彼女がいますからね」
「ん? ああ、そうそう。俺には彼女がいるから、須藤さんに手を出したりしないさ。というか、相手にされそうにないし」
というか、彼女どころか嫁さんがいる。
それも複数。だから今更新たに彼女とかいりません。
あ、別に女性と付き合うのが面倒とかじゃないからな?
あくまで嫁さんが大好きなだけだからな?
「えー、2人とも彼女もち!?」
「あらら、お姉さんに魅力がないのかな?」
「芽上、お前本当に少しは本音をかくせ。あと須藤さんはホントに襲って欲しいってことならそう言ってください」
「う、ごめん」
「あー、ごめんね。なんか挑発になっちゃったね」
2人ともすぐに謝ってくれて問題はないが……。
「まあ、学生ってこういうノリですよね」
「ああ、大変やりずらいが、頑張っていくしかないだろう」
こんな風に人をからかうっていうのは学生ではデフォルトだ。
こういうノリの存在なんだ。だが、面倒だ。
まあ、奇想天外な所で日々冒険させられるなんて日常よりははるかにマシだが……。
と、それはいいとして、今後の予定だな。
「とりあえず、今日はもう夜も遅いから、とりあえず寝よう。そして明日の朝になったら警察に確認と、芽上の財布と携帯探し、須藤さんの荷物運びだな」
「そうだね。今日はもうこのくらいにして大人しく寝よっか。いいかな彩乃ちゃん」
「はぁ、そうですね。もう今更あんな寒い外に出るのもアレですし、今日は大人しく寝ます」
「じゃ、部屋ですけど、僕は家に戻って寝ますんで、二人は和也さんの所の空き部屋を使うってことで良いんですか?」
「そうだな。それでいいだろう。そういや予備の布団ってあったか?」
「ちょっと見てきましょう」
「あ、流石にそれくらい手伝うわよ」
「そうだね。私も……」
と申し出る二人に手を向け止める。
「お前ら一応お客さんだからな。その間に風呂にでも入っててくれ。あと、部屋は別がいいか? 一緒がいいか?」
「え? 別に私はどっちでもいいけど……」
「そんな気を遣わなくていいよ。で、彩乃ちゃんが一人でこっそり出ていく可能性もあるから私が監視」
「えー、そんなことしませんよ!」
「なら一緒でも問題ないよね?」
「ううっ。わかりました」
ということで、2人をお風呂に追いやった後、こうなるのもあの駄女神の思惑の内なのか、なぜか押し入れに入っていた新品の布団を空き部屋に敷くだけで、すぐに準備はおわり、俺の部屋に移動する。
「さて、状況を改めて整理するか」
「はい。なんか二日目にしてかなり事態が動き出しましたね。まさか、ヒロインが二人もこの家にやってくるとか」
「ああ、大いに驚きだ。まあ、須藤さんの方はそもそもルナの差し金だからいい。そして幸いなことに芽上はトラブル前だったのは大きい」
「ええ。これで芽上さんの方は怪奇談になるのを阻止しましたから、もう大丈夫ですね」
「そっちは怪奇現象に襲われることはないだろうが、問題は町ごと消し飛ぶってのとの因果関係を調べないといけないからな。芽上以外の奴が代わりになってる可能性もあるわけだ」
「ああ、確かに」
今回、ヒロインの一人は物語の発端を手に入れることがなかったが、別の誰かがその代わりになる可能性が残ってるわけだ。
なにせ、町が半分消し飛ぶメカニズムに芽上個人が必要かどうかは判明していない。
「あれ? ちょっとまて、俺たちは意外と厄介なことをしたか?」
「……助けた時は妙案かと思いましたけど、芽上さん以外でもいいって可能性は考えてなかったですね。ヒロインが交代するって可能性がありました」
「まずい。となると、神社の確認は必須だったか?」
「ですねぇ。じゃあ、いまから行きますか?」
「ああ。と、言いたいとこだが今すぐ二人で出れば須藤さんたちが怪しむ。というかびっくりする。風呂から上がってくるのを待って、コンビニに行くとでもいえばいいだろう。それか一人が神社行きだ。それならもう片方がフォローに回れる」
「いえ、そっちはないでしょう。一人で怪異の対処する可能性があるとか、それ死亡フラグじゃないですか?」
「だな。とりあえず。二人の風呂上がりを待つとして、その後は怪異との戦いも想定しておかないとな」
「といっても、御札も何もないですよ?」
「うーん。ここになんか対応できる道具とかないか? この家ルナが用意したんだろう? その手のグッズがあってもいいと思うが、射影機とか?」
「写真撮ってコンボですか? でも神社の相手って背景白黒にする無敵タイプだと思いますよ?」
「だよなー。まあ、即死回避のアイテムとないか? お守りとか?」
「あー、それがあれば逃げるぐらいは出来そうですね」
ということで、さらにお互いの家をあさってみたが、特にめぼしい物が見つかることもなく、ようやく須藤さんと芽上が風呂から上がってきた。
「あがったよー」
「覗きに来なかったのは一応褒めてあげるわ」
「ハイハイ、そういうのは漫画とかアニメの世界だけだからな。で、さっそくお風呂をって言いたかったんですが、俺らはちょっとコンビニ行って買い物してきます。ちょっと買い忘れがありまして。あ、二人はもう先に寝てていいですよ」
「そっか、風邪ひかないようにね。私たちはお言葉に甘えて先に休ませてもらうよ」
「うん。おやすみなさい」
「ああ、お休み」
こうして自然な形で二人を睡眠へといざない、さっそく真っ暗な年明けの早々の町へと繰り出す。
「しかし、俺たち夢の中の筈なのに、なんで深夜に外に出ているんだろうな。寒い!」
「ですよねー。布団の中のはずなんですけどね!」
「せめて車とかあればいいのにな」
「って、ちょっと待ってください。僕の家も、和也さんの家も、車ないですか?」
「ん?」
そういわれて、激走していた足を止める。
「ああ、確かにあったな。玄関の鍵置き場にもそれらしい鍵があった」
「僕もです。そういえば、身分証を調べた時に免許証があった気が……」
「はあ? なんで学生が免許を……ってこの世界は全員成人だもんな」
「はい。というか、僕たちの休暇用ですからルナが足を用意してくれたんじゃないですか? ほら、やっぱり免許証」
タイキ君はそう言って、財布から免許証を取り出して見せてくる。
「おお、本当だ。俺も……。あった」
夢の中で用意されていた財布だからと思って、カード以外よく中身をみていなかった。
「……いったん戻りましょうか」
「だな。とりあえず、タイキ君の家の車を使おう。俺の家は須藤さんたちがいるし、ちょっとコンビニに行くはずなのに車なんか出したらしたら後でなんか言われそうだ」
「確かにそうですね。こっちです」
ということで俺たちは無事に移動手段である車を手に入れて、早速神社へ向けて移動を開始する。
「暖房。つきませんね」
「エンジンが温まるまでの辛抱だ。というか、明日はもう一度しっかり家の中身を確認する必要があるな。それを怠っていた」
「ですね。パソコンの情報収集が優先でしたからね。そうしましょう。……と、もう神社ですね」
「結局暖房は温まらなかったな。でも、エンジンはかけっぱなしにしておくか」
「え? 防犯は大丈夫ですか?」
「それも怖いが、もう一台あるし、そもそも怪異に襲われた時ってエンジンかからないのはお約束だろう?」
「ああ、だからエンジンは最初からかけておくってことですか」
「そうそう。というか車の盗難だって今どきGPSも搭載しているし、追跡は容易。最後にそもそもこれ夢」
「ですね。エンジンかけたままにしましょう」
そんな話をしながら、俺たちは神社の駐車場へと入っていくと、意外なことに他にも車がそれなりに停まっている。
「そうか、まだ1月2日だもんな。初詣の客とかお店が開いているのか」
「大変ですねー。神社も。でも、助かりましたね。これなら肝試しにならなくて済みそうです」
「そうだな。安心できる。ついでに芽上の財布の届けがないか聞いてみるか」
「ええ」
ひとまず人気があることに安心して俺たちは車を降りて参道を進む。
やっぱり出店がでていたので、とりあえず体を温める用の甘酒を購入。
「初詣の神社といえばこれだな」
「あったまりますねー。あ、お参りはどうします? こっちの神社にはまだお参りはしてないですけど?」
「そうだな。とりあえず、しておくか。ちょっと知り合いの財布探しに来ましたと、呪われる人がでないように確認しに来ましたってことで」
「あはは、ちゃんと御断りは入れないとですね」
ということで、さっそく俺たちは本社の方へ向かい、さい銭箱へちょっと多めの金額を入れて参拝をする。
どうか、トラブルなく……いや、トラブルはもう始まっているから、最小限で抑えられますように。
あと、ちょっとこの神社を探索しますが、どうかお許しを。
けして悪いことはしませんから。
「さ、行くか」
「はい。まずは、芽上さんの財布と携帯ですね」
「ああ、というか、あいつも神社で落としたって、なんで言わなかったのかね」
「そりゃただ単に神社で落としたってことに気づいてなかっただけなんじゃないですか?」
「あ。そうか」
実は芽上の財布と携帯電話は神社で見つかったとゲームでは報告があるのだ。
いや、偶然主人公が拾ったとこに電話がかかってきて、直接芽上に届けることになるのが出会いだ。
「で、結局警察には届けなかったのは失態隠しのためか」
「流石にさい銭泥棒してたから、気まずかったんでしょう」
「なるほどなぁ。と、社務所だが……ちょっとまて、そういえば主人公がこの町に来たのは1月4日だよな?」
「はい。そのはず……ってそうか、それだと財布はまだ見つかってないってことですか」
「……芽上の奴本編では二日も財布と携帯無くしたままで放置してたのか。怖すぎる」
「まあ、若いですし……」
「はぁ、とりあえず。社務所には連絡を入れておこう。俺たちにも見つけられない可能性もあるしな」
「ですね」
ということで、社務所の方に財布を落としたと連絡を入れたのだが、やっぱり届けられてはおらず。
俺たちは芽上が落とした財布と、代わりの犠牲者がいないか確認に動くのであった。