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第4夢:こうして彼らの物語は走りだす

こうして彼らの物語は走りだす



Side:ユキ



「じゃぁ、後片付けも任せてよ」


そう言ったかと思うと、須藤奈央子はさも当たり前のように、料理の後片付けを始めた。

それを知らない人が見れば、奥さんのようだと思うだろう。

なんでこんなに手際よく家事ができるか? なんてのは聞くだけ野暮だ。家族が全員病院送りになったから、自分でやるしかなかった。それだけの話だ。


「……どうします? とりあえずお金だけ渡して、後は様子を見ますか?」

「……そういうわけにはいかないだろう。というか、これは最大のチャンスだ。彼女の場合、原因の自覚もあるから、それを解決してやれば、今後俺たちに協力的になってくれるだろう。そのためにも、早期解決を図る。というか、これが解決できるかで、主人公無しでシナリオ攻略ができるかの確認にもなる」

「おー、なるほど。出来なかったら、俺たちの方から主人公に頼むわけですね」

「そういうこと。で、これが早期解決できるなら、ほかのヒロインも原因を突き止めてさっさと潰せるからな」

「でも、俺たちが下手をうったことで、須藤先輩が危険な目に会ったりとかしませんか?」

「心配するのは分かるが、その場合先に俺たちがやられている。ご両親がそうだしな」

「あー」


そう、須藤奈央子のシナリオに出てくる悪霊は、人に直接危害を加えるタイプだ。

助けに入った主人公が危害を加えられ、死亡バッドエンドというルートも存在しているが、それは主人公が直接ちょっかいを出したからだ。

その証拠に、ご両親は病院送りで済んでいる。

それに、その悪霊が須藤奈央子をやる気なら疾うの昔にやっているはずだ。


「主人公が須藤さんのルートに入ったとしても、必ず成功すると決まったわけじゃないんだ。やってみる価値はある。どうせゲーム通りなら、あの悪霊は家から動けないからな。その間、須藤さんはこの家かタイキ君の家にいればいい。理由もいとこだからでってことで成り立つ」

「あ、そうか。あくまでもあの家にくる人たちを襲ってますからね。逆に言えば、あの家じゃなければいいわけだ」

「そういうことだ。下手に彼女を一人にするよりはいいだろう」


拒絶されて出ていってしまうなら、それはそれで仕方がない。

その時は須藤家に先回りして殴りこんで原因を潰すだけだ。

と、そんな話をしているうちに、皿洗いが終わったようで、こちらに戻ってくる須藤奈央子。


「はい。皿洗い終了」

「どうも須藤さん。何から何までお世話になって」

「いいんだよ。こっちも助かったからね。はい、食後のお茶」


そう言いながら、さも当然のようにお茶を用意して自分も再び座る当たり、家に帰るってのがホント嫌なんだろうなと思わせる。

さぁて、こっちとしてもこの状況は喜ぶべきことなんだが、この状況を維持するにはどういったものかな?

さすがに須藤さん、一緒に暮らさないか? なんて言えばただのプロポーズにしか見えないし、おそらく引かれる気がする。

正直に話してみるか? 事情を知っているって。

うん。これがいいかもしれない。

下手に隠しても、お互いに面倒なだけだ。


「須藤さん。ちょっと話をしたいんだけどいいかな?」

「ん? なに、鳥野君」

「ちょっと面倒な話なんですけど、聞いてください。いやだったらそう言っていただければやめますんで」

「なにかな、改まって?」

「……こんな時期に俺たち親戚の子供が2人が揃って、同時に越してくるっておかしいと思いませんか?」

「まあ、変だとは思うけど、もともと地元だって聞いているしねー。なになに? 何か秘密があったりするの?」


本人は自分のことが絡んでくるとは思っていないようで、テーブル越しに身を乗り出して聞いてくる。


「ええ。ご両親が家で事故に遭われて、入院中なのは伺っています」

「……」


やはりこの話は禁句なのか、表情がなくなる。


「そこで、俺らの両親からの提案でもあるんですが、家に居づらいなら、俺らどっちかの家で過ごしませんか?」

「……え?」


まぁ、あまりに急なことだから、何を言われたのか理解できないようで呆けている。

とりあえず、もう一度かみ砕いて言おう。


「ご両親が家で事故に遭われましたからねぇ。そういうことを気にしていないか心配しているんですよ。聞くところによると、家に居づらいみたいっていうことですから、こちらで生活してみませんか? ああ、男と女が一つ屋根の下ってのはあれでしたら、俺かタイキ君の家をあけ……」

「一緒でいいよ! うん、一緒がいい!」


説得するのは一苦労かと思ってたが、なんとその提案に飛びついて来た。

しかも、一つ屋根の下で一緒に、がご希望ときた。


「……うん、鳥野君の言う通り、家にいるとどうしても両親が倒れてたシーンを思い出しちゃうんだ。だから、最近は家には戻らずにカプセルホテルとかに泊まってるんだよ。って、多分おばさんたちはそれを知ってたんだね」

「多分そうだと思います」


いや、俺の両親は絶対そんなこと知らないと思うけどな。

ルナも、適当だから何も考えていないと思う。

とはいえ、そんなことを正直に話して、水を差すことはないので黙っておく。


「でも、俺らと一緒でいいんですか?」

「いいよ。ああ、何? 私が可愛くて襲っちゃう? 学校にいられなくなるかもよー? 私生徒会長だし」

「いや、絶対しませんよ!」


タイキ君の確認にも冗談交じりに軽々と返しているから、今のところ精神面はまだ大丈夫のようだ。

まあ、須藤奈央子が不安定になるのはこの後学校が始まってからだからな。

おそらく、学校の方でちゃんと家に帰れとかそういう話が有ったんだろう。

昨今、生徒を家に泊めるとか、学校の先生にはできることじゃないし、そもそも傍から見れば単にご両親が事故に遭ったってだけだ。

まあ、流石に遭っただけというのはあれかもしれないが、でもそれが家に帰れない理由というには説得性が乏しいだろう。

なにせ本人はいたって普通に見えるからな。


……もし、幽霊が怖くて帰れませんとか言ったとしても、信じられるわけもない。


さて、まずは須藤奈央子がこちらに泊まるというポイントは確保できたわけだ。

後は、どうやって彼女の自宅に行くかだが、それはさほど問題じゃない。


「じゃ、荷物とかもあるでしょうし、一度取りに行きましょうか」


これ以上ないばっちりな提案だ。

至極当然の話。


「え?」


しかし、その一言に須藤奈央子は完全に固まってしまう。

本当にピシッと。

家に戻るってこと自体が例えほんの僅かな時間であっても、選択肢になかったのだろう。

とはいえ、じゃあ新しい服でも買ってきましょうというのはいささか無理があるか?

いや、そっちで優しくしてみるか。


「ああ、すみません。家に帰るとご両親が事故にあった時の事を思い出すんですよね。じゃ、衣類でも買い足しに行きましょうか。まだ何とかお店が開いている時間には間に合いますよ」


この町の中央にある商店街は駅と繋がっていることもあり、意外と活気があって夜遅くまで開いている。

とはいってもまあ、お店の大半は9時には閉まってしまうのでそれほど時間はないが。

で、須藤奈央子はこの選択肢にどう食いつくかな?


「……あー、うん。確かに、こっちに泊まるにしてもたしかにそれは必要だね。でも、今日はもう日が落ちてるし、必要な荷物は明日取りに行くとして、今日着る分だけ……っていってもお金がなー」


やはりそこは学生であるが故の悲しい財布の中身のようだ。

ギャルゲーの登場人物は不思議なぐらいにお金を使うものもあるが、このゲームは違ったようだな。

ま、俺としてもありがたい。

なぜなら……。


「ああ、それは心配しなくていいですよ。こっちに来るに当たってということで預かっているお金もありますし。実は、家の両親が須藤さんのご両親にお世話になったお礼だって」

「あー、なんか申し訳ない気もするけど、背に腹は代えられないしね。今度、あったらお礼言うよ」


そう言って、須藤奈央子は申し訳なさそうな顔をしつつも、俺の提案を受け入れてくれた。

ま、両親からのお金というのは全くの嘘だけどな。

こうでも言わないと、俺がただお金を上げますよなんて事になったら、流石に頷いてくれないだろう。

因みに、俺の預金だが、先ほどの町の案内の時に通帳を確認したら云百万円入っていたので、ここの生活で困窮することはなさそうだ。

このお金もそこから出した。

……まぁ、どうせ夢から覚めたら無くなる預金だけど。


「じゃ、さっそく買いに行きましょうか」

「そうだね」



ということで、俺たちは夜の町に繰り出すことになったわけだが……。


「うひゃー! やっぱり1月の夜は冷えるねー」

「ですね」


ビュッーっと風が鳴けば、露出している顔に冷気が当たっていたい。

まさに、真冬って感じだ。


「……ユキさん、俺たち布団の中にいるはずなのになんですかね、この寒さ」

「知らん。掛け布団蹴ってるとかじゃないか?」


というか、ここはルナに色々やられているんだ。今更な話。

しかし、夢の中なんかで風邪をひくほど面倒なことはないので、一応対策は取っている。


「お風呂沸かしておいてよかったです。帰ったら一番風呂どうぞ」

「おー、何から何までありがとう。持つべきものはいとこだね」


と、須藤奈央子は笑顔でこちらに向かって親指を立てる。

ま、彼女にも風邪を引かれて倒れてもらっては困るからな。

そんなことを考えつつ、俺たちは商店街にたどり着き……。


ビュービュッーっと、風が吹きすさぶアーケード街の一角で俺たちはひたすら立ち尽くしていた。


「……流石に下着専門店にまで付いていけないですよね」

「……ああ」


そう、彼女にお金を渡しすぎたのがいけなかったのか、下着を新調するとか言って専門店に立ち寄ったのだ。

いや、女性だから身だしなみには気を使うのだろう。

見せるわけでもない下着にも。


「まあ、こっちに気を使っているためか、服はささっと決めてくれましたけどね」

「むしろ、そっちを長くしてこっちを短くしてほしかった」

「とは言っても、まだ10分程度ですけどね。というか、須藤先輩に連絡とって、俺たちは喫茶店にでもいればよくないですか?」

「あ、それもそうだな」


今更気が付くその解決法。

最近の生活のせいか、何となく女性の買い物には付き合わなければいけないと思い込んでた。

ほら、正月の福袋の並び要員みたいなかんじで?

さて、そんな寂しい正月の話はいいとして、さっそく連絡を取って喫茶店へと移動した俺たちだが……。


「ん? あれって、ヒロインの一人じゃないか?」

「え? ああ、別クラスの芽上彩乃(メガミアヤノ)じゃないですか」


どうやら俺の認識は間違っていなかったようで、タイキ君も同意してくれた。

俺たちの視線の先には、この寒空の中にもかかわらず、商店街の外にあるベンチにポツンと独り座っている女の子がいる。

サラサラと銀髪のツインテールが風になびき、ライトを反射して綺麗だ。


「……あれ、日本人だよな?」

「……そのはずですよ。銀髪なのはよくわかりませんけど」


日本人たるもの黒髪か茶髪のはずという認識しかない俺とタイキ君にとっては、あの銀髪の少女がホントに日本人だという確信は得られなかった。

ヒロインということよりも、そんなどうでもいいことが気になる俺たちだった。



「で、どうやって声を掛けるか。よし、じゃあ、タイキ君行ってみるか?」

「え! それってただのナンパ野郎じゃないですか!?」


でも、声を掛けないと、彼女の怪奇譚のシナリオが進行してしまうだろう。

というか、どういう状態なのか確認をしなければいけない。

なので、なんとか声を掛ける必要があるのだ。


難易度はクソ高いけどな!




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