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第3夢:ゲームの曖昧さ

ゲームの曖昧さ



Side:ユキ



「「……」」


俺たちは徹夜で黄昏の町のゲームを攻略し終えた。

しかも、これが気合の入ったシナリオで、なんと力作の30万文字、フルボイス仕様であった。

普通だったら二日三日はかかる内容だったが、そこは俺たち、その手のゲームはやり尽くしているので、萌えで手が止まることもなければ、選択肢を誤ることもそうそうなかったので、何とかやり遂げた。


「……バッドエンドの方もちゃんと見ておかないとまずくないですか?」

「……そこは今日の予定が終わってからだな。とはいえ、選択肢一発でのバットエンドタイプで助かった」

「……本当ですよね。好感度蓄積型だと、とんでもないことになってましたよ」


俺たちが話しているのは、この手の恋愛ゲームの選択肢の話だ。

シナリオがやけに充実しているばかりに、好感度蓄積型だと、途中で詰んでても最後まで判らない可能性があるわけだ。

そしてその手は好感度がないと、生存ルートに行けないというタイプがある。

だが幸いなことに、このゲームは各ヒロインルートに入った後は選択肢を間違えれば即バッドエンドなので、至極わかりやすかった。


「よし、気合を入れて、町の探索するぞ。ったく、どの場所も住所とかゲーム中では一切記述がなかったからな」


そう、多少なりとイベントの場所のヒントになればと淡い期待を抱いてたが、案の定、ゲームの舞台となる場所はそれだけではさっぱりわからなかった。

外観と主人公たちのコメントから割り出すしかない。


「そもそも、各ヒロインたちの問題の場所ですら全部が同じ背景でしたしね。でも、実際の場所は明らかに違うと」

「はぁぁぁぁ。そこにちゃんと予算をかけてほしかった」


各ヒロインたちを救う鍵となる怪異譚の舞台が全て、一律に同じ背景で表現されていたのだ。

だから、ゲーム上の情報だけではさっぱり場所が分からない。


「かろうじて、新住宅街、旧住宅街、学校、神社ってのがあると分かっているだけでも幸いだな」

「というか、怪異なんかより、そもそも主人公とかヒロインの住んでいる場所がさっぱりなのがかなり問題な気がしますけどね」

「それこそ、住所とか一切書いてなかったからな!」


ちゃんとゲーム内でも住所くらい記載しとけよ! ちくしょう!


「まあまあ、主人公たちとは学校で会えますし、幼馴染のお姉さんは主人公の隣の家ですから、学校が始まればその辺りは全部解決ですよ」

「そう願おう。と、さっそく町の探索といいたいが……。どうする? 二手に分かれるか? 一緒に行くか? 正直、メリットとデメリットの予測がつかん」


その辺り、俺たちがゲーム内容に直接介入することによってどんなトラブルが発生するかわからないからだ。

しかも、このゲームの本質は怪異譚。

俺たちはその本拠点を探そうとしているわけだから、何か怪異に襲われることも十分考えられる。


「んー。そうですね。でも、基本的には怪異に巻き込まれる可能性はないと思いますよ? だって、そもそもその場所に入らなければいいんですから。それっぽいところを見つけたら、とりあえずメモするだけで現地の確認はいいでしょう?」

「まあな」

「あ、でも、学校と神社の2箇所は一緒に行きましょう。そっちは絶対やばい気がしますから。まずは、二手に分かれて新住宅街と旧住宅街を一通り探した後、商店街で合流して必要物資を仕入れてからでどうです?」

「そうだな。それがいい」


とりあえず問題がなさそうなところは二手に分かれて、やばそうなところは一緒に。

うん。合理的だ。


「じゃ、あとは時間だな。今は8時だから、12時まで新旧住宅街の探索で、12時半に商店街で合流。必要物資を買ったあと、学校と神社にするか」

「はい。じゃ、さっそく……」


そう言ってソファーから立ち上がったタイキ君がそのまま固まる。


「どうした?」

「えーと、外にヒロインの上級生。須藤奈央子(スドウナオコ)さんが見えた気が」

「どこだ?」


一応俺の拠点となっている家は、リビングからでも外が見えるようになっている。

この家は今どきの住居らしく、防犯対策なのか塀や生け垣などには囲われておらず、柵があるだけなのでそのまま外が見えるようになっている。

防犯のためとなると逆の気がするが、実は違う、高い塀や生け垣は侵入した泥棒が身を隠すのに適しているのでかえって入り込まれやすい。

まあ、そんなことを考えるよりも、ヒロインの一人がいたというのが重要だ。


「とりあえず、外に出てみるか。適当に声を掛けて。そうだな、同じ学校に通うって設定だからその辺の話でも聞いてみればいい」

「いいですね。さっそく追いましょう!」


ということで、外に出ようとしたら……。


ピンポーンと音がする。


「「……」」


思わずお互い顔を見合わせてしまった。

このゲーム世界に知り合いなどいやしない。

誰かが訪問してくるなんてありえないんだが……。


「あれか、勧誘系か?」

「ああ、ありそうですね」


ともかく、上級生の須藤奈央子を追いたいので、さっさと撃退しよう。

そう思って、玄関を開けると。


「やあ、鳥野君。あけましておめでとう。って、中里君もいるんだね」

「「……」」


何故かそこには俺たちが追いかける筈の須藤奈央子が立っていた。

身長は160ぐらいで、長い黒髪をポニーテルに、きりっとした目つきに均衡のとれたスタイルの女性だ。

ちなみにこの世界の学生は、全て18歳以上なのである。

と、そこはいいとして……。


「あ、えーと。まずは、あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとうございます」


とりあえず、新年のあいさつをしておく。


「はい。今年もよろしくね。って、そう言えば会うのは今日が初めてだし、これからよろしくね」

「はぁ。えーと、どちら様で? なぜ俺たちの事を?」

「あれ? なにも聞いてないの? まあ、おばさんたちは忙しそうだったしね。私がいとこの須藤奈央子だよ。今日は町とか学校の案内をしに来たんだ。改めてよろしくね」


そう言って、須藤奈央子は俺たちに握手を求め手を伸ばす。


「あ、はい。よろしくお願いいたします」

「ども」

「うん。よかったー。いきなり母さんに、知らない男二人の案内してこいとか言われて、実はビクビクしてたんだ。よかったよ。二人とも礼儀正しくて」

「「はぁ」」


そうとしか言えない。

こんな女子学生に初対面の男子学生の案内をさせるかよ。

ご都合主義すぎるな。エロゲー。いや、これはルナの仕業だろう。


「……おそらく俺たちが本編に関わりやすくるための御膳立てだろうな」

「……なるほど。ある意味チャンスじゃないですか? 案内がてら色々情報を聞きだすってことで」

「そうしよう。探索の方は後でもいいしな」


一番接点が少なそうな上級生ヒロインである須藤奈央子がわざわざ向こうから来てくれたのだ。

ここは上手く話の流れに乗っておこう。


「じゃ、寒いしさっさと町の案内するよ。付いて来て」


そう言われた俺たちは、取り合ず素直に須藤奈央子についてくことにする。


「でも、2人とも大変だよね。親の仕事の都合でこんな年明け早々に引っ越しとか。学校も変わるし」

「いえ。須藤さんこそ、俺たちの案内なんか頼まれちゃって大変でしょう」

「ですね。こんな年明け早々すいません」

「いいのよ。これでもちゃんともらうものはもらっているから」


そう言いながら、須藤奈央子は右手の人差し指と親指でわっかを作る。

つまり、お金ってわけだ。


「お年玉に上乗せでね。そうでもなかったら受けてないよ」

「まあ、そりゃそうでしょうね」

「タダ働きとかやってられないですよね」

「そうそう。でも、正直助かったんだ。ほら年末年始って何かと入用でしょう?」


そんな風に、須藤奈央子とは意外と砕けた感じで話が出来ている。

まあ、親戚っていう設定になってるようだから、初対面とは言えあまり警戒していなんだろうな。

そんなことを考えていると、町の紹介が始まる。


「今私たちがいるこの地域は、新住宅街っていわれる所。この町、御馬香はこっちの新住宅街と向こうの旧住宅街の間に商店街を挟んだような形になっているんだ。って、まあその辺はスマホを見れば一目瞭然だけどね」


お金をもらってるとはいえ、しっかりと説明してくれる辺り、やはり良い人なのだろう。

ヒロイン候補とはよく言ったものだ。人が出来ている。


しかし、御馬香町ね。

これで「おうまがまち」と読む。


「……逢魔が時の当て字ですかねー。今気が付きましたけど」

「……タイトルも黄昏の町だしな。時間帯的にばっちりだから、狙ってるんだろうさ」


どう考えてもこの町の御馬香という名前は、逢魔が時を弄った物だろう。

これは昨日ゲームをしている時に気が付いた。


「ん? この町が狙っているって?」

「あ、いいえ。夕焼けが綺麗だって聞いてたんで」

「ああ、そうだよ。ここの夕方の風景って結構有名なんだ。ほら、あの丘の公園から町を眼下に一望しながら見る夕焼けはすごいんだよ」


そう言って、結構な高台の方を指さす。

あー、なんか見たことあるぞ、あの場所。

あれは夕焼けの町を背景にヒロイン4人が揃って写ってたパッケージの場所だな。

あとで行ってみる価値はあるかもしれない。

その後も街中では特に問題もなく、学校の正門まで案内してくれて、4日には早めに学校に行って始業式前に教科書などをもらってくれなどと説明を受けた。


「よーし。じゃあ、後は晩御飯の準備だね。ということで、私おすすめのお店で材料を買って、私の手料理をごちそうしてあげよう」

「え? そこまでしていただかなくても……」


なんで、そこまでサービス精神旺盛なんだ?

流石にそこまでするのは妙だし、遠慮したくなるぞと思ったが、


「気にしなくていいよ。ご飯の用意も頼まれているから。それも料金込みだから」

「……なるほど。そういうことなら、お言葉に甘えさせていただきます」


まだ不信感はありまくりだったが、俺はとりあえずそう言って、須藤奈央子と一緒に、商店街にあるそのおすすめのお店とやらに行って材料を買い込み、家に戻る。


「さーて、ちょっと待っててね」


そう言ってシンプルなエプロンを付けて料理してくれている須藤奈央子だが、その姿を見ながら俺たちはとあることに気づいた。


「……あれってやっぱり、家に帰りたくないってやつですよね?」

「……多分な。須藤奈央子のシナリオは新住宅街、しかも自宅の話だからな」


そう、須藤奈央子が初対面の俺たちにここまで甲斐甲斐しく世話をしてくれているのは、実は家に帰りたくないからだ。

別に、彼女が不良少女というわけじゃない。

学校では成績、素行共に優秀。

人望も厚く、生徒会長も務めているという多忙な人なのだが、その実……。

酷い霊障というか面倒な幽霊が自宅に出没しているので、とにかく家には帰りたくないというのがあるのだ。

で、一分一秒でも家に帰るのを遅らせたいがために、色々頑張っているわけだ。

お金がいるのも実は、家に帰らず、カプセルホテルで泊まるために必要だからだ。


「……既に、ご両親は病院送りになってますからねー」

「そういう意味では一番たちが悪いな。全シナリオ中でも飛びぬけて周囲の被害が甚大だ」


他のヒロインはせいぜい悪霊に目を付けられたぐらいだ。

いや、もう一人やばいのがいるんだが、そっちは代々だしな。


「で、そろそろお金が無くなってしかたなく家に戻ったことで、影響がさらに出てくると」

「ま、今回の事は幸いだったと思っておこう。本編での彼女は、お金の為ならなんでもするって噂話がでてるレベルにまでなってるからな」

「お正月は家に帰らないために、ずっと外にいたみたいですしね。だからこそ強制的に家に帰らされて、いよいよまずいことになるんですけど」


そして、丁度そのタイミングで俺たちが介入することになったと。

須藤奈央子を救うには最高のタイミングといっていいだろう。

あとはどうやって、話を切り出すかだが……。


「おまたせ。今日はベーコンとほうれん草のペペロンチーノだよ。あと野菜スープ」


そこには、そんな様子は微塵も見せずに笑顔で料理を出してくれる須藤奈央子がいた。




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