第2夢:攻略方針
攻略方針
Side:ユキ
俺たちは今、俺の拠点として用意された家のリビングで話し合いをしている。
「……全く、迷惑な初夢もあったもんだな」
「……ええ」
そう、俺たちはいつものルナの迷惑行為によって、初夢としてとある世界に放り込まれたのだが、その元となったのが、ノベルゲームの黄昏の町というエロゲーだそうな。
まあ、そのゲームをやっている人なら、ゲームの登場人物を見るだけでも楽しめるのだろうが、俺はやったことが無いので、それならのんびり30日という期間を過ごそうかと思ったのだが……。
「なんで、町が消し飛ぶんだよ。どういう奇天烈シナリオだよ」
なんと、偶然このゲームを知っていたタイキ君の話によれば、このままだとこの町はあと20日で消し飛んでしまうそうだ。
いや、実際には何も起こらない可能性もあるのだが、とりあえずそんな話を聞いて放っておくわけにはいかない。
「というか、ただの恋愛ゲームになんで町が吹き飛ぶなんて要素があるんだよ? 説明書もそんな不穏な感じはないぞ」
説明書に描かれれている絵、パッケージイラストだと思うが、にも特に違和感はない。
メインヒロイン四人と赤く染まる黄昏時の町がバックに映ってるだけだ。
というか、そもそも恋愛ゲームで町が吹き飛ぶ要素なんてまずないぞ。
SFとか怪奇譚といったシナリオでもない限り。
「あらすじも特におかしいところはなかったぞ」
「説明書を隅から隅まで読んでないでしょ?」
「ん? いや、操作方法とか登場人物の紹介とかは読んだぞ?」
「いやいや、地名とか、そっちの方ですよ」
「あー、俺はそういうのは後から読むタイプだからな。というか、それを最初に読むか?」
あまり、そういった舞台の情報を先に知ってしまうと、ネタバレにつながりかねない。
だから登場人物までは読むが、深いところまでは、読まないのが俺のスタンスだ。
「ああ、そういうタイプですか。でも、今回はその矜持をまげてでもぜひ読んでください。というか、まどろっこしいので俺から説明します」
そこから、タイキ君によるこのゲームの世界の説明が始まった。
簡単にいうと、黄昏の町というゲームは、表向きはただの恋愛ゲームとしての装いを持っているが、裏ではガチガチの怪奇譚らしい。
そもそも主人公が舞台となるこの町から離れたのも、霊障が激しく、その影響で体調を崩すことが多かったので、その療養のために別な町にある大きな病院で見てもらうことになったためだった。
実は主人公自身はお化けのせいだと知っていたのだが、それを両親に言っても信じてもらえないのも分かっていたので、大人しくついていくことにしたようだ。
まあ、当然の話だが、この地を離れたおかげで体調は徐々に良くなり、数年後には完全に健康になっていた。
で、健康になったから、生まれた土地に戻りましょうということで、戻ってきたというのが、この物語の始まりらしい。
「話は分かったが、で、主人公の霊障がどこをどうすれば町が消滅するなんて話になっているんだよ?」
それでも話が飛躍すぎだ。
しかも、4人のヒロインたちと結ばれないとっていうのが全く意味不明すぎる。
「えーと、実は詳しい理由は知らないんですけど、今までの話からヒロイン4人も各々、霊障というか、怪奇譚による被害を被っているっていうのは分かりますよね?」
「そりゃな。怪奇譚なんだからな」
そりゃ、怪奇譚を背景にしているのにヒロインにその手の話がなければ詐欺だろう。
「はい。それで、主人公はこの土地に住むことになる以上、その原因をどうにかしないとまともに暮らしていけないので、その解決を図るわけです。で、その過程で、ヒロインたちの霊障、怪奇譚も一緒に解決して、その結果町が消し飛ぶ原因がなくなるわけです」
「OK。タイキ君話が飛びすぎだ。なんでヒロイン一人を救えば、それで町が救われることになるのかそれじゃ何もわからない」
過程と結果がつながっていない。
1+1=2じゃなくて10になっているような感じだ。
残りの8はいったいどこからきた。
「だから、そういうシナリオなんですよ。で、主人公がヒロインと結ばれないままでいると、18日目に再び倒れてしまって、大きな病院で診察を受けるために町を離れるんです。そして、2日後にニュースで大規模なガス爆発があって町の住人の半数以上が死傷するような大惨事になったと聞くことになるんですよ」
「無茶苦茶だな。因果関係がさっぱりわからん。というか、町の半数が死傷するようなガス爆発ってなんだよ」
広範囲に絨毯爆撃でもしないと普通そんな結果は出せないぞ。
あとは、よほど大規模なガス施設でもあれば可能性はあるが、普通はそういう事故を想定して、そういう施設の近くに家屋はない。
つまり、ストーリーのためとはいえ、意味不明な事態としか言いようがない。
「一応そのニュースでは、町の下に張り巡らせている下水道に可燃性の気体が溜まって、それに引火してって報道されてましたけど?」
「地下ならなおのこと上に被害がでるもんか。というか、上まで吹き飛ぶレベルの爆発ってなると、戦略核ぐらいだぞ。そうなると、上の住民は当然全員死んでる。雑なニュースだなおい」
「まあ、所詮ゲームの世界ですし。それか案外この町の下に戦略核の開発研究所があるかも」
「んなのねえよ。それじゃあ怪奇譚から離れすぎている。そもそも、主人公やヒロインたちの体調不良が近くの核施設によるものなら、もっと被害者が多いはずだ。そんな事態にそこの研究所の連中が気が付かないわけないだろう? ばれるとそれこそ大問題だからな」
「あー、そう言われるとそうですね。でも、俺が知っているのはこんなもんですよ」
つまり、まともな情報ほぼなしか。
原因さえ分かればすぐに殴り込みでもかけて、原因を除去するんだが、それはできないと。
「まぁ、わからないのなら仕方ないな。なら、そのヒロインたちそれぞれの問題の解決だ。それをこなせば町の消失が起きない。主人公がヒロインの攻略に成功しようが失敗しようが、霊障でぶっ倒れようが、問題ないってわけだ」
「割と人でなしの提案な気がしますね」
「なら、タイキ君が主人公に関わって恋の成就を手助けすればいいさ。でも、人の恋の手助け程、難易度が高い物はないと思うけどな」
俺にとっては、そんな他人の恋愛の方がよほど面倒だ。
怪奇譚の解決に向かった方がまだ可能性が高いと断言できる。
「すみませんでした。俺たちの扱いはモブって感じですし、たしかに恋愛成就に奔走するよりもそっちの方がいいです。でも、いいんですか? 俺たちが直接ヒロインたちと関わることになるんですけど?」
「問題はそこだ。俺たちだけで行って怪現象の原因をぶっ潰すじゃダメなのか? 本人、つまりヒロインが赴かないと解決しないのか?」
とはいえ、呪われている本人を連れて行くのが呪いを解く条件というのはままある話だ。
「あー、そこは正直わからないです。でも、下手な賭けをするよりも、シナリオ通りに動くのが結果安定しませんか? 付き添いが主人公から俺たちになるだけですし」
「うーん。主人公に特殊な力があってそれで解決ってことはないだろうな? その場合、俺たちが代わりに行っても無駄になりそうだが?」
「あ、それはないです。シナリオの中じゃ、主人公は常に励ましたり、サポートに徹しているだけで、何か特殊なことをしたとは書いてなかったですから」
「そうか。ならヒロインと一緒に行けばいいのか。で、あとはどうやってその4人のヒロインを呼び出すかだが……って、そこで思い付いたが、攻略しなかったヒロインたちはどうなるんだ?」
ヒロインの一人と結ばれて主人公がハッピーエンドというのはいい。
しかし、そうなると選ばれなかった3人のヒロインはどうなるのかという疑問が残る。
まあ、普通の恋愛ゲームならただの一友人として、違う人生を歩むってだけなのだろうが、このゲームの場合、ほかのヒロインは問題を抱えたまま、解決することがないはずだ。
ん? そこである問題に気が付いた。
「なあ、ヒロインが抱えている問題ってのは全員同じ原因なのか? 同じ怪奇現象に悩まされているのか?」
「いえ。俺の覚えている限りは4人とも内容は違いましたよ。で、攻略しなかったヒロインたちですが、その後基本的にシナリオに絡んできませんからね。もともと別のクラスだったり、上級生だったり、隣のお姉さんで幼馴染だったりしますからね」
「そりゃまた珍しいヒロイン構成だな。普通学園内で固めないか? で、同じクラスには攻略対象がいないのか?」
「あー、残りの一人が一応同じクラスですよ。まあ、問題がひどくて不登校ですけど」
「それは同じクラスっていうだけの詐欺じゃねえか。四人そろって並んでいるパッケージイラストは幻想か?」
「いや、大抵ゲームのパッケージってシナリオ上ありえないことの方が多くないですか?」
「まあな……」
そう言うのはままある。
だが、この場合は問題がさらに膨れ上がったにすぎない。
「パッケージの話はいいとして、ヒロインたちの問題はバラバラで、攻略しなければほったらかしになってその後はわからないと。それってちょっとまずくないか? 全キャラ攻略後、問題の解決シナリオみたいなのはないのか?」
俺が気が付いた違和感は、選ばれなかったヒロインたちのその後だ。
話を聞く限り、主人公は目的のヒロイン以外とはほとんど交流を持たないシナリオ構成で、その後が不明ときたもんだ。
なので、全キャラ攻略後に、解決編などのシナリオがあるかと思って聞いてみたのだが……。
「そういうのはなかったですね。むう、彼女たちのその後ですか……」
「主人公みたいに霊障がひどくて結局よそへ引っ越したとかなら安心だが、死んでたとかなら非常に後味悪いぞ」
「ですねぇ。でも、そんなシナリオはなかったですし……」
「まぁ、そんなその後なんてシナリオでゲームは作らないだろうしな。気にせずほっとくという手もあるが……」
「なにより俺たちも町の消滅に巻き込まれる可能性があるから、放っておくわけにはいかないってことですね」
「ああ。というか、偽善だが結末を知っているからこそ動かないと気持ち悪い。現実なら、ウィードを率いて問題解決する案件だしな」
町が一つ吹き飛ぶなんて問題があるとか、為政者として何とかしないといけないのは当然だ。
「……なんか下手に未来を知ってるばかりに奔走って感じになってますね」
「仕方ないだろう。俺たちの生存にもかかわってくるんだからな」
こうして基本方針は決まった。
なんとか主人公に選ばれなかったヒロインたちを全て、保険として助けて問題解決に導く。
そして無事に30日を過ごすということだ。
「で、物語はもう始まっているのか?」
「いや、確か主人公が町に帰って来るのは1月4日ですよ」
「実質16日で彼女が出来るって内容か、無茶苦茶だなおい」
「恋愛ゲームとかそんなもんでしょう? というか、元々知り合いっていう設定なんですから、下地はあったと思いましょう」
ちっ、これだから恋愛ゲームの主人公は……。
くそっ、主人公補正バリバリだな。
「ま、こっちとしては助かったと思おう。まずは、今日一日をかけて、パソコンに入っているシナリオを全部やるぞ。見落としがあるかもしれないからな」
「はい。それは当然ですね」
「で、二日目は考察と、ゲームに出てきた場所の確認だ。どこまでゲームに似せているのか、或いは違いがどこまであるのか確認だ」
「大事なことですね」
「三日目は、ヒロインたちの捜索だな。まあ、これはゲームから場所ぐらいは分かるだろう」
ということで、俺たちはさっそく、ゲーム攻略に向けて動き出すのであった。
……ところで、正月休みってなんだったっけ?