幕末古都伝説 忍者少女と武装巫女
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
文久2年の秋。
手裏剣を四肢に撃ち込まれ、私は無様に転倒した。
何とか身を起こした私は、退路が失われた事を痛感させられた。
墨を流した如き夜の闇に浮かぶ、般若の面。
私が脱走を図った「鬼人党」の忍達だ。
「抜け忍には死あるのみだ、あやめ。まして請け負った仕事を聞かれてはな。」
赤い般若の男が、私に歩み寄ってくる。
鬼人党頭目「血頭の鬼王丸」の冷酷さは、私も承知の上だ。
だが、これだけは言わねばならない。
たとえ私が無残な死を遂げる事になろうとも…
「米国大使の暗殺など狂気の沙汰…この国が滅んでしまいます!」
しかしと言うべきか、やはりと言うべきか。
私の懸命の訴えは届かなかった。
「請け負えば誰でも殺すのが我等の掟。せめて父である儂の手で葬ってやる。」
「くっ…」
忍者刀が鞘走る音を聞き、私は目を閉じた。
だが次の瞬間、首を落とされ、袈裟懸けに斬られ、下忍達は次々倒れていった。
「鬼王丸、覚悟!」
血煙と共に現れたのは、意外にも巫女姿の乙女達。
殺戮の現場には不似合いな存在だが、構えた薙刀や太刀が血染めである以上、下忍達を殺戮したのが彼女達だと受け入れざるを得まい。
「なっ…き、貴様等…」
「観念なさい、鬼人党!黒幕の攘夷派は先に逝って頂きました!」
不敵に笑う巫女達が得物を構えた刹那、私の意識は今度こそ闇へ墜ちていった…
再び目覚めた時、私は自分が鴨川の河原に寝かされている事を理解した。
鎖帷子は脱がされ、四肢の傷には手当てがなされている。
「これは…貴女方が?」
「御安心を。貴女の追っ手は御覧の通り。」
巫女の1人が掲げた首級は、赤い般若の面を被っていた。
外道とはいえ、血を分けた父に変わりはない。
余りにも呆気ない死に様に、忍の無常さを再認識させられる。
「帝の御膝元である京を守護する私共にしても、『鬼人党』は討つべき敵。礼には及びません。」
そう言えば、風の噂に聞いた事がある。
武術を極めた戦巫女達が嵐山に集まり、京の治安を守護していると。
「私共と共に行きませんか?我等『京洛牙城衆』なら、貴女の忍術を正しき事に役立てられます。」
抜け忍である私に、申し出を断る理由はなかった。
こうして京洛牙城衆の一員に加わった私は、明治半ばには第一線を退き、今は忍術指南役として後進の育成に携わっている。
優れた戦巫女に育った教え子達は、様々な脅威から人々の命と未来を守っているそうだ。
あの日の私が、命と未来を守られたように。