第二話
俺はスラム街から離れ、冒険者ギルドに向かっていく。
冒険者、またの名は何でも屋であり、冒険者ギルドとはそれを束にする組織である。仕事がほしいけれどコネがないなら、冒険者ギルドの門を叩けというのはモットーにして百年前に成立した組織だったらしい。
だが、皮肉なことに今となっては正式登録するだけで、銀貨一枚もかかる。コネもなければ、金もないなら門も叩けない。だからスラム街は消えない。
その変化ができたのは、十数年前に、この登録するだけで身分がもらえるというシステムを悪用した者が現れ、多大な迷惑をギルドにもたらしたようだ。でも逆に仮登録というシステムができ、銀貨一枚の100分の1の価値である銅貨一枚だけで、仮登録できるのだ。
正式登録すれば、成功報酬の一割として成功報酬として天引きされるが、仮登録は税とは別に成功報酬の半分も持っていかれる。仮登録の冒険者は仮登録者だけの仕事しかこなせないが、その中に薬草採集というクエストが存在する。常時依頼なので、薬草を持ってから依頼を受けてもお金がもらえるが、一応無料貸し出し中のスキルである【隠密行動】を試したくて冒険者ギルドに向かった。
いきなり街の外まで出向いてもいいが、魔物相手にぶっつけ本番はどう考えてもありえない。失敗すれば死ぬからだ。
とりあえず、発動中のこのスキルは大通りを歩いても気づくものはおらず、時々誰かに肩をぶつけたりもした。普通の人には有効なスキルのようだ。冒険者相手はどうだろうか?
そう考えてわくわくしながら、冒険者ギルドに向かって行くのであった。
結果からして大成功である。だが、ある意味大失敗でもあるのだ。スキルを使いっぱなしにギルドに入っても誰にも気づかれず、受付の前にならんでも必ず誰かにぶつかって列から離される。さすがにいきなりスキルを消すほど馬鹿ではない。なぜなら、冒険者にあらず情報というものはどれほど大事なのか、アルフォンスお兄さんから教え込んでもらったのだ。十歳児に……
所詮借りたスキルは自分のものではない。もしこのような能力を知られれば、恩恵のギフトか、努力で習得したスキルか、と考えられる。だが、7日後(***)はもう使えない。使えないものを自分のものにすると知られれば、このように期間限定でこのようなことができるという情報を逆に相手に教えたようなものだ。
もちろん、魔導具によって使用可能という可能性もなくもないが、見るからにお金とは無縁の格好をした俺が手に入るはずの魔導具を考えるよりもギフトのほうに目をむくだろう。お金を使えば、スキルがもらえる。もし他人にばれたら、俺は一生お金持ち、いや下手したらどこか強欲な王様に飼わされる羽目になるだろう。
別に悪くないが、自由がない生活など、俺には信じられない。なにより、これ以上冒険ができないだろう。誰がそんなお金でスキルを買えるギフトの持ち主をわざわざ危険に晒される?いや絶対にいない。
だから、誰にもばれずに冒険者ギルドを出た。とりあえず仮登録はやめた。薬草を売りたいなら、薬師ギルドに売ればいい。少なくとも、値段半分に買いたたかれるようなこともないだろう。スキルを発動したままに街を離れ、徒歩30分程度で草原に到着した。隠れるところがないのに、機能するだろうか。いや街中でもきちんと機能するし、割と行けると他愛もないことを考えている。
何もない草原を延々と進んで60分、いつもお世話になった森の前についた。いつもこの森の魔物や野獣から身を隠れて果実を食事にして、時に薬草をも乱伐したおかげか、ギフトからこの二つのスキルを貸してもらったではないだろうか。
いつも乱獲した薬草のことだが、降ろした薬師ギルドからのレクチャーもうけた。見分けは未だにできないが……薬草は七つのグレードに分かれて、一番価値のない7級の買取価格はただの2Gで、仮登録で冒険者ギルドに買い取らせば、1Gまで値が下がる。
今度狙おうとするのはその百倍価値の高い5級薬草であり、中級ポーションの材料でもある。とりあえず、正式登録できるまでの資金を稼ごう。