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プロローグ


「ヤバイヤバイ。ヤバイ位にヤバイ感じに超ヤバイ。とにかくヤバイ。マジヤバイ」


起きて始めに口から出た言葉は、それだった。


目が覚め、起きると、サバンナのような大草原の中に居た。

格好は寝巻だけ。それ以外は何も無し。

見渡す限り、広大な草原。綺麗な青天。そこらを歩き回っているゴブリン的外見の現地住民(皮膚が緑色)。

自分が先程まで居た都会とは別物の、今の自分とは別格の、まさに大自然という美しい世界。


「どこじゃここぉおぉぉおぉおおお!!!」


叫んでも大したことは何も起こらない。

ただ風が鳴る音が聞こえる。

不安が治まらない。泣きそうになる。

すると、近くにいたゴブリン的現地住民さん(両耳が妙にデカイし左腕が無い)に「オッパオガイッパイ!!」という暗い大声で怒鳴られた。

恐らく現地の言葉だろう。さっぱり意味は分からないけど、怒られた気がする。

そりゃあ急に近くで叫ばれたら驚くだろう。悪いことをしてしまった。


「いきなり叫んで申し訳ありません」


と言い頭を下げる。

言葉がどうであれ、気持ちを自分なりの態度で伝えるのは万国共通の礼儀だろう。

頭を下げる行為が、ここでは礼儀なのか無礼なのかが難しいところだけど。


「イチゴノショーツ!」

と言うと、ゴブリンさん(ファッションだろうか、上半身が裸で、腰に刃物みたいなのを装着している)は小さく溜め息を吐き、背中を向け、去っていこうとした。


どうやら機嫌を直してくれたみたいだ。

しかし、いちいち妙に気になる現地語だな。

・・・そんなことよりも現地人じゃん!

無礼を承知で聞きたいことは聞くべきだ!


「あの!つかぬことをお聞きしますが、ここは何処でしょうか?貴方様はどちら様でしょうか?」


彼の背中越しに質問してみる。

我ながら日本語で聞くなんてどうかしてると思うけど、気持ちよ!伝わってくれ!


「オスイエネーヨヴァキャ!」


振り返った彼は、そう言い残し、去っていった。

怒られたこと、彼の気に障ったことは分かった。

・・・それはそうだよな。つくづく彼には悪いことをした。


・・・さて、気を取り直して状況を確認しよう。

本当に此処には自然と自分以外は何も無い。

そもそも此処はどこだ?地球のどこだ?

少なくとも日本とは思えない。

フィクションでは、異世界が定番だが・・・。

ていうか、どういう辻褄だ?

先程まで家で寝ていたはず。

起きれば大自然の中で寝巻のまま何も持たずに寝転んでいた。

誘拐か何かか?あの世ですか?自分は死んだの?

あまりに支離滅裂だ。


「ここはどこ?どこ?どこ♪どこ~~♪」


・・・・・・試しに歌ってる場合じゃないか。

当たり前だけど、今、恐ろしく精神が不安定だ。


「キミノオッパオイイオッパイ」


呆然としていると、先程の隻腕ゴブリンさん(何故か右手に刃物を握っている)と思われる人が、唾液をボトボトと垂らしながら、先程より暗い声を出して、遠くから近寄ってくる。

しかし、その目は穏やかではなく、暴力的と言える雰囲気を全体的に纏っていた。

しかも、そのゴブリン野郎の後ろを見ると、十数人のゴブリン野郎の群れ(もれなく全員不細工な上に刃物を持っている)が此方に向かって走って来ていた。


・・・・・・・・・・・・ん?


今更だけど、なんか色々とおかしくね?

ていうかヤバくね?


「「「モマセルォォォォオオォォオ!!!」」」


ゴブリン野郎(笑)達の叫び声が辺りに響く。

その全員が刃物を自分に向けて迫って来る。

ぶっちゃけ、ありえなーい。


「これは逃げるが勝ち!うおおおおお!」


腕っぷしには自信があったが、足にも自信があったし、ここは必死で逃げた。

とにかく走り続けた。後ろから醜くて暗い複数の声が聞こえてきても決して振り向かず走り続けた。

なろう小説のような俺TUEEEEなんて夢のまた夢だった。

逃亡中、ドラゴンっぽい生物が空を飛んでいたけれど、6本の足が生えた鮫みたいな巨大な魚が陸上を歩いていたけれど、オークみたいな生物達が飲み会をしながら此方を指差し爆笑していたけけれど、走るのに必死だったから無視しておいた。

後ろからずっと近くで聞こえる怒鳴り声が聞こえなくなるまで、彼らから逃げ切るまで、メロスのように走った。


「はーっ、はーっ、ひっひっふー、ひっひっふー」


どれくらい走っただろうか。

火事場の馬鹿力もあって、何とか彼らから逃げ切れた自分は、川場の近くで大の字になって休憩していた。

気づけば夜になっていた。

・・・胸が痛い。

でも、本当に逃げ切れて良かった。


「後ろから奴等の声が聞こえなくなった時は心底ホッとした。ここまで自分が走れるとは思ってなかったなー。陸上部の奴と友達だった甲斐があったな」


こんなことがあったせいだろう。

むしろ、少しずつ精神が整理されてきた。


「ここは異世界・・・なの?」


あの噂の異世界?ここが?

まだ半信半疑だけど、可能性の1つに考慮しなければ。

今にして思えば始めからおかしかったかもしれない。

何だ?あのゴブリンもどきの生物は。

あんな知性が低そうなくせに目立つ生物が複数もいれば、とっくに未確認生物探究家が発見して報道しているはず。

UMA特集のテレビ番組があれば必ず観る自分が言うんだから間違いない。

それに、逃亡中に何か変な生物が居た気もするし。

何より異常なのは、さっきから気になってたけど、この世界は、何故か月がハート型だ。というか月で合ってるの?あの星。


・・・もしもここが異世界なら、整理すると、家で寝てる→起きる→different world という道筋か。


「浅い!物語としては零点だよ!起伏がないよ!トラック等の事故は!?偶然、異世界への入り口を見つけたとかは!?妖精さんか何かが連れて行ってくれるとかは!?」


起きたら異世界でした♪もテンプレだけどさー。

個人的には唐突過ぎる上に受動的過ぎるから、ただただ絶望しかないよ。

例えるなら、フ○ーザ様と藍染○右介様とラ○ウ様を1人で丸腰で相手するような絶望感。

1つ得た確信は、これはドッキリの類いではないことか。


「ハハハハハハ!もう笑うしかないよ。いやー、この世界も自分も訳分からなすぎて、笑わなきゃ発狂するな」


・・・さて、冗談抜きでどうするべきか。

したいことはある。元の世界に帰ることだ。

例え異世界であろうと、例え地球の何処かであろうと、家に帰りたい。元の世界が恋しい。

今クールは見たいアニメが沢山あるし、今月買う予定の漫画もあるし、クリアしてないゲームも多いし。あと家族にも会いたい。

やはり異世界の堪能なんて、フィクションで十分だ。

まだ現実逃避には早い。

ならば、何をすべきだ?こんな意味不明な世界で何を?

そもそも色々な辻褄が不明だ。

何時?何処で?誰が?何を?何故?どうやって?自分は本当に自分なのか?自分って何だ?何が何?ハ○ターハ○ターはいつ円満終了するんだ?

状況の把握すらままならない。

フィクションの異世界ものの主人公は、やたらと状況確認と精神安定が早いけど、実際に我が身に起これば焦るものだ。あの方々はヤバイよヤバイヤバイマジヤバイ。

だから先ずは行動。次に忍耐と熟考だろう。難しいことは後回しだ。

自分が「こんなこと」に巻き込まれた理屈を探し、理屈がどうであれ、元の世界に戻る方法を探して、実行するべきだ。


先ずは行動。その中で最優先は落ち着くことだ。

ならば!


「HEY!ここは異世界!ぶっちゃけ何処かい!?愉快な幽界?明快な冥界?正解は不可解にも別世界!理解は無理かい!?無理解!精神崩壊!?つまり軽快?いやいや警戒!つーか痛快!?NO!深い不快!そもそも此れは立派な誘拐!ホントに不愉快!犯人誰かい!?視界に広がる細かい厄介!幻怪な社会!帰りたいかい?元の世界!当然だからパワー全開!今から始まる孤独な戦い!こんな扱いに気高い俺は負けない!」


・・・・・・・・・・・・は~、落ち着いた。

やはり歌は良い。

よし。先ずは水浴びでもしよう。妙に綺麗な川だから飲むことも出来たら良いんだけど。


まーなんとかなるさ!なるようになるようになる!

異世界も四捨五入したら世の中には変わりないから、細かいこたぁ放っておこう!


こうして、ボクの異世界生活は始まった。

スッポンポンで。





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