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とある宇宙生物の独白

 私は卵である。名はあるが、諸君に発音できるものではないから省略させていただく。


 私がこの星に産み付けられて早40◼︎◼︎(時間の単位である)が経った。孵化の時期が近づいている。

 卵の状態でも意識はある。外界の様子はおおまかにしか分からないが、少し小さい星のようだ。運が悪い。この規模の星では、然程大きな成体にはなれないだろう。残念なことだ。


 内側から卵の底を少しずつ食べていく。主食は星の中心にある。卵を食い破って孵化し、目当てに向かって一直線に掘り進んでいく。

 6◼︎◼︎ほどかけて、ようやく目当てにたどり着いた。マントルだ。私の主食である。一滴たりとも残すつもりはない。じっくりと時間をかけて、少しずつ食べていく。


********


 自身が成長しているのを感じる。食べた分だけ大きくなる。当然のことである。全ては順調だ。しかし、マントルの半分を食べた頃、体表にチクリと痛みがあった。大したものではない。さては小惑星でも衝突したのか。しかし妙に気になる。私は地表の様子を見ることにした。


********


 何ということだ! 原始的な生命体を発見した!

 素晴らしい幸運だ。この広い宇宙で、たまたま生物の存在する星に産み付けられたとは。小さい星で残念だと思っていたが、こんなに嬉しいことはない。どうやら私を攻撃しているようだが、この程度で私が死ぬことはない。むしろ、この星全てを喰らい尽くす前に気付かせてくれて感謝したい気分だ。


 慎重に体内に取り込み、サンプルとして保存する。興味深い生物だ……。小さ過ぎて観察しづらいが、4本の突起を持っており、2本を移動に、他の2本を道具の使用などに用いているようだ。コミュニケーション能力もあるのか? 気体の振動や電磁波を感じ取っている……星から出ることを想定した構造ではない。なんとも幼い生命だ。あるいはこれで成体なのか。


 とてもわくわくしている。こんなことは滅多にあることではない。子孫に受け継いでいき、何世代か先で母星に持ち帰った時、かなりの報奨が出るだろう。間違っても死滅しないよう、体内にこの星の地表に近い環境を再現した区画を作った。あまりに小さく、脆い命だ。寿命も短く、1◼︎◼︎の内に何百も世代交代するようだ。気をつけて扱わなくては。


********


 数億個ほどサンプルを取り、残りは私の栄養になってもらうことにした。星間飛行にはエネルギーが必要なのだ。サンプル以外、この星の全てを喰らい尽くした。元々の星の大きさと同じ大きさにまで成長して、漸く幼年期が終わる。


 時間をかけて、少しずつ身体の構造を組み替える。星を食べるための身体を持つ幼体では、宇宙を旅することはできない。星間飛行を可能とする成体に変化する必要があるのだ。そして、星を一つ食べて得たエネルギーで、番いとなる雌を探しに行く。稀少なサンプルを持つ私は、きっと多くの雌から求められるに違いない。そして、多くの卵を作り、また宇宙の星々に産み付けるのだ。


********


 宇宙には多くの星がある。我々がいくら食べ尽くそうとしても、食べ切れないほどの数だ。そして、我々の死体も星になる。その星も、きっと我々の子孫たちに食べられるのだ。そうしてこの宇宙は廻っている。あるいは、宇宙そのものを喰らう高次元の生物だっているかもしれない。なんとも壮大で、恐ろしく、しかし浪漫のある話じゃないか。

 彼らは明日、地球に来るかもしれない。もしかすると、今ごろ地球の中心で星を貪っているのかもしれない。


 あるいは……ここはもう、彼らの腹の中なのかもしれない。

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