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赤い骨  作者: はるな
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冬の初頭、夜が日に日に長くなっていくこの季節が私は一番好きだ。

広葉樹の葉が赤く染まるこの季節。秋の終わりを告げ、冬の始まりを告げるこの瞬間を美しく思う。


なんて、目の前に広がる山を見て考える。本当は冬の山に行こうと思っていたのだけれど、会社の上司に


「この辺の山は雪が降ると通行止めになるよ」


と言われた。調べてみると、通行止めになるまであと一週間とインターネットで告知が出ていた。そのため私は急いで予定を開けた。これは想定外だった。


冬は、絶好の採掘日和なのに。


というのも、私が生まれてから去年まで住んでいた名古屋やその付近では、むしろ冬の方が化石や鉱物を見つけやすいのだ。春夏に成長した植物が枯れるため、地表が顕になっているからだ。



生まれてからこの春までずっと名古屋在住だったというのも手伝って、雪がつもるというのをこの目で見たことがない。


愛知県では2センチ積雪すれば大騒ぎであるし、私自身もほんの少しの降雪でもテンションが上がるタイプの人間だ。


上司は


「平地でも10センチくらい積もるよ」


なんて言っていたけど、10センチも積もったら身動きが取れなくならないだろうか?


雪が降ったらどうすればいいのだろう?と思い、


「熱湯で雪を溶かせばいいんですか?」


と、上司に聞いてみたら、


「それだけはダメ」


と言われた。

道が凍ってつるつるになってしまうそうだ。


「北陸地方は地味に除雪機能が発達してない感じなんだよねえ。もうちょっと北に行くと、地面に電熱線が埋まってて楽なんだけど。ここだと除雪は基本的に地下水を散布するだけでさ。あれ、歩道歩いてると濡れるし不便だよ」


と上司が続けて言った。上司のいう融雪装置を見たことがないので、実を言うとちょっとだけ楽しみだ。地下水の散布ってどういうことだろう?


こんな感じで、雪にまったくもって慣れていない様子の私に向かって上司が


「名古屋みたいに交通網が発達したところから日本海側に来るなんて、物好きだね」


と言った。物好き、そうなのかもしれない。


私が名古屋から福井県に引っ越してきた最大の理由は、福井県が日本の代表的な恐竜化石の産出地であるからだ。


なんでも、日本で出た恐竜化石の八割が福井県から出土していると言われている。また、日本有数の恐竜博物館が、石川県との県境付近、福井県勝山にある。


名古屋にいるとこの恐竜博物館に行くのも一苦労であるが、福井県なら車さえあれば、気軽に行くことが出来る。


それが私にとってはかなり魅力的だった。

福井の恐竜博物館は恐竜の化石のみではなく、植物の化石が置いてあったりする。


また、化石だけではなく、鉱物もたくさんまとまっている。スペインで見つけられたらしい正六面体の黄鉄鉱は大きくて、思わず息を飲んだ記憶がある。


福井県で出土した恐竜の化石だけではなく、隣の石川県の大桑断層で見つかった貝の化石だったり、愛知県の隣である静岡県の掛川で発見された貝の化石が展示されていたりで面白い。


曰く、学術的にかなり価値のある化石だそうだ。


「私、化石が好きで」


ただ、あまりに語りすぎても仕方ないので、この一言に集約されてしまう訳だが。


「へえ、じゃあ、採集しに行ったりするの?」


「はい。名古屋にいた頃は化石を探しに川の上流の方へ行ったり、秋の京都で山登りしたり」


私のこの発言に、上司は思案顔になった。何かを言うか言わまいかで暫く迷っていたようだが、


「……3年前、ここの会社に勤めてた有川さんっていう人も山の中で行方不明になったそうだから、気をつけてね」


と、心配そうな顔で私の方を見つめる。


「はい。迷子にならないように気をつけますね」


上司と話していたらいつの間にか5分経っていた。気分転換はここいらで終わりにしよう、と私は自分の持ち場に戻った。


こんなこと話したなあ、なんて上司とのやりとりを思い出しつつ、化石採掘の隠れた名所であるらしい地点へと向かう。


ここでは植物の化石の他、運が良ければ脊椎動物の化石をも埋まっているという。


ポイントらしき所についた私は地図をリュックにしまう。車を降りてからは、ほとんど道じゃないような道を通ってきた訳だが、はたしてここであっているのだろうか?


私はちょっと方向音痴だというのを自覚しているので、少し心配ではある。

しかし、心配したところで何も始まらない。


持参していたタガネとトンカチ、軍手を取り出して、採掘を開始する。

ひとつの場所に大体2時間くらい留まっていれば何となく採掘が進むので、そのくらいを目安としたい。

辺りを見渡してみる。


ふと、若干動物のようなものの骨が出ているのを見つけた。


硬い地面をたがねで削り、地道に掘り進んでいく。なんとなく掘り進めなきゃいけないような、そんな焦燥感に駆られながら骨を掘り出した。



地面の紅葉を反射したのだろうか。はたまた、血が染み込んでいたのだろうか。赤く染まった骨。



人間の骨、というのがインパクトに強すぎて、私はふっと、気を失った。





尻叩き用。

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