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大団円エンディングの作り方  作者: 吉瀬
第7章 ダヤンへの加入
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98 私の心の中

『ペンタメローネのシンデレラ、お母さんを殺したの。グリム童話のシンデレラ、お姉様は目玉をくり抜かれ、最後に姫は微笑むの。

めでたしめでたし大団円。そのお話の前と後。そこには何があるのでしょう?』



初めはただのゲームの世界だと思った。モブだけどゲームに参加して、友達と世界を救いつつ元の世界に帰ろうと思っていた。

けれど、この世界がそんなにぬるくない事に気がついたのはいつからだろう?闇の国の図書館でヒナタさんの物語を読んだ時?サンサンを助けた時?いるんだかいないんだかわからない神様が私に何かさせようとしている事に気がついたのはそのあたりだった気がする。


この世界がゲームの中なら、自分は本来この世界に来てはいけない存在だった。つまりバグである。バグは普通、システム内の自己防衛プログラムに消されるはずだ。私はこの世界に入れず消えるか、圧倒的に弱く設定されて序盤で処理されるべき存在だった。けれどいろんな偶然が重なり、今は生かされている。


システムが支配する世界で本当の意味での偶然なんか無い。私はシステムの意思によって生かされている。そして、それは私に何かをさせようとしているのだと思い至った。


サンサンを助け、ウランさんを助け、モートンさんが月子ちゃんの敵にならないようにした。大量のフラグを回収しながら、私はシステムが私にさせようとしている事を推し量った。


だって、推し量って成功させなければバグとして処理されると『確信していた。』から。

この『何故だかわからないけれど確信している』感覚を私はよく知っている。これは忘れた記憶だ。秋穂の記憶が蘇る前に大地くんや海里くんの性格を知っていたのと同じだった。


わたしがあの中庭でそれに気づいた後、システムは、この世界は呼応するように次々と分かりやすいフラグを立てていった。それは、私の推測が正しいのだと教えるようだった。




ヒナタさんの物語は圧倒的な強さでモンスターをなぎ倒すだけで、冒険らしい冒険はしていない。けれど、大地くん達が幼い頃に聞いたのは『胸踊る冒険譚』だった。

ゲーム中で月子ちゃんがこちらに来る日は、あちらを立った日と同じだ。あちらとこちらで月日はズレていない。なのにヒナタさんは帰ると10年もたっていた。

これはつまり、ヒナタさんも何度も『強くてニューゲーム』をしたと考えられる。ヒナタさんは大地くん達に10回の物語を上手く繋げて話したのだろう。


そして、この事はまた一つ私にヒントを与えるものだった。


『強くてニューゲームをすれば時間が戻るのではない。』


時間は過ぎるが、記憶が消されて少し若返るだけ。レベルも落ちる訳ではなく、記憶が消されて使えなくなるだけで、少し練習すればまた戻る。ゲーム中の最強アイテムは二回目には宝箱の中には入っていない。何故かゲーム開始時には所有者の手に入っている。攻略対象の月子ちゃんへの好感度は、始めから高くなる。


だから、逆にまだ来ていないはずの海里くんのメガネは既に遺跡に落ちていたのだ。海里君の攻略イベントで落としたメガネは、回収されずにニューゲームが始まった証拠だった。


月子ちゃんがゲームに現れた後も私がいる事をシステムは許さないだろう。だから月子ちゃんが来る日までに、いつも私はいなくなる。それはいつも私がそれまでに死んでいたからだ。バグの私は消されるのが仕事だった。けれど、今回は生かされている。

月子ちゃんがノーマルエンドと9人の攻略が済んだから、私にチャンスが来たのだ。

システムは大団円エンディングを迎える準備を私にさせている。


使えなければまた消される。システムからすれば居なくてもなんとかできるけれど、私を脅して動かす方が都合が良かったのかもしれない。

理由はわからないけれど、そうなっているとしか思えなかった。



一つのヒントから一つの真実を見つけると、後はドミノが倒れるように理由が分かった。

悪の精霊がシーマに似ていたのは、悪の精霊が私だったからだと気がつく。何度目かの私が失敗した話を誰かが絵本にし、人々の記憶から消されたけれど本だけ残ったのが引き継がれたものだ。

そうやって私はうっかり誰かの魔法で殺されたり、民の前でギロチンの刑に処されたりして来たのだと、システムに遠回しに脅されて来た。


記憶はなくても身体は覚えている。感情全てがリセットはされない。

闇の国の過保護ブラザーズ、特に大地君の眼の前で、私はガラスより脆くうっかり魔法で死んでしまったのだろう。だから、大地君は私が死ぬ事を恐れていた。眼の前でバラバラになるのを見るのは辛かっただろう。責任感の強い彼はその思いを持ち越して、私を保護しようとしている。何度も保護されて、闇の国で過ごした時間はきっと長くて、私達が忘れた記憶の中でウランさんや大地君は私を愛するようになった。


一志の事はとっくに整理がついている。心残りはあるけれど、諦めなければならない事だと納得している。けれど攻略対象を好きにならないように中庭で決意した。それは、月子ちゃんが既に攻略している相手だから。


私が大団円のお膳立てを上手くやって元の世界に帰れても、今、誰かと両想いになっても、月子ちゃんが来る前に私は世界に戻され、彼等の私の記憶は消されるだろう。彼等が月子ちゃんを想わなくては破壊神に勝てないから。

だから、私の元に転生してくる事はあり得ない。月子ちゃんと結ばれなくても彼等は私の事を死の間際に思い出すことすら無い。


それに何より、私自身が彼等に好かれる事を恐れている。


ウランさんも大地君もキュラスも、私に対しての好感度の上がり方が異常だったのは、過去の私達の関係のせいだと思う。

私がサタナさんを見て切なくなるのは、過去の私がサタナさんを好きだったからかもしれない。なのに、キュラスやサタナさんが私を好きになる事に、私は恐怖さえ覚えている。何故か彼等が傷付くと思ってしまい、それを恐れている。別れるのが辛い以上の恐怖が、私が恋愛しないようにさせている。


記憶は消せるのだから、システムがそう感じさせてるわけでは無いはずだ。


理由が思い至って、サタナさんと行動を共にする事を辞めようと決めた。それから、たった一回と決めて彼とデートした。

少し以前よりぎこちない彼が、パンケーキを買う背中に向かって私はたくさん質問した。


過去の貴方は私を守るために死にましたか?

過去の私達は両思いでしたか?

私がギロチンの露になった時、貴方はそれを見ていましたか?本当は優しくて繊細な貴方を傷つけましたか?

愛した人が死ぬのも、愛した人の眼の前で死ぬのもどちらも辛い事を私は『確信していた』


多分、サタナさんの私への好感度は高くなっている。

多分、キュラスの好感度も高くなっている。


魔法を覚えれば、一人で後は大団円を作ることができる。離れてしまえば、彼等が私のために死ぬ事くらいは避けられるはず。


大丈夫。私にはマリちゃんがいる。マリちゃんは取り上げたりされない。



弱くてニューゲームは、これで最後でいい。

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