69 図書室へ行こう
単語ミスしてました。皇太子→王太子です。過去分について、順次訂正していきます。
「それは、僕が確認しただけじゃ不安って事?」
キュラスが不愉快そうだ。演技かなー?演技だよねー?昨日の手紙読んでるー?
「決して!しかし、万一ということが…。」
「やっぱり不安って事だよね。えいこ、構わない?ゾイ将軍は恋文を読みたいそうだよ?」
あ、キュラス昨日のちゃんと読んでた。良かった。
「仕方ありませんね。けれど、」
最後まで言う前に将軍は手紙を開封して中を検めた。あー、封筒がー、ぐーちゃぐちゃ。
中を見てプルプルと震えるゾイ将軍の背中に声をかける。
「内容は口外なさらないようお願いいたします。」
「こ、こ、こんな手紙!キュラス様も目が触れ◯△✖️!」
言葉にならなかったらしい。
「ちゃんと宛名と署名読んでる?」
キュラスに言われて手紙を見直した真っ赤な顔が今度は真っ青になった。
「手紙、新しい封筒に入れる?」
「いいえ、このように検められていると分かるのでそのままでお願いします。」
キュラスは固まるゾイ将軍から手紙を抜き取って仕事へ戻って行った。
「これは、、、これは、大変失礼した。ディナ殿にも謝罪を」
「やめてください。彼女は覚悟の元ここにいるのです。」
狼狽えるゾイ将軍に頭を下げる。
「メイドのプライドをお守りください。」
ゾイ将軍は済まなかった、ともう一度言って退席した。
セーーーーーフ。念のためって大事。
手紙にはディナさんからジェード君に宛てた恋文が書いてある。内容はざっくり言うと「思へども 験もなしと知るものを 何かここだく 我が恋ひわたる」
昨日のキュラスに頼んだ手紙は二通あった。シャルさん宛て一通とジェード君宛て一通。
シャルさんへの手紙には文字としては簡単な状況説明とシーマにもよろしく伝えるように書いてある。内容は薄いから一枚で収まるけど、手紙の礼儀的に無地の便箋もいれるから二枚だ。そして便箋の縁と裏には百合の模様がビッシリ描かれてある。便箋の模様にしか見えないけれど、この百合は暗号になっていてシャルさんのみ解読可能なのだそう。
そこに、詳しい状況と今後ジェード君への恋文の縁と裏面を使ってサタナさんとやり取りする事が書かれていた。サタナさんからの報告は一旦シャルさんが便箋の挿絵の牡丹の暗号に翻訳して、ジェード君の文として届けてもらう手筈になっている。
ちなみにディナさんは中々の障害を今越えている最中という設定らしい。涙なくては語れない、壮大な設定らしいけれど詳しくは知らない。一応ディナさんの恋文も読んでるけど、どこかで見たような気がするんだよね。どこだっけ?昔のケータイ小説?ポエムっぽいし。うーん。
キュラスだって、あんな恋文信じてなさそうだし何かしらの暗号は疑っているだろうけれど、呼び出されないから静観黙認のようだ。
午後は今度こそ図書室へ。中庭には昨日は居なかった警備兵がいる。
「あれ?昨日もいらっしゃったかしら?」
「いえ、本日より配属されております。」
「そうなんですか。お疲れ様です。」
ちょっと困惑した表情だったけど、嘘か誠かまでは分からないなぁ。そもそも交代勤務かも知れないし。昨日のアレが警備兵もグルかどうかはまだ保留。
図書室は広かった。図書室っていうか図書館。入口は一箇所だが、二階まである。マナーや慣習の本とか歴史的な本は二階で、管理する部署の事務所と希少本、魔法や研究に関する本は一階だ。秘匿性が高いものは多分事務所の中かしら?
私はマナーや常識を知りたいのーという顔で資料をチェックする。実際嘘ではない。
うむ、しかし多い。闇の国に比べて慣習や祭典に関するものが多すぎる。しかも、何故か読めてしまうものも多い。闇の国では、こちらの人が書いたこちらの人のための本は読めなかった。この国の本もそういう本は読めない。でも、ゲームに出てきたかどうかも怪しい祭典の本が読めるのは何故だろう。読めちゃう本は設定かプレーヤーに読まれる前提の本か?私の知らない大団円に関する本なのか?それとも?
とりあえず今日は概要と地図の入手が先決だから、後回し。階段を降りて一階に着くと、来た時には無い張り紙発見。
『資料の持ち出し及びコピー禁止』
おおぅ。牽制された。こんなんで引き下がらないけどね。
事務所に声をかけると、文学青年風司書さんが対応してくれた。
「すみません。都の地図が欲しいのですけれど。」
「あ、ごめんなさい。ちょっと持ち出しやコピーはダメなんです。」
申し訳なさそうにする彼はチラチラ奥を確認している。ははぁ、若者、君、押し付けられたな。
「私、えいこと申します。キュラス様の話し相手となるよう申しつけられている来訪者で、先日よりこちらでお世話になっております。けれど、この国どころかこの世界に来てまだ半年も経たず、キュラス様にお話を求められても曖昧なままでは御不興を買うばかりで。どうか、上の方に頼んで頂けませんか?」
困っております感を前面に押し出してお願いする。三十路の秋穂がやったらアウトだな。
そうなんですか、少々おまちください。と気の毒そうに言って、青年は奥に引っ込んだ。コソコソ声で叱責されているのが聞こえる。あなたの上司は近くにいるのね。そうなのね。
非常に申し訳なさそうに彼が戻ってきて、コピー出来ない事を謝った。
「そうですか、あなたのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「え、あ、はい、ヒンと申します。」
「ヒンさん、ありがとうございます。ヒンさんが力になってくださろうとした事も含めて、今日の悲しかった事をキュラス様にお話しますね。」
ガタッと音がして、事務所から中年の太った男性があわてて出てきた。
「これはこれはえいこ様!お越しになっていたのですね!私、図書室長のガンと申します。うちの若い者がとんだご無礼を!」
はい、アウトー。
「ご自分でご自分を若い者と仰るなんて、ユーモアがありますね。先程ヒンさんをお叱りになっていた声、聞こえていましたよ。」
内容は知らんけど。
ガン室長の顔が青くなった。
「こちらの蔵書は貴重な資料ばかりですので、余所者の私が情報を持ち出しするのを制限されるのは当然です。本来なら、こんなに状態が良い物を素人の私が手に取ることすらご不快でしょう。けれど、私もキュラス様より命を頂いて動いておりますのでご協力いただけませんか?」
ガン室長は罵倒されるとでも思っていたのか、目をパチクリさせている。それから、失礼いたしました。と謝って地図をコピーさせてくれた。正しくはヒンさんの高速模写だけど。魔法てなんでもありだな。
外部秘は消して下さいね、とお願いする私を見て、ガン室長は「何かありましたら、お気軽に声をお掛けください。」と小さな声で言った。
ヒンさんからコピーを受け取り、二人によくよくお礼を言う。
「ガン室長、ありがとうございます。助かります。こちらのマナーや慣習に疎くてどの本から読めば良いかと途方に暮れていたので、お詳しい方に選んでいただければ助かります。ヒンさんもありがとうございました。次回来た時は、本が痛まないような扱い方教えてくださいね。」
ああ、闇の国での侍女えいこを思い出す。明日の昼にはキュラスにこの国の図書室の素晴らしさを語っておこう。
持ち帰った地図の城の部分を拡大して外郭を模写する。それからおおよその施設を書き込んで、城マップを作成。中庭と図書室、食堂はこの辺っと。後でバックヤードもディナさんに書き込んでもらおう。
街全体もなるべく覚える。祭典や歴史の本を読むのにも役立つし、誰かに話しかけるにも話題が必要。その点この街は面白い。古い街をちょこちょこいじりながらずっと使っているようで、旧市街地と新市街地という風に分かれていない。もっと見回っておけばよかった。遺跡もロマンだよねぇ。どんな意味があるんだろう…。
は、いけない。趣味に走るところだった。マナー本を読まなければ。
大団円エンディングの作り方
エンディングについて活動報告更新しました。




