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大団円エンディングの作り方  作者: 吉瀬
第5章 水星の章
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68 靴に画鋲的な

その日の夜、初めての食事はパンダの気持ちが分かるようなものだった。


皿を運ぶ人が入れ替わり立ち代り。ガン見はされないけれど、視線はかなり感じる。お料理は美味しいけれど、食べにくいものばかり。えーと、エビの頭ってどうやってとるんだっけ?そんなに手元を見ないでよ。


ピッカピカのどでかいテーブルに豪華な花が飾られている。不用意に触れると指紋がつくテーブルを見て、闇の国を懐かしく思う。ホームシックにだってなるわ。こんな分かりやすい慇懃無礼。


一応闇の国でディナさん達と過ごしながらマナーは模写ってきたけど、今から思えばそうやって育ててもらったのかもしれない。闇の国の彼等は披露宴ではうっとりするような立ち居振る舞いだった。日頃ざっくばらんだったのは、私を萎縮させないための配慮だったのかな。

キュラスが来た時も強大な魔力を持つサンサンがいきなり格調高く接すると威圧してしまうだろうという配慮があったらしいとも聞くし。

うう、泣きそう。


美味しいのにちっとも美味しくない食事を済ませて部屋に戻ると、部屋の雰囲気が変わっていた。さっきはホテルっぽい感じがしたけど、今は家に帰ったような。

「おかえりなさいませ。お疲れ様でした。」とディナさんが迎えてくれた。

「ただいま戻りました。何か部屋の様子が違うような気がするのですが?」

「えいこ様がご不在のうちに部屋のチェックと、家具配置等を城と同じように再配置いたしました。こちらの使用人達は私どもと異なる価値観があるようなのでお疲れになると思いますが、あちらと同じようにお過ごしいただけるよう、この部屋は私がお守りいたしますね。」

ディナさーん!と思わずハグしてしまった。

「やっぱり、こちらのメイドさん達は私の心象良くないんですね。」

「王家の使用人であるというプライドが良くも悪くも強いように感じられます。えいこ様は来訪者とはいえ、一介の侍女でしかも商人との仲が噂になっていらっしゃるので…。」

「そんな女が王太子をたぶらかしたんだから、仕方ないねぇ。」

キュラスが使用人達に慕われれば慕われるほど、風当たりはキツくなるのだろう。甘んじて受けるほかない。

「自衛はやっぱり?」

「隙を作らない事ですね。よろしければこちらをどうぞ。」

ディナさんは数冊の本を渡してくれた。やはりマナー関連の本だった。情報を集めるためにも必要で、それから隠れ蓑にもなる。

当面は、人間関係の把握とマナー習得、図書館での情報収集を軸に動く。サタナさん達にも街での情報収集を頼みたいので、少しディナさんと相談して手紙を書いた。


次の日の朝食は凄かった。ガッチガチのパンに微妙なぬるさの飲み物。それから、濃緑色の髪の毛がびょーんと入ったスープ。

食べ物を粗末にするのは頂けないけど、パンは多分時間が経って廃棄予定の物だろうから、ある意味逆に粗末にはしていないかも。味は美味しいから、残りは部屋で温めて私物のジャム塗って食べようと堂々とナプキンで包んでやった。料理を運んできたソバージュのメイドさんに唖然とされたけど気にしない。やられ方から考えると厨房内は無関与だろう。パンや飲み物と配膳はメイドの領分だ。


昼食ではキュラスが居心地を聞いてきたので、快適です、と笑顔で答えておいた。料理はとても美味しかった。

キュラスと話したり手紙をお願いできるタイミングはどうやら昼食時間のみ。二人きりで話したい時は、手紙で知らせて時間を作ってもらい、キュラスから声を掛けてもらう方が無難そうだ。


さて、午後は中庭を抜けている時に次の試練が降ってきた。

城内には一定距離ずつ警備兵がいた。元々なのか、ゾイ将軍の指示か知らないけれど道を聞くのには困らない。図書室に行こうと中庭を抜けていると、上から水がばっしゃーん。

上を見上げると、最後に降ってきたバケツが私に当たりそうになるギリギリで弾かれ飛んだ。3階から下を見ていたメイドが慌てて走り去る。多分場所的に彼女が犯人。顔は覚えきれなかったけど、濃緑色の長い髪は印象的だわ。

見回してもちょうど警備兵は居ない。居ないからやられたのか、警備兵もグルか。とりあえず部屋に帰ろう。夏でも風邪引いたら困る。確認するとマリちゃんは無事だった。


「このような場所で水浴びでもされたのですか?」

中庭から室内へ入る所でスカートの裾を絞って居ると、音も無くアニーさんか現れた。

「今日は暑いのでどなたかが気を利かせて下さったみたいです。ところでそのタオルをお借りしても良いですか?」

「…お使いください。」

家政婦長が中庭で理由もなくタオルを持っているはずが無い。どこかで見ていて、駆けつけて来てくれたのだろう。ディナさんに昨日の彼女の印象を聞いたところクレバーだと言っていた。だから、この稚拙なイタズラが彼女の指示とは考えにくい。

とは言え私の反応には関心はあるらしい。私の出方を待っているように見える。

「昨日は本をありがとうございました。」体を拭きながら、お礼を言う。

「いえ、私は頼まれて選んだだけですので。彼女は私からだと?」

「ディアナさんはとても優秀ですけれど、つてもなくあのような物は用意できません。だから、アニーさんにお願いしたのだな、と思いまして。」

タオルは適度な温かさかありフワッフワだ。シャルさんやディナさんも時々やってくれていたけど、これはメイドさん特有の家事魔法。マリちゃんが何度かトライしたけれど、中々力加減が難しいそうだ。


返答が無かったので不思議に思ってアニーさんを見ると、ただ黙ってこちらを見ている。あ、もしかして、

「すみません。お引止めしていましたね。タオルはディナさん経由でお返ししてもよろしいですか?」

メイドさんの方から去るのは失礼だからダメなのかも。

「お気遣いありがとうございます。」

びしっと頭を下げられて困ってしまう。

「すみません。では部屋に戻りますので失礼致します。」

ぺこりと曖昧に頭を下げて脱出してしまった。これこそ失礼だっただろう。



えいこが去った後、アニーは溜息を漏らした。

「侍女どころかメイドのイロハも知らない。けれど使用人には敬称をつけて呼ぶなんて。キュラス様も血は争えぬか。」

感慨にふけるほど暇ではない。すぐにアニーは中庭にも警備兵を回すよう進言に向かった。



その日の夕食時に犯人がまた現れた。

と言うか、私に配膳するメイドさんだった。濃緑色の長い髪が決めてになった訳ではない。確かに他にかな髪色の人はいなさそうだったし、長さも十分だし。けれど、私を見て子鹿のようにプルプル震えながら涙目で配膳してきたその態度が犯人だと自白していた。スープが出された時なんて、ちらっと見ただけで手がブルブル震えていてこぼすかと思ったくらい。


まぁ、そのスープにも毛束が入ってた訳ですが。

パンは相変わらずガチガチで、メイン料理は待たされて待たされて、冷めて出てきた。そしてデザートはアイスクリームだった液体。ほんと勿体ない。


念のためメイドさんに変装出来るようにしておきたいから、またまたサタナさんに連絡だ。ディナさんにお願いして手紙を書いてもらう。そうそう、パンに合うジャムも追加で記入。


次の日の昼食後にキュラスに手紙を渡す。スッと壁際に控えていたボブカットのメイドさんが部屋を出て行き、ちょっとしてからゾイ将軍が現れた。


「昨日、今日と連日男と手紙のやり取りとは感心致しかねる。拙者も中を確認させてもらおう。」



そんな、、、



リアルで拙者って初めて聞いたよ!


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