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大団円エンディングの作り方  作者: 吉瀬
第5章 水星の章
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64 お試しください

カナトの気配が無くなると、サタナさんたちがようやく現れた。

「どや、ディナはんの服、ええ感じやろ?」

確かに、オフィスカジュアル中世版のようなさり気なさと清潔感があり、ディナさんにもよく似合っている。でもね、

「サタナさん、あとで二人きりでゆっくりお話しましょうね?」

にっこりと説明を求めておいた。


サタナさんの笑顔が一瞬張り付き、ジェード君が「OHANASHIってやつですか?!」と興奮ぎみだ。なんか発音おかしくない?


取り敢えずその問題は一旦置いて、先にキュラスへの謁見伺いの手続きに向かった。

お忙しい王子様ですからね、明日以降いつでもいいから宿泊先に連絡ちょうだい、と申し込んだ。シーマは来てないよ、侍女だけよ、ごめんね。をシーマっぽく慇懃な文体でしたためた手紙を添える事も忘れない。


サタナさんがいたので申込みもスムーズだ。一般陳情に紛れ込んだら末端の担当者に読んで貰えるまででも半月はかかるだろう。


私とサタナさんが手続き中、ジェード君とディナさんがコソコソ話していた。あの2人、なんかどんどん仲良くなってない?漏れ聞こえた『肉体言語』なる単語から類推するに、2人とも魔力の鍛錬が共通の趣味なのかもしれない。そこにはまだ混ざれないから、ちょっと寂しい。


申込みを済ませると、早急にすべき事は済んだと言える。

城を出て「よっしゃ、情報収集に行こか〜。」と言うサタナさんの襟首をむんずと掴んだ。

「サタナさん?」

「…ほな、ジェードとディナはん、頼みます〜。」

「すみません、ジェード君、ディナさん、少し二人で話したい事があるので、そちらはお願いします。」

「承知いたしました。」「じゃ、行ってくるね!」

サタナさんをちょっと憐れむ視線を送りながら、異口同音に返事をして2人は街に消えた。

「どや、俺のナイスアドリブでディナはんも行ってくれたやろ?」

ウインクするサタナさんをジト目で睨む。そんな意図があったとは思えないんですけど。するとサタナさんは、

「いややなぁ、

可愛いお顔が台無しやで?」


と、するりと手が腰に回し、髪に(多分)キスした。演技の方だ。仕事に真面目なのか不真面目なのかほんと判んないけど、文句言ってやろうと言う毒気は抜かれる。


「宿の方が人に聞かれないですよね。戻りましょう。」

宿の部屋は基本滞在期間中は結界を張っている。秘密の話をするなら、宿が一番マシだ。

「…あー、うん。せやな。」

サタナさんの声がいきなりトーンダウンした。そして、若干挙動不審。

「どうかされましたか?」

周辺視野を駆使して周りを探ると、視線を感じた。

「いやぁ、嬉しすぎて天にも昇るかもしれへんなぁ?みたいな。」


なるほどね。

「サタナさんは私の大切な方ですから、何かあればわたくしも後を追いますっ!」

精一杯悲しそうに演技。

サタナさんは「おーきに。」と一言返したきりだった。


宿の部屋に戻ると、彼はゴロゴロ転がって爆笑した。

「ちょお、あれは無いわ!ひーくるしー。」


いやいや、むしろあんな時なのに笑いを堪えて「おーきに。」と返すのが精一杯ってどうなの?

だいたい、見た目演技完璧なのに、相変わらず声はダメダメで、『おーきに。』の一言さえ震えていたし。


「では、カナトという人と私の関係について教えてもらいましょうか?!さっきもその人に殺気かなにか飛ばされてたんでしょう?」

さっき周辺視野に捉えた恨みがましい男の姿は、カナトだった。


「殺気っちゃうか、魔法錬成済みやったで。えいこサンの機転無かったらられとったかも。いや、あれはあれで死にそーなってるけど。ぶはっ。」

なん笑いの沸点低い男だ。


「私がこの世界に来た時、初めに私を拾ったのが彼なんですね?」

「多分な。」

ひいひい笑いながらも、サタナさんは答えた。

「多分?」

「あの時、俺は来訪者は全員回収って命が下っとってん。で、その日は偶然空から降ってくるえいこサンを見かけてな。えいこサンの落ちた所に向かっとったらカナト様が落下点からこっちに駆けてきとったし、えいこサンの回収邪魔された無いなー思て、保護しとったジェードに結晶もたせてカナト様の進路に蹴り出したってん。」

サタナさんはまだ笑っている。

「笑い事じゃないでしょ。」

「そーか?まぁ、少し離れて使令にえいこサン回収に向かわせて戻ったら、ジェード殺されかけとったけどな。」

ため息をついて、コップに水を汲んで渡してあげた。

「おおきに。」

水を飲み干したサタナさんは、ふぅと一息ついた。

「どや、幻滅したか?」

「いいえ。」


笑ったまま、コレを報告したかった訳ね。心優しい暗殺者は自分が非道を働いてしまった自覚があるらしい。多分、ジェード君が危なくなったのは予定外だったろうけれど。

秋穂の生徒にもいたな、いたずらしておいてわざわざ笑いながら報告してくる子。

サタナさんにとって私は『試し行動』される程の間柄には昇格したらしい。

試し行動なら正しい返答を私は知っている。

しかし、私の知っている『正解』は出来れば口に出したくない。男女間で後から「そんなつもりは無かったの。」はズルい以外の何者でもないから避けたい。


「ジェード君をちゃんと助けてくれてありがとうございました。」

それとなく、論点をズラしてみる。

「…なんや、気に入らへんならズバッと言うてや。」

痴話喧嘩っぽくなった、やっぱり試し行動、ね。


仕方ない、腹を括ろう。いくらこっちの人達が異様に惚れっぽい状態とはいえ、私自体は地味なモブ子だ。

どうか、誤解が起きませんように。

自分のために、いるんだか分からない神様に祈る。


「…、サタナさん、私に嫌われたかったんですか?残念でしたね。私はサタナさん好きですよ。」

ちょっと反応を見るのが怖くて、彼の顔は見れない。


「もちろん、友人としてですけど。まだサタナさんの事知ってる事は多くありません。でも、サタナさんはいつも、最善の方法をとってると思います。だから、あの時もそうだったんでしょう。」

ようやく勇気を出してサタナさんを見やると、ニヤッと笑われた。

「恐れ入ったわ。」

んん?

「信頼してくれとんねんな。」

そして、いつものウインクをされた。


これは、いい感じじゃない?誤解されずにちゃんと伝わった感じ?いやっほぃ。


ほっとしたその時、部屋のドアの隙間から手紙が差し込まれた。




彼女が抱えているものは何だ?

彼女から信頼されていない訳ではない。しかし、彼女は何かを隠している。

秘密の多く幼い主人の性格を測るため、と言う理由をつけて彼女を困らせるようにあの日の事を報告した。


叱るか、哀しむか、はたまた包むように諭すか。

『自分を信頼している』『自分を好いている。』という反応は予想の範疇だった。しかし、彼女は痛みを耐えるような顔だった。

以前から感じていたが、彼女にとって色恋沙汰は全て苦痛を感じるものなのかもしれない。

そして、彼女はそれを侵してでも、自分を使って何かをしなければならないらしい。

「恐れ入ったわ。」

女を慰める事はいとも容易い。けれど、彼女にはその方法は出来ない。彼女の子も慰めるためだけに彼女を落とす事は認めないだろう。俺は、友人として誰かを癒す方法なんて知らない。

せめて、彼女の言葉から恋愛的な意味を取り除くような返事をしてみせた。

やはり、彼女は安堵した表情になった。

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