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大団円エンディングの作り方  作者: 吉瀬
第5章 水星の章
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63 あっという間に光の国の王都

翌日から5日をかけて、光の国の王都に向かった。休憩もしっかりとりつつ行ったにも関わらず、乗馬って凄いね。ナイロに着いた日も若干筋肉痛はあったけど、今回は尻がー尻がーである。この旅でかなり鍛えられたよ、私の尻と内腿うちもも


馬に乗りながら、光の国の常識をサタナさんから教えてもらった。天然ジェード君にディナさんがツッコミ、「俺、ディナはん一緒やったら楽やわー」と言うサタナさんもボケようもするので馬に乗っている時間自体は楽しかった。


新しい街に着く度、街並みは徐々に変わっていった。闇の国は各街が画一的に整備されていたのに対して、光の国は旧市街地と新市街地が併わさったものが多く、更に王都に近い街は遺跡に隣接していたり、むしろ町のど真ん中に遺跡があったりする。街中を川が流れていたり、丘があったりする街もあって、防災面ではマイナスかもしれないが、個人的には好ましい。


闇の国では街は大体、端から端まで碁盤の目や放射状に道路がびしっと整備されていた。敵が攻めてきた時、門を突破されたら城までどうぞ!と言わんばかりの街並み、そして街全体がほぼ平地っていうのは、どうしても作り物っぽい違和感あったから、こちらの自然な街並みに、コレだよね感が止まらない。


遺跡は信仰の対象でもあるそうだ。闇の国にいた時は特定の物質や偶像崇拝のようなものも無かったので、興味深いし、こんな諸々の説明が的確なサタナさんはガイドさんとしても優秀だと思う。

そうやって街を渡り歩くだけで充分満足な観光ができた。


途中お世話になった宿はサタナさんチョイスのせいかあまり国による違いは感じなかった。シャワーは魔力の結晶も聖力の結晶と同じように使えた。例の小説も置いてあった。


違うと感じた事と言えば、私の黒髪よりディナさんの方が注目を集めたくらい?後、サタナさんとの良い仲だという噂はしっかり届いていた。サタナさんが有名人過ぎてビビる。


王都の門はサタナさんの通行許可証で通った。街の入り口から騒ぎになったら大変なのと、宿に落ち着いて私達の服も整えてからにしましょうとディナさんが主張した。確かにギャル服で王太子様に突撃はできない。

キュラスはすでに王太子として立ったそうだが、式典は内々に行われ、お披露目は喪が明けてからだそうだ。


宿に荷物を置いたら、早速服を手に入れに行く。

私はサタナさんの見立てで、光の国の標準的な服と謁見用の服を決め、店で標準的な服にちゃちゃっと着替えた。サタナさんとジェード君の服も困らない。問題はディナさんだ。

「目立ちたくないならこっちだろ!」

「こちらの方が地味ですわよ!」

「お客様にはこちらがお似合いですよ。」

ディナさんは目立ちたくないから、地味な服を選ぶ。しかし、元が良すぎて違和感が凄い事になっている。誰が見ても、『もうちょっと他の服着ればいいのに、何であえてそれ?』と思う出来上がり。美少女がおばあちゃんの服を着ているような状態はかなり目立つ。


ジェード君が勧める服は、女子力高めの正統派可愛い服。光の国で二十歳前後の子がよく着ている流行りの服だ。日本でもそうだけど、雑誌に載っている誰でも可愛くなれる服は本当に可愛い子が着ると、大変見栄えする。モデルさんのようだ。

当然目立つけど、そもそも目立たないのは難しい容姿なんだから仕方ない。

私は、ディナさんの気持ちもわかるけど、ジェード君の見立ての方が正しいと思う。


ついでに店員さんが勧めている服は、日本でいう原宿系。詳細は省く。


ぎゃーぴこ、ぎゃーぴこやってるのを尻目に折衷案となりうる服を選ぶサタナさんの袖を引っ張る。

「店の前の遺跡見てきても良いですか?」

店に入る前にチラッと見た時、遺跡に何か光るものが見えた。ゲームだと、何かしらのアイテムをゲットできるフラグではないですか。

多分、ここの争いは最終的にサタナさんの見立てが勝つだろうし、ちょっと行って、さっと確認したくなった。

「…使令つけるから、必要になったら名を呼べ。」

小さく呟いてから、「ちょっとだけやで、知らん人についてったらあかんでー。」と言った。


「え、あ、えいこ様お一人でなんて!私も行きます!」

「ディナはんは、こっち試してみてや。」

服を押し付けられたディナさんが言い返そうとする前に、

「困ったら大声で呼ぶんやで。」と言って、サタナさんは私の髪にキスした。もちろん演技の方。


私が『一人で動きたい。』のだと理解したようだ。ついでに他の客と店員に『俺のものアピール』。

ディナさんは真っ赤になって試着室にこもったし、他の客はいい感じにヒソヒソ。

今回は絶対一人って訳ではなかったけどね。まだ、阿吽の呼吸には時間がかかるわな。


店を出て足元を見ると、自分の影が少し大きかった。比較してわかる程度で不自然じゃないけど、多分指令はココに隠れているっぽい。


遺跡は橋というか、柱というか、うーん、修学旅行で見た南禅寺の水道橋が朽ちたようなものだ。橋の片方が崩れて店の前にあるが、もう片方は電車のガード下のような使われ方をしている。崩れそうで怖くないのかなと思ったけど、きっと魔法で何とかしてるんでしょう、と信じる。

さて、早速落ちている光る何かを取ってやろうと思って、気づいた。

コレって遺跡荒らし?墓泥棒?

ゲーム内では結構ズカズカ勝手に入って勝手に奪っていったけど、日本じゃ完全にアウトだ。

確認するだけならオッケー?それとも立ち入りからアウト?

うむうむ悩んでいたら、声がかかった。

「王都は初めてですか?」

はい。と答えて聞き覚えがある声だと気づいた。

振り返って、思考が一瞬停止した。

「それとも、この国が初めてですか?」



カナト、ゲーム攻略対象で女神の絶対なる下僕。

この国での身分は高く、女神以外の物に価値を認めてないアブナイ御仁だ。

「遺跡をこんな近くで見るのが初めてで。」

しどろもどろに言い訳した。もしかして女神様の関連施設?

見学もアウト?このまま連行、投獄ですか?


「そうですか。ここは堅固の魔法がかかっていないので、近くでご覧になりたいのでしたらサポートいたします。」

彼は優雅にフワッと手を動かした。多分その堅固なる魔法をかけてくれたっぽい。とりあえず、捕まえる気は無い?

そもそも嫌にフレンドリーだ。おかしい。月子ちゃんにさえ初めは辛辣だったはず。

怪訝な顔をしてしまったのか、はっとした顔をした後目が少し伏せられた。

「申し遅れました。私は貴女様の忠実な下僕、カナトと申します。本来は叩頭すべきことは理解しておりますが、ここで目立つ事は貴女様の不利益になりますれば、後ほど罰をお与えください。」


はぁっ?なんでこの人私を女神だと思ってるの?!


懐の上、マリちゃんに手を当てると『NO』の合図。

明らかな魔法や感知は受けてないと知らせてくれる。


「もしかして、わたくしめを覚えてらっしゃいますか?いえ、そのような事はあるはずが…。」


頭の中でタービンがビュンビュン回る。

私が光の国の人と会った事は?披露宴にカナトは来ていない。その前は?


『盗聴が一つと、聖の力が少し。盗聴は魔の香りがしたのでサタナ殿でしょうね。聖の力はどこで付いたのでしょうか。まぁ、害のある感じではありませんでしたよ。』


ウランさんの声が蘇る。てことはその前か、じゃあ、

「荒野の地」

と呟くと、カナトは膝を折った。慌てて私もしゃがむ。

「まさか、意識を手放してらっしゃったのに?そんな。」

恍惚状態の彼の手を引っ張る。

「目立ちたく無いんです〜。立ってください〜。」


ビシッと今度は直立した。ちょっと面白い。いやいや。

「すみません。貴方の言葉から類推しただけです。それから、私は女神様ではありませんから。」

「貴女様は大変聡明でらっしゃるんですね。」

うん、そうじゃなくてね?

「私は闇の国の魔女シーマ様の侍女をしておりました、来訪者のえいこと申します。女神様なんて畏れ多い事です。」

はっきりきっぱりビシッと言った。

カナトはキョトンとした後、優しく微笑んだ。

「私は、我が唯一の神であると口にしておりませんが、貴女にはそうだとわかったのでしょう?」


しまったぁぁあぁー!


「しかし、表に出したくないご事情がおありのようなので、そのようにいたします。」


ううむ。誤解を解きたいけど、今は時間が無いしなぁ。それに、この人光の国でかなり高い身分だったはず。勘違いを利用したらカナの祠に行けるかもという悪魔の囁きも聞こえる。。。

いや、『やっぱり嘘でした。』てな事がバレたら瞬殺されるな。


ニコニコしているカナトを前に考えあぐねていたら、

「え、えいこ様、お、お待たせいたしました!」

はふはふ言いながらディナさんが現れた。全速力の彼女は速さは私にとって、シュバっと忍者が現れたレベルだ。

「…、えいこ様の付き人ですか?えいこ様を一人にしてまで何をされていた?」

カナトの声が抑えきれない冷たさを発している。ヤバス。

「違います。彼女は私の大切な友人です。みんなで買い物していた途中なのに、私が一人でこの遺跡を見たいからとワガママ言ったから、慌てて用事を済ませて来てくれたんです。」

ディナさんをぎゅっと抱き寄せて、『ディナさんに手ぇだすなよ、がるる』とカナトを目で威嚇した。

ディナさんは「まぁ、えいこ様ったら。」と、なんか喜んでいる。

「それは大変失礼な物言いをしてしまいました。申し訳ありません。」

カナトの剣呑な空気は霧散し、優しく優雅にディナさんに礼を取った。あの手の甲ににキスの真似をするやつだ。

「私はカナトと申します。お見知り置きください。この国では多少の地位がありますので、ご不自由がありますれば何なりと。」

「ディアナと申します。私は無位の者なので、そのような…」

「いえ、我が君のご友人なれば。」

「我が君?」

「いやいやいや、カナトさん!勘違いですから!またお話する機会がありますので、取り敢えず今日はお引き取りください!」


カナトは突然捨て犬みたいな表情になった。

「お側に控えることは叶わないのですか?」

「今は困ります。後日、必ずお会いしますので!」

十中八九、むしろ十中十でえいこを感知したいとキュラスが言った理由はコイツだろう。みんなの前で堂々と感知してもらえば誤解は解ける、、、と期待だ。


「せめて忠誠を誓う事も?」

「ダメです。」

グイグイ向こうに押しながら、「それではごきげんよう!」と言ってなんとか追い返した。

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