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大団円エンディングの作り方  作者: 吉瀬
第4章 土星の章
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58 サタナさんの本気

「本日は誠にありがとうございましたー。では、また明日!」

深々と頭を下げて、ちゃちゃっと個室に引きこもる。


「いや、風呂も入らんと寝る方が…」

忘れらんようなるで?という、サタナの声は届かなかった。



半日だ。半日でイケメン耐性がレベル7になってしまった!

とりあえず既に寝てしまったマリちゃんを専用のお布団に寝かせて、自分は乱暴に布団に潜り込む。そして、頭の上に枕を乗せる。

大体、前聖女一筋で生きてきた設定のハズでしょ?!一体どこであんな技を習得してきたのよ?!

アサシン養成所ではナニ教えてんの!

てか、テキスト持ってアレを学んでたなら引くわ!


ぐぬぬと、持て余したストレスをベッドにグーで叩きつけるが、魔力だけでなく体力も無いから、ぽしゅんという気の抜ける音がするだけだった。



カフェで突然抱きすくめられた時はかなりビビった。プロのアサシンであるサタナさんの心の壁を崩すために、初恋かつ失恋の話題で動揺を誘うなんて自分でもゲスいことをした自覚はある。

ついでに相手の罪悪感まで利用した。最低だ。

最低だけど、自己嫌悪それよりもソレを悟られないようにする事の方が遥かに心を占めたもんだから、バレたかと思って飛び上がらんほどに驚いてしまった。


結果、多分バレていない。しかし、何かしらのスイッチを押してしまった。


「前に、えいこサン惚れた言うたやろ?あれ、嘘な。」

「え、あ、はい。」

嘘っていうか、冗談よね?

「後、シーマ様の容姿褒めたんも。ほんまはちょお怖って思てた。」

でしょうね。

「けど、今は『やられた』思てん。せやから、本気出すわ。あんたの信頼は欲しい。」


ぐいっと顎を持ってこちらに向かせられた。

「俺、本気であんたに仕えるから。」

顔がっ!近いです!

えっと、取引所の入り口、見えませんよー


すぐにぱっと離されて、「とりあえず、ラブラブな噂になるよう頑張るでぇー。」とひらひら手を振られた。笑顔で。

嫌な予感。


まずは、外食中は自分の分は自分の手を使わないというルールが敷かれた。

「はい、あーん。どや?」

「お、おいしいです。」

私、涙目。流石に味は分かるけど、料理を楽しむ余裕はない。

「あ、それ食わせて。」

「これですか?」

チーズクリームのサンドイッチを摘んで食べさせる。と、私の手を取り、指についたクリームが舐め取られた。

!!!!

「ん?自分の口に指運ぶ事ないから間接キスにはならへんで?」

そーいう問題?

「あの、あんまりこういうのは、、集中力が切れてセレスの捜索に支障が出てますし…。」

「取引所に売りに来る奴は一通り出てったで。そいつ、売り専やろ?次に情報が集まるところやったら酒場やけど、えいこサン連れて行くんは浮きすぎるからオススメでけへん。とりあえず、ラブラブの噂流すのにメインにしながら、ついでに探すんがええんとちゃうか?どっちにしても、コレ全部食うてからやな。」

そうですね。しかし、

「私がサタナさんにメロメロ設定なんですけど…。」

「昨日のアレで、俺のタガが外れたって事でええやん。」

そうですね。しかし、

「実はこういうやり取りが苦手なので…」

「せやけど、そういう設定なんやし慣れるよう練習せなあかんのとちゃう?また、外出る時は同じ設定使うんやろ?」

「でも、恥ずかし「迫真の演技が出来てええな。」」

ソウデスネ。


全てを打ち返されて灰になりそうになっていると、

「あ、あのっ。」

目の前にフルフルと震えながら、涙目のご婦人が立った。朝、私達を見て泣きながら走って行った人だ。

「サ、サタナさまはっ、この方のことが?」

この状況で声を掛ける気概に惜しみない拍手を贈りたい。


「あー、あんた誰かしらんけど、俺、お楽しみ中なんやけど?」

言いながら、サタナさんの右手が私の胸元の膨らみに、左手が太ももに伸び、首に何かが当たる。

胸元はマリちゃんのベッドだし、左手は伸びただけだ。触れてない。

うわぁーん。と漫画みたいな泣き声を上げてご婦人は去って行った。合掌。


「一応 性感帯リンパ避けたけど、平気へっきやったか?」

どうやら首ちゅーのフリか何かされたらしい。本当に何も感じなかった。

「大丈夫でした。」

「ん、せやったら、何かあったら首と、多分髪もイケるな。そこ、使わせてもらうわ。」

何に?!

「怖い目には合わさへんし、大丈夫やで。」

だいじょばない。

「先程の方は?」

「ええとこの奥さんが集まるサロンで見かけた事あるし、ええ感じに噂広まりそうやなー。」

「お得意様減っちゃいますか?ごめんなさい。」

「ええねん。俺の手腕、舐めたらあかんわ。」

そう聴こえて後頭部の辺りに何かが触れた。

ちゅっと小さい音がして、ストーンえいこになる。

ソレ今必要デシタデショウカ?


始終そんな感じ。ラブホにも誘われたけど、中で演技の声は出せそうに無いのでと断ったら、裏路地で絡みシーン開始。サタナさんは熱い視線で迫真の演技だけれど、耳元で囁かれている内容は新人AV女優にダメ出しする監督状態。喘ぎ声なんて、演技で出せるか。

思わず、きっと睨んで威嚇したら

「…えいこサン、何やったらホンマに惚れてくれてもええんやで?」

ちゅっと髪にキスされた。ゾクゾクするやつを。


テテレテッテレー。

えいこはイケメン耐性がレベル7になりました。


ごめんなさいごめんなさい、もうしません。許してください。


あれ、私の方が仮初めだけど主人よね?



夕食を済まして這々《ほうほう》のていで部屋に戻りましたとさ。


しばらくして、ディナさんも帰ってきた。

「ジェードさんは多少挙動不審でしたが、街の男性方も同様の反応を見せていましたので、普通、なのかもしれません。は、もしや何か流行りのご病気かも?!」

ちょっと心配そうに報告された。サタナさんの手でアサシンの卵にはされちゃったけど、予想通り本人が何か企んでいるわけでは無いのだろう。そして、彼はまだ女性への技は習得してまい。


ディナさんも彼を心配する、と言うことは悪感情は抱かなかったはずだ。


しかし、彼女が美少女バージョンの時は天然200%マシマシになるみたい。脳筋って聞いたことあるけど、筋肉無い方がボケボケってなんだろう?ヒロイン補正?ジェード君は役得だったけど、違う意味で可哀想だったかも。明日を楽しみにしよう。

自分の身については考えないようにして、ディナさんとお喋りしていたら案外すんなり眠れた。





すーすーという二つの寝息を確認して、そっと布団を抜け出す。ドアを開けるとお目当ての人はそこに座っていた。良かった、どうやって呼び出そうかと思ってたんだ。


「こないな夜中にどしたんや?マリちゃん。」

こちらを一切見ずに書類を見ていたサタナ様が、的確に僕に呼びかけた。この闇に何匹使令を放っているんだろう。同時にこれだけ操って、まだ普通の魔人以上の魔力を操るなんて計り知れない。

『ママに中途半端に手を出さないで。』


サタナ様は、驚いた顔でこちらを見た。

『僕には時間が無いんだ。ママを一番に大事にしてくれる強い人に、僕がいなくなった後のママの事頼まないとダメなんだ。』

師匠ウランさまはダメ。ママより大事なお仕事がある。テルラ様はママを間違って攻撃した事があるし妙に頼りない。サタナ様は、知ってる中でこの先多分一番強い。

『ママを一番に出来ないなら、ママに好きになれみたいなこと言わないで。ママは、』

僕はママの本心を知っている。僕だけしか知らない。

『とても弱い人だから。たぶらかさないであげて。』


サタナ様は何も言わない。

『でも、もし、ママの事一番に出来そうなら、僕協力する。愛の証、捧げるくらいの覚悟出来たら、だけど。』ほんとは、僕がずっと守りたい。でも、出来ないから。


最後は気持ちが震えて、上手く魔力が言葉にならなかったかもしれない。一世一代の覚悟でぎっと見据えると、サタナ様は僕をひょいと持ち上げて机にのせた。

「それは、でけへん。俺は前の聖女、ひなた様に捧げてしもたからな。えいこサンに捧げたくても捧げられへんねん。」

びっくりして目玉が落ちるかと思った。

『え?でも、前の聖女は魔王様と?』

「せやな。俺も若かってん。手に入らへん相手でも捧げたい、捧げなあかんって思い込んでな、相手に確認もとらずに渡してしもた。めっちゃ怒られたわ。」


目を細めるサタナ様は意懐かしそうに微笑んでいた。

「えいこサンのことは、正直俺もどう思とるか分からん。好きか聞かれたら好きやけど、ひー様に感じたのとはちょっと違う。こうやって直談判に来るマリちゃんも『好き』やしな。ただ、」

手元の書類を見せた。

「文字、読めるか?」

『読めるよ。』

内容を見て今度こそ本当に目玉が落っこちたと思った。

「マリちゃんの後は俺がえいこサン引き受ける。」

真面目な告白に心臓がどきりとする。

「さっき話したんは、俺のご主人様と陛下しか知らんねん。だから、他の奴には内緒な?それと、」

コクコク頷くとサタナ様は声をひそめた。

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