49 指輪みたいなハンコと白身魚のフライ
次の日に買ってきたものと、部屋にある便利そうな物や念のための物をカバンに詰めた。出発は明日朝で、馬車でなく馬で行く。ナイロは単騎がけで真っ直ぐ行くなら1日で着くが、間にニアメとボツワに寄るし、私は一人で馬にも乗れないので途中の街で一泊する。
ナイロのお祭りは1ヶ月かけて行われていて、メインのパレードがあるのは五日後だ。それが済んだら城に帰るので、それまでにセレスに接触出来たら上出来。ダメでもまた来る理由を作らなくてはならない。あんまり無茶すると、ディナさんから報告が行って気軽に外出出来なくなるかもしれないから、慎重に行かないと。けれど、アレとタイミングが合うかもしれないし、、。
「えいこサン、いるかー?」
考えごとをしながら、持ち物チェックをしていたら、なんとサンサンがやって来た。
どうぞ、と言うと、のっしのっし部屋に入ってくる。昼間に私の部屋に来るのは珍しい。何だかんだと仕事をしている事が多いのに。
「明日から、旅行だってな!良いもの持ってきたぞ!」
差し出された手にはちょこんと指輪のような輪っかが乗っている。
「ありがとう。これなぁに?」
つまんでよく見ると、指輪にしては何だかゴツくて、ぐるっと一周模様が彫られている。
「ハンコだ。郵便で手紙とか荷物とか送る時にインクをつけてぐるっと押すと、城に着払いで届けてくれるんだぞ。」
「わぁ、郵便あるんだ!」
「うん。記念に自分に送ってもいいし、荷物増えたら袋か箱かに入れて送れば良いよ。たまーに着かない事があるから貴重品は送るなよ。」
「うん、分かった。お土産買いすぎたら使うよ!何か希望の物ある?」
「そうだなぁ、土産話が良いなぁ。」
「土産話は送れないねぇ。」
がはは、と笑った後サンサンは頭をポンポンと叩いた。
「…、すぐ帰って来ると思うけど、万一があるからな。光の国からでも送れるから困ったらコレで連絡くれな。」
「そっか、じゃあお守りだね。ありがとう。」
「うんうん、研究所も再開したから帰ってきたらまた手伝ってくれな。」
「了解!」
明日は朝ごはんの前に出るし、今日の晩御飯はサンサンの仕事の都合によっては会えない事もあるから、わざわざ部屋に来てくれたのだろう。
忘れ物しないようにな!と念押ししてからサンサンはまた仕事に戻って行った。
ふむ、と考えて昨日の茶葉とお菓子の包みを掴んで部屋を出た。
「えいこ様!いかがされましたか?鈴でお呼び頂ければ参りましたのに!」
シャルさんの部屋をノックすると慌てて飛び出て来た。流石私の半分所有者。名乗らなくとも分かるらしい。
「昨日のお土産渡しに来たんです。お仕事中でしたか?」
「ありがとうございます!仕事なんて、もう、そんな!あ、ちょっとお待ちください。」
部屋に引っ込んだと思ったら、どざーん。ずがーん。という慌ただしい音がした。
「はぁはぁはぁ、散らかっておりますが、どうぞお入りください。」
「ありがとう。じゃあ、遠慮なくお邪魔します。」
初めて入ったシャルさんの部屋は、内装はシンプルで一回り小さいけれど私の部屋と作りは変わらなさそう。
と言うことは、あの音は全てをバスルームに掘り込んだ音だな。
お土産のお菓子を渡すと、好きなお菓子です!とルンルンお茶を淹れてくれた。お待たせですが、と振舞ってくれたので私も頂く。味見してたけど、やっぱり美味しい。
「三人で行けたら良かったんですけど、ウランさんを一人にはできないですしね。お土産何か希望の物ありますか?」
シャルさんは「えいこ様っ!」とウルッとしている。
「王都のお祭りは早春にありますので、その時はご一緒致します!」
思い余って両手を握られた。
「お祭りは年に一回だけなんですか?」
「そうですね。各町毎に時期は違いますけど、年一回ずつ開催です。町によって特色があるんですよ!ナイロは楽しくワイワイとしたお祭りで、民衆で作り上げていくお祭りだそうです。特に屋台が…」
シャルさんから美味しい食べ物情報をゲットしました。お土産は日持ちする焼き菓子か何かにしよう。
「ところで、ウランさんにも昨日のお土産を渡したいのですが、今日渡せるタイミングってありますか?」
研究所が再開したそうだから忙しくしてるのだろうし、時間が無さそうならシャルさんに預けよう。
「えーっと、今日は夕方から時間があったはずです。それまでは外出されているので、戻られたらえいこ様にお声をお掛けしましょうか?」
「お願いします。」
うん、やっぱり忙しそうだから茶葉渡すだけ渡したらさっさと退散しよう。
シャルさんの仕事もこれ以上お邪魔するわけには行かないので、お暇する。
部屋に戻る途中、窓から大地くんがいるのが見えた。時間もちょうどお昼前だったから、食堂に行って今日のお昼ご飯を包んでもらう。冷たい飲み物も持って、野外鍛錬場へ急いだ。
こちらに気付くまでは静かに見守る。私には大地くんはほとんど何もしていないように見えるけど、足元の砂が不自然に舞っているから魔力で何かしているようだ。
「ん、あぁ。いつから見てたんだよ?声掛けてくれりゃ良かったのに。」
タオルがふわっと大地くんに引き寄せられて、汗を拭いながら微笑まれた。なんて爽やかなんだ。
「お昼持ってきたよ。キリが良かったら一緒に食べない?」
少し驚いた顔がほころんだ。
「サンキュ。」大地くんは渡したお弁当を受け取って木の陰に座った。促されて隣に座る。
運動後なのに汗臭くなくて何となく良い香りがする。二次元チートは三次元でも隙がない。別に臭くなくても良いから何となく残念な気持ちになる香りなら良いのに。唐揚げ臭とか。
「外で食べると気持ちいいねぇ。」
日向は暑いけど日陰は快適な温度だ。
「今、これで夏なんだぜ。快適だろ?その分冬が厳しいかと言うとそうでもないんだよ。」
「そうなんだ。日本でもこのくらいならいいのにね。」
「日本か、、、。」
大地くんはまだまだ絶賛悩み中だ。ウェルテルだって悩みすぎて死んじゃうんだぞ。恋心でだけど。話題を変える。
「さっき、魔法の訓練してたの?私は何も見えないけど、砂が踊ってた。」
「あぁ、あれか。魔力を練る練習してたんだ。」
「魔法は身体を鍛えたらブレーキ力も上がるんでしょう?イメージは筋トレだったよ。」
シャルさん達の見事な筋肉を思い出す。
「筋トレも大事だけどな、うーん。どっちかって言うと格闘技の強さみたいなもんかな。筋肉あった方が強いけど、合気道みたいに上手く力を操れればそれだけ強いし。ウランさんやモートンさんは技術的に上手くて、サンサンは肉体的な強さが際立ってる。」
大地くんは説明しながら白身魚のフライをパンに挟んでいる。タルタルソースもたっぷりだ。それ、いいね!真似っこしよう。
「そういう鍛え方とかって、誰かに教えてもらうの?」
タルタルソースが溢れないように慎重にっと。
「自分よりうまそうな人に教えてもらう事もあるけど、大体自己流じやねぇ?」
大きな口でパクリと食べた。指にちょっとついたのを舐めとっている。
「学校あるのに自己流の人が多いの?」
「普通の学校は一通りのやり方や魔法文字、後は5教科を教えてくれる所みたいだ。研究所付きの高等学校は初めからブレーキ力ある奴が行くからなぁ。そもそも、魔力の感じ方は人によるから、強い奴の具体的な鍛錬のやり方が自分に出来るかどうか分かんねぇし。」
「そうなの?!」
しまった、白身魚サンド大きくなりすぎてしまった。ちょっとみっともないけど無理やりかぶり付くと、あちこちにタルタルソースがついてしまった。
「下手くそ。」
ほっぺに付いたのを大地くんが指で拭ってくれて、そのまま食べやがった。
やると思ったさ、この歩くエロリズム。




