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大団円エンディングの作り方  作者: 吉瀬
第3章 悪の精霊
42/146

42 白雪姫の継母的魔女


「でっち上げる?」


「はい。最近降り立ったばかりの魔女がサンサンを救った事にします。魔女がいれば光の国の方々も安心されるでしょう?お披露目当日は私が化粧で魔女に化けますが、私自身えいこは魔女よりひと月ほど早くこちらに着いてしまった魔女の侍女の設定です。魔女にしては力が無さすぎだからと、2ヶ月かけてブレーキ力が身体に依存する『ただの来訪者』であること確認したとすれば、光の国への言い訳にもなるでしょう。」


私、器無しとして目立つの怖いんですよね。と困ったように呟いておく。


「して、魔女の務めはその後どうなさるのかの?」

「私と同時にこちらに飛ばされた友人がもうすぐ魔女か聖女として現れるはずです。彼女が現れたタイミングで、偽魔女は魔女不適格で帰郷したという流れにします。」

「ご友人が器無しの可能性はどうじゃ?」

「向こうの世界で器無しの兆候があったのは私だけだったので大丈夫です。」

モートンさんが、それなら良いのでは無いかの、とウランさんに水を向ける。

「化粧でそれほど変わるものですか?そもそも侍女が魔女でないと信じて貰えるかどうか。」

「今までは来訪者の女性は魔女や聖女であるとされていましたが、そうでもない女性がいる事自体は嘘じゃありません。実際、私は魔女ではないですから。もし光の国の方が納得されなければ、化粧をとって来訪者としてお会いします。」


化け具合は実際を見てみてください。と、にぱっと笑う。


依頼に来たのが、この2人でよかった。なぜこんな事をする必要性があるのかを追求されずに済む。モートンさんは私が顔バレしたくない理由があるのを察してくれるだろうし、ウランさんはなんだかんだで怖がる私を人目に触れさせる事は避けたいだろう。ウランさんの気持ちを利用するようで若干良心は痛むけれど。


化粧の出来はサンサンや大地君にも見てもらうという事になった。


「じゃあ、今から化ける準備しますね。」

「確か本日は陛下やテルラ殿も昼食を一緒に、という予定でしたね。モートン殿も如何ですか?」

「うむ、楽しみじゃ。」

おじーちゃん、楽しむ気満々。


部屋にドレッサーも化粧品もあるのは、すでに確認済みだ。高校生に化粧は不要かなと思って使ってないけれど、秋穂の時は半顔メイクも経験済みである。えいこも秋穂も同じ系統の顔でよかった。シャルさんたちに少し足りない物を用意してもらわないと。


そう思って、2人を送り出したらウランさんが戻ってきた。

「…身を慎まれるのは歓迎なのですが、何か危ない事をお考えではないですね?」

うっすらバレてる。


「危ない事するつもりは無いんですけど、何かあった時は動けるようにしておきたいです。」

あくまで保険のように伝える。

「あまり悩み事は増やさないで欲しいものです。」

一応納得した様子で仕事に戻るウランさんの背中に

その時が来たらごめんなさい。と無言で謝る。



さて、化粧だ化粧だ楽しいな。毎日しなきゃダメだった時は多少めんどくさかったけど、特別な日の化粧は楽しかった。しかも、今はお肌ピカピカの女子校生。るん。

不自然でない程度にインパクトのある顔を作っていく。えいこが普通の若者なので、イメージが被らないように大人っぽく妖艶な方向にする。白い肌、ワインレッドの唇。シャルさんにとって来てもらったテープ草で二重にする。髪はとりあえずの夜会巻き。


ウランさんにはああ言ったけど、えいこの方は今後の事を考えて光の国の偉いさんに晒したくない。

魔女のお披露目がメインになるのか、光の国との友好がメインになるのか分からないけれど、もしあの人が来るなら魔女も侍女も感知させろと言うだろう。その時の対応も考えておかないと。


はっと鏡を見たら、三白眼の紛う事なき魔女が出来上がっていた。綺麗っちゃ綺麗。美人っちゃ美人。でもこの顔好きな殿方はおらんだろうという冷たさ。しかし、


「はぅー。素敵です!えいこ様!」

「威風堂々とした風格が出てらっしゃいますわ!」

女子には人気でした。

異口同音に褒めそやすシャルさん達に、これに合う服を用意してきてもらう。シャルさんは部屋を飛び出して行った。


「そう言えば、髪の色や顔とか体型とか魔法でなんとかならないんですか?」

手の空いたディナさんに聞く。頑張ったけど、魔法でなんとかなるなら要らない努力だった。

「髪や身長を変えるのは難しいですね。そうなる過程をキチンと想像出来ないので、私は出来ません。ただ想像のつく、太るとか痩せるや多少老けると言うのは可能です。でも、コンスタントに魔力を使ってしまうので、全身やろうとするとそんなに長くは出来ませんけど。」


魔法でなんとかならないなら、頑張った甲斐があった。

シャルさんが持ってきた黒いドレスに袖を通し、ヒールを履く。背筋を伸ばして鏡で確認。うん、これでいい。


お昼までもう少し時間があるので、シャルさん達のお茶を楽しむ。お姫さまごっこというか、女王様ごっこの気分。問題はマリちゃんがバスルームに籠城している事。

私が近づくとダメなようなので、シャルさんとディナさんが懸命に説得している。その時、


「入るぞ。」

いつも通り大地君が返事も待たずに入ってきた。チャーンス。


「無礼者。婦女子の部屋にそのように入るとは、この国のナイトも知れておるな。」

座ったまま無表情に淡々とお茶をすすってみた。


刹那、目の前でバチっと言う音がする。

む、何か起きた?


「テルラ様、落ち着いてください!」

「何をなさいますの!」

慌ててバスルームから戻ってくるシャルさんとディナさん。


「お前ら?どう言う事だ?」

構えは解かずに大地君が問う。

「テルラ様こそ、いきなりコウソク魔法など!」


コウソク魔法?高速?拘束?もしやヤバかった感じ?


『ママ!』

バスルームにいたはずのマリちゃんが抱きついてくる。

『痛く無い?大丈夫?』くるくると私の体を確認する。

「マリちゃん、ママだって分かってるの?」

『ママの事が分からないなんて無いもん。でも、ママはふわふわ可愛いのが良いの!こんな悪者の格好はダメなの!』

そう言えば、よく読んであげた絵本の悪役にソックリだった。その抗議だったのか。

怪我は無いよー。と言う私の言葉を聞いて、大地君の顔が引きつり、構えていた手はプルプルしている。

「え、いこ、サン?!」


「まだまだよの。」

にっこり微笑んでやった。


保護魔法をかけ直してもらって食堂に行く。大地君は事情を知らされずに迎えに来させられたらしい。事情を知らない大地君はうっかり思い人を攻撃してしまったと。ちょっと不憫だ。


食堂の前で一旦立ち止まり手筈を整える。演出は大事よね。シャルさんとディナさんを両側に従えて、ドアを開け放つ。大地君が騙されたもんだから、私もノリノリだ。


「皆、揃っておるかえ?」


場は静まり返った。


以下、各々の反応。


「ほほう。これはこれは。」と喜ぶモートンさん。

無言で固まるウランさん。

青い顔で子鹿のようにプルプル震えるサンサン。


あれ?魔王様一番怯えてない?マリちゃんの反応と大差ないよ?


「えいこサンですか?」

念のための確認と言うより、信じられないと言った風でウランさんが聞く。

「いかにも。」笑いそうだけど、可能な限り冷たく返す。ジロリとみんなの顔を見る。

「わわわわわかったから、化粧とって欲しいな。。」

サンサン涙目でギブアップ。

「では、失礼して化粧を落とさせていただきますね。」

「うむ。」

予定通り、ディナさんが魔法で化粧をタオルに落とす。


「もう少し確認していただいても良かったんですけど。」

力作、というほどでも無いけれど開始五分も経たず落とされるとは思わなかった。

「充分!充分だったな!」

サンサンがぶるぶると顔を振る。

「化粧もじゃが、あの話し方や物腰じゃと、なかなかどうして別人じゃったの。」

モートンさんは髭を撫で付けて上機嫌だ。

「実力はよく分かりました。テルラ殿はいかがでしたか?」

『テルラ様はいきなりママを拘束しようとしたんだよ!』

「ほほぅ。なら、問題は無さそうですね。」

すかさずマリちゃんが告げ口する。ウランさん、マリちゃんを懐柔してないかい?

大地君はバツが悪そうにしながらも肯定を示す。


敵を騙すには味方から。これからは時々あの格好で城をウロつく事になった。しかも、サンサンが怖がるから黒のベール付きトークハット被って。


夜見かけたら、西洋のお化けだなこりゃ。


ムーンライトに39.5話大地×A子投稿しました。

最後までやっちゃうので、苦手な人はご注意下さい。

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