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大団円エンディングの作り方  作者: 吉瀬
第2章 太陽の章
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36 大地君と愉快な仲間達

 廊下から、「お待ちください!」とか、「もう少し!」とか、「なんなんだよ!」とか聞こえてくる。


 阿吽の呼吸でイヤーフックを外して、ウランさんに投げ、彼はそれをローブに隠した。

 二人で椅子に掛けたところで、「入るぞ」と、やはり返事を待たない大地君とシャルさん達が入ってきた。


「なんだ、ウランさんここにいたのか」

「婦女子の部屋に確認もなく入るのはいただけませんね」

「あぁ、わりぃ。次から気をつける」


 ホントか?


「陛下が呼んでた。研究所について相談あるみたいだ」

「分かりました」


 ウランさんは躊躇ためらいなく陛下の元へ向かう。


「えいこサン、話は聞いた。お手柄だったってな」


 こちらを向いた大地君に頭をくしゃっと撫でられた。その手は当然のように、私を抱き寄せて腕の中に閉じ込める。


「よく、無事でいてくれた」


 扉を閉めるウランさんと目があった、が、すぐ扉は閉められた。


「私は叩き起こしただけだよ」

「えいこサンだからできたんだ、サンサンを助けてくれてありがとな」


 あ、やっぱりサンサン呼びなんだ。


「失礼いたします」


 ねじ込むようにディナさんが間に割って入ってきた。シャルさんはいつの間にかいなくなっている。


「ご友人とはいえ、妙齢のご婦人に気安く抱きつくなど、騎士にあるまじき行為ですわ」


 私を隠すように大地君に対峙して睨め付けるディナさん。今の言葉は録音して貴女のご主人様に聞かせたい。


「そもそも、人前でそんな事をすると、えいこ様の品性も落としかねません!」


 慎み大事!とばかりにご立腹だ。だから、今の言葉を以下略。


「そうだな、じゃ、ディナには席を外してもらおうか。俺は今から、散々心配かけんなって念押ししたのに約束破った事について、こいつに話があるんだよ!」


 どうしよう。しおらしく謝るか、ディナさんに付くか。


「生憎、保護魔法の無いえいこ様の護衛を主人から承っておりますので」


 つーんっという音が聞こえそうな勢いでディナさんははねつけた。頑張って!


「俺がいるから問題ないだろう?」

「部下の方が呼びにいらしたらどうするんです?」

「それ言ったら、さっきウランさんとこいつ二人っきりだったろ?!」

「ご主人様が席を外されるタイミングはシャルも私も分かりますもの!『忠誠の証』舐めないでくださる?」


 そう言って彼女は右耳を髪の上から触ってみせた。

 そうか、ああやって耳を触るのは忠誠を誓っている、という意思表示なのね。そういえば、研究所でサンサンに向かってそういう事している人何人かいた気がする。


「じゃあ、えいこサンに俺が保護魔法かけりゃいいんだよな?」


 うぐっとディナさんが言葉に困った。私も困る。大地君に居場所バレバレは都合が悪い。


「お待ちください!」


 そんなタイミングで、シャルさんが部屋に舞い戻ってきた。


「主人から、えいこ様に提案があります!」

「なんでしょうか?」

「保護魔法ですが、僭越ながら、今回は私とディナにかけさせて頂くのは如何でしょうか?」

「お願いします」


 ウランさんに死角は無かった。

 その報告を聞いて、一瞬呆気に取られた大地君が口を開く。


「決断早えな。俺らより格下のシャル達の方がいい理由は?」


 そりゃ、このために修行頑張ってたもんね。大地君の不満は分かる。

 えいこ様がいいっておっしゃってるからいいんですー。というシャルさんを抑えて私は説明した。


「保護魔法って人間に対してに施されるのが初めてだったから、やってみて初めてわかった事があったんだよ。例えば、魔法をかけた方がかけられた方の居場所がわかっちゃう事とか。だから、せめて相手が女の人の方がいいの。かけられた方も刻印を通して相手の気持ちとか少し分かっちゃったから気まずかったし」


 今は無い刻印の跡を指差す。大地くんは、「それは確かに困るな」と呟いた。


「今回はウランさんが少し危なかったんだけど、一人に掛けて貰うと何かあった時、私がただのお邪魔虫になっちゃうのも困る。今だって私一人で部屋の外に行くのもままならないし……。それにね、二人でかけてくれるって事は十分強い保護魔法なんだと思うの。推測なんだけど、保護魔法を何人かでかける時って、かける人同士の力量が近くないとダメなんじゃない?じゃないと、上書きされるみたいな事言ってたでしょ?」


 シャルサンとディナさんは体躯や雰囲気、仕事での役割も双子のように似ている。その二人が施してくれるなら多分、強いものだろう。


「えいこ様のおっしゃる通りです。私達は一人一人ですと幹部の方々に遠く及びませんけど、保護魔法については、シャルと二人錬成を行えばモートン様に届きます。ですからよっぽどのことがない限り安全だと思います。それに、万一の時はご主人様やテルラ様が上書きできるというのも利点ではないでしょうか?」


 彼の視線はすっと落ちて、何かを考えているように腕組みをした。しかしすぐに両手を挙げた。


「……参った。諦める。しゃーねぇ、おまえらに任せるわ」


 やったぁと、シャルさん達ははしゃいで、「では、今すぐに!」と大地君をそれそれと外に追いやった。

 私はドアから顔だけ出して、「無茶してごめんね。今度から気をつけるよ」と謝った。


「えいこサンの『無茶しない』の信用度はゼロになったからな」


 と諦めたように大地君は返して、仕事にもどっていった。

 さて、新たなる刻印は百合と牡丹。綺麗な刻印ばかりで良かったなと思う。

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