33 その日
前にゲームの流れを書き出したのに、私はすっかり忘れていた。
その日は、図書室の本を粗方チェックし終わったので、そろそろ大地くんを一度せっついてみようかと考えながら、マリちゃんと中庭で遊んでいた。すると突然薔薇の刻印が強く呼んだ。
ウランさんが呼んでる。
初めてウランさんの所有物という実感がした瞬間、私はウランさんの元へ駆け出した。
彼は研究所の、いつもサンサンがいた結界の近くにいる!
研究所はひどい喧騒に包まれていた。
危ないから逃げろという顔見知りの研究者に、ウランさんに呼ばれてると言い押し入る。
研究所の中は意外なほどに静かだった。ただ室内の割に風がそよそよしている。
サンサンが何時もの結界の中で、何故か横になっている。
その近くで、ウランさんが呆然と立ち尽くしてる。
離れたところで研究者達が腰を抜かしたり、立ち尽くしたり、震えたりしている。
「ウランさん!」
遠くで呼んでも聞こえないみたいだったので、近づいて耳元でもう一度呼ぶ。
「ウランさん。どうしたんですか?」
はっと我に返ったウランさんは私を見つめて、「どうして」と呟いた。
「呼びましたよね?わたしのこと。だから来たんです」
手の甲の薔薇を指差す。
とても、切なくて切ない。そんな表情になった。
こんな感情的な顔する人だったっけ?
ウランさんがこんな顔になる何かが起きている。一度目を瞑った彼は今度は慈しむような眼差しで私を見た。
「あなたには、今ここで何が見えていますか?」
「辛そうな顔のウランさんと、所長があそこで寝ているように見えます。後は研究者の方が何人か震えています。部屋はいつも通りで静かすぎるくらいですよ」
聞こえ辛そうな仕草をするので大きな声で言う。
「そう。ですね。あなた、だから。私の声も聞こえるのですね?」
「失礼します」
大声は大変なので顔を近づける。
「何があったんですか?」
ウランさんはサンサンの方向に視線を向けた。
「陛下がバーストしました。意識はありません。魔力を出し尽くすまで、持って三十分でしょう」
「!!」
「次の実験に魔力が足りなかったのです。魔力を計算して結晶を使いました。補充の最中お疲れだったのか少しうたた寝されてたんです」
彼の長い指がが近くの結界を指した。
「実験中、万一魔力が暴発しても中に留める結界です。けれどこれは外からの魔力を止めないものでした」
同じ指が今度は入口を指す。
「魔力の結晶を扱っていた研究者が誤って暴発したようです。あそこから、考えられない事に床で寝ていた陛下に命中しました。現在、結界の中は黒い霧に包まれて暴風が吹き荒れています。その轟音で外でも音が聞こえにくい状況です」
目眩がする。ゲーム内で陛下は確かに死んでいた。それが、今なのだ。サンサンは今、死に向っているのだ。
そして、私の記憶ではこの時死ぬのはサンサンだけでは無い。ウランさんはゲームでは感情のないホムンクルスというキャラクターだった。つまり、オリジナルはこの時一緒に逝ってしまったのだ。
彼は私を強く抱きしめた。
「顔色が悪いですね。でも、今日は倒れないでください。貴女を部屋まで運べません。他の人に運ばれるのも、見たくありません。貴女は守ります。貴女を、守ります。だから、ここで私だけを見ていてください」
耳元に顔を寄せられる。このままでは触れてしまう。でも動けない。
「初めて人を好きになりました。こんな状況で貴女を無意識に呼んでしまうほど、求めてしまうほどに好きだと知りました」
囁く声。耳の縁が熱い。
「もっと早く気付ければ良かったんですが、まぁ、間に合ってよかったとしましょう。今から、私は結界に入ります。このままではこの結界は一時間と持たないので、魔力を結晶に変える魔法陣を中で構築します。それほどの力を扱える者は私しかいませんから」
荒ぶる結界内に入る事は自身のバーストを意味する。
しかし自身のブレーキ力は魔法陣の構築に使うと言っているのだ。その先に待つのは死である。
抱きしめる力が緩んだと思ったら、ウランさんに真正面から見つめられた。強い意志のこもった瞳に吸い込まれそうだ。
「マリちゃんを治す方法を貴女にプレゼントしたかった。それだけは心残りです。えいこサン、貴女を誰より愛しています。だから、私は行きます。これで、さよならです」
ウランさんは私にキスをした。
アルファポリス
大団円EDの作り方 if R18 にて
ウラン×A子のお話しあります。




